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2012年8月16日(木)付

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近隣と靖国―互いにいがみ合う時か

終戦記念日のきのう、松原国家公安委員長と羽田国土交通相が、靖国神社に参拝した。政権交代を果たした09年の総選挙で、民主党は「首相や閣僚の公式参拝には問題がある」と政策集[記事全文]

日朝協議再開―対話の窓を広げよ

日本と北朝鮮の政府間協議が、29日に北京で開かれる。08年8月以来、4年ぶりの再開となる。直接の議題は、終戦前後に北朝鮮で死亡した日本人の遺骨返還や墓参についてだ。だが[記事全文]

近隣と靖国―互いにいがみ合う時か

 終戦記念日のきのう、松原国家公安委員長と羽田国土交通相が、靖国神社に参拝した。

 政権交代を果たした09年の総選挙で、民主党は「首相や閣僚の公式参拝には問題がある」と政策集に明記した。

 民主党政権になってこれまで2度の終戦記念日は閣僚は参拝せず、野田内閣も発足時に「首相、閣僚は公式参拝しない」と申し合わせていた。

 2閣僚はともに「私的」な参拝だと強調し、藤村官房長官も追認した。「公式」な参拝でなければ、党の公約や内閣の方針と矛盾しないと考えたようだ。

 だが、その理屈は通らない。

 靖国参拝をふくめ、一般の国民がそれぞれのやり方で戦没者を弔うのは自然な感情だ。

 一方で、靖国神社には先の大戦の指導者であるA級戦犯が合祀(ごうし)されている。

 そこに首相や閣僚が参ることに違和感を抱く国民は少なくない。侵略された中国や、植民地支配を受けた韓国に快く思わない人が多いのも理解できる。

 首相や閣僚は、日本を代表する立場の政治指導者だ。一政治家でも一国民でもない。公的な配慮を何よりも優先すべきことは言うまでもない。

 小泉元首相の靖国参拝は、中韓両国の猛反発を招いた。両国の参拝中止の要求が、逆に日本では「内政干渉は許されない」とのナショナリズムを沸き立たせた。まさに悪循環だった。

 その教訓を重く受け止めたからこそ、民主党は政権交代後、繰り返し「首相や閣僚の参拝自粛」を確認し、それを実行してきたのではなかったか。

 折も折、日本の植民地支配からの解放を祝う「光復節」の前日、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が、謝罪を天皇訪韓の条件にするともとれる発言をした。

 韓国内には、韓国併合や旧日本軍の慰安婦問題をめぐって強い対日批判がある。それをあおるかのような大統領の発言を、野田首相が「理解に苦しむ」と批判したのは当然のことだ。

 一方、きのうの光復節の演説で大統領は、日本について「未来をともに開いていかねばならない重要な同伴者」と位置づけ、激しい対日批判は控えた。

 急変に戸惑うが、歴史に向き合いつつも、未来志向を基本として進むしか道はない。

 変化の兆しのある北朝鮮との外交。さらには、共益を高める経済連携の強化。日本と近隣諸国には共通の課題が山積みだ。

 歴史をめぐる溝は、互いにいがみ合うことでは埋まらない。近隣での共同作業の積み重ねこそが、時代の要請である。

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日朝協議再開―対話の窓を広げよ

 日本と北朝鮮の政府間協議が、29日に北京で開かれる。08年8月以来、4年ぶりの再開となる。

 直接の議題は、終戦前後に北朝鮮で死亡した日本人の遺骨返還や墓参についてだ。だが、これを糸口に、日本人拉致問題をはじめとする日朝間の懸案を幅広く話し合う場とするよう、政府の努力を求める。

 きっかけは、先週、北京であった遺骨返還などについての日朝赤十字の話し合いだ。

 日本政府は当初、赤十字間の接触には消極的だった。だが、この場で北朝鮮が前向きな姿勢を示し、経済支援の要求もしなかったことで、政府間の話しあいに踏み切れると判断した。

 北朝鮮は、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の新体制になっても、軍事優先の姿勢はそのままだ。一方で、正恩氏が重要課題に掲げる食糧事情の悪さや経済の停滞は、改善されていない。

 正恩氏を支える張成沢(チャン・ソンテク)氏が中国を訪れて経済協力を協議しているのも、苦境を脱するための動きのひとつだろう。

 こうした状況で、かつ、米国や韓国との関係もこじれるなかでの日本への接近だ。何らかの経済支援を引き出す狙いがあるのは容易に想像できる。

 北朝鮮は、08年8月に拉致被害者の再調査を約束したが、直後の日本の首相交代を理由に、調査を棚上げした。

 いまでは、拉致問題は「すべて解決し、これ以上、存在もしない」との態度だ。

 一方、日本が北朝鮮に科している経済制裁も出つくし、日朝関係は手づまりが続いている。

 もとより、北朝鮮との交渉は一筋縄ではいかない。

 かりに遺骨返還や墓参が実現しても、法外な見返りを要求されるかもしれない。拉致問題についても、北朝鮮が態度を改める保証はない。

 それでも対話の窓を開かなければ、何ごとも前に進まない。

 北朝鮮とて、いつまでも中国頼みのまま日、米、韓との関係が改善できなければ、将来の展望は描けまい。

 拉致問題や核とミサイルの問題を解決し、国交を正常化すれば経済協力への道が開ける。

 政府は、そんな説得を続けていくしかない。

 あわせて、やはり08年から中断している米中ロ韓をまじえた核問題の6者協議の再開にも、道筋をつけてほしい。

 故金正日総書記が小泉元首相に拉致を認めてから、来月で10年になる。

 粘り強い交渉を、政府に期待する。

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