アメリカ軍の垂直離着陸輸送機・オスプレイは早ければ10月から沖縄・普天間基地での本格運用を始める予定です。 先日、アメリカ軍が「低空飛行訓練」のルートを明らかにしました。
奄美諸島から東北まで色がついた6つの線が引かれ、訓練はほぼ全国で行われる計画と言えます。 近畿周辺を詳しく見てみると和歌山から徳島の上空を通る「オレンジルート」というルートがあります。 また公表された6つのルート以外にも中国山地を飛ぶ「ブラウンルート」の存在が市民団体などの指摘で明らかになっています。 このようにオスプレイの配備は沖縄だけの問題ではないのです。 轟音を響かせながら、山の尾根と同じ位の高さを飛ぶ戦闘機。 アメリカ軍の“低空飛行訓練”です。 この映像が撮影されたのは四国の中心に位置する高知県本山町。 標高1000メートル級の山々に囲まれ“四国の水がめ”と呼ばれる早明浦ダムがあります. 【高知の市民グループ・和田忠明さん】 「ひどい時には1日3〜4回来た。今は減ったけど」 映像を撮影した地元の市民グループの事務局長・和田忠明さんは、今すぐ低空飛行訓練を中止すべきと主張します。 【高知の市民グループ・和田忠明さん】 「グッと(ダムを)超すためにエンジンをいっぱい吹かす。その時に学校に対する影響、保育園に対する影響は大きい。子どもたちに絵を描かすと真っ黒い飛行機の絵を書く」 【広島の市民グループ・岡本幸信さん】 「特に本山は90年の最初の頃は無茶苦茶だったでしょ?」 【高知の市民グループ・和田忠明さん】 「無茶苦茶、とにかく無茶苦茶な回数。朝も昼も夜も。夜来るんだもん。人が寝付いていた時分にね」 本山町の記録では今年に入り、17回の低空飛行訓練が確認されています。 そしてこの町の上空はオスプレイの低空飛行訓練が計画される「オレンジルート」にも含まれているのです。 アメリカ軍の垂直離着陸輸送機・オスプレイ。 早ければ10月にも沖縄に配備され本格運用が始まります。 ヘリとプロペラ機の両方に変形できる高性能機ですが、墜落事故で死者も出ていて安全性が疑問視されています。 本山町の上空で訓練が行われれば、地元住民に新たな負担が生まれることは間違いありません。 本山町の周辺では1994年、低空飛行訓練中の戦闘機が墜落しパイロット2人が死亡する事故が起きました。 【高知の市民グループ・和田忠明さん】 「船が2艘いて残骸を拾っていた。跡形がないというか、粉々よ。もうとにかく部品だらけ」 現場のすぐ近くには小学校や住宅地が立ち並んでいました。 では低空飛行について日米間のルールはあるのでしょうか? 日本の航空法は「飛行機の最低高度はおよそ150メートル」と定めていますが、米軍機は対象から除外されています。 「日米地位協定」があるからです。 日米両政府は人口密集地への配慮や航空法が定める高度を尊重することで合意していますが、あくまで日本がアメリカに「お願いした」域を出ません。 事実上、米軍機は好きな時に、好きな高さで飛ぶことが可能なのです。 外務省の元幹部も米軍の運用について、こう説明します。 【元外務省・国際情報局長 孫崎亨氏】 「アメリカの基地の主要は沖縄にある。沖縄における運用の仕方をみると、かなり合意・要望を無視して動いている。すると米国全体から見ると7割以上が運用している沖縄で特に問題が無いということであれば、それと同じ運用を日本の本土でも行っていると」 【記者】 「アメリカ軍の戦闘機が離着陸を繰り返す神奈川県の厚木基地に来ました。実際、低い高さで戦闘機が飛ぶというのは、どういう印象なのでしょうか」 【記者】 「この辺りから大きな音が聞こえてきます…真上を過ぎると音の圧迫感があって自分の声が聞こえません」 「かなり大きい音を響かせ左に旋回しながら……空気が割れるような音を響かせながら飛んでいきました」 音圧で車の防犯センサーが誤作動する場面もありました。 オスプレイが低空飛行訓練をした場合、アメリカ軍の報告書によるとその騒音は戦闘機よりも1割から2割程低くなるとしていますが、相当な騒音であることに変わりはありません。 太平洋に面した徳島県南部の海陽町の上空もオスプレイの飛行訓練が予定されるオレンジルートに含まれます。 「海から来て、この山で一気に飛び越える」 県議会の重清佳之議員も低空飛行に長年悩まされてきた1人です。 【徳島県議会・重清佳之議員】 「爆音が凄いですから。10年前くらいはうちの子どもが赤ちゃんだったけど必ず飛び起きる」 議会では国に低空飛行の中止を求める意見書を9回議決。 オスプレイの訓練にあたり6月には10回目の意見書を議決しました。 【記者】 「日本政府はこれまで何も言って来なかった?」 【徳島県議会・重清佳之議員】 「言いませんね。ここの町を飛ぶにしても自治体にも報告・連絡もない。もう少し地元の自治体と話をして地元の意見も聞いて欲しい」 またオレンジルート上にある自治体の知事たちも… 【徳島県・飯泉嘉門知事】 「アメリカではそうした低空飛行を人家のある所ではしないという。アメリカでしないことを日本でやるのはマズいんじゃないかと。はっきり申し上げて」 【和歌山県・仁坂吉伸知事】 「なぜここへ飛んでこないといけないのか。何をするのか、どれくらいの低さで飛ぶのかということを聞いて、日本の防衛・安全保障に対しどれくらい必然性があるんですかということは聞きたい」 と、日本政府に対し苦言を呈しますが、政府はアメリカに対し「地元住民に与える影響を最小限にとどめるよう、引き続き配慮を求めていく」という、これまでの姿勢を変えていません。 オレンジルートでは他のルートと比べて数多くの戦闘機の訓練が繰り返されています。 アメリカ軍の報告書によると去年1年間で467回にものぼります。 それではなぜアメリカ軍がオレンジルートを飛びたがるのでしょうか。
【軍事評論家・岡部いさく氏】 「戦闘機の低空飛行訓練は山を縫うように飛び目標に爆弾を落とすという攻撃任務。オスプレイは山の向こうの目標物に海兵隊員を送りこむというための飛行訓練なんでしょう。四国の地形を使えば例えば海から飛んで行ってすぐに陸地になる。しかも高い山がある。複雑な地形である。色々な地理的条件の中での飛行訓練には適した場所と考えているのかもしれない」 アメリカ軍は世界各地で低空飛行訓練を行っていますが、元外務省の孫崎さんは日本での訓練は大きく異なると指摘します。 【元外務省・国際情報局長 孫崎亨氏】 「イタリアでは(米軍が)夜間訓練を控えるとか色々やって住民への配慮を厳しくやっている。日本はそれが緩い。米軍から見ると他国並みの運用の仕方を取り入れるということは容認できること。しかし容認できるところまで現在の日米関係が行っていない」
“日本の空”は誰のものなのか。 不安を抱える住民の上をオスプレイは全国で330回、低空飛行訓練を行う予定です。