ブログ内検索

  • Google

    WWW を検索
    ブログ内を検索

メンバーの裁判

« 呆れた藤岡市議会 | メイン | 素晴らしきかな沼田市議会 »

2011年12月 5日 (月)

放射能とうんこ

 最初に断っておきますが、至って真面目な話です。
 福島県二本松市のゴルフ場が東電に放射性物質の除去と損害賠償の仮払いを求めた仮処分申請をしましたが、この申し立てもを東京地裁(福島政幸裁判長)が申し立てを却下する決定をしました。これをめぐって、東電が放射性物質は自分の物ではないなどと言ったこともあり批判が渦巻いています。
 この決定について一番詳しいと思われるのはゴルフ場会員権販売会社が公表しているこの資料だと思われるので、これをベースに話を進めていきます。
 一番批判されているのは以下の部分です。(なお、裁判所は、ゴルフ場が除染を要求する権利自体は認めています。ただし、除染するには汚染水や汚染度が出ることから国や自治体との調整が必要であるとしてその権利の行使を認めなかったのです。また、損害賠償を否定したものではありません。あくまでも仮処分の却下です。この辺はほとんど報道されていません。)

「ゴルフ場で計測された空間線量率は、文部科学省が通知した1時間あたり3.8マイクロシーベルトを下回り、ゴルフ場は日常的な利用ではないことから、同省が後に示した年間1ミリシーベルト以下の数値を下回らない限り、営業できないことはないと認定」

 つまり、ゴルフ場側が「文部科学省が通知した年間1ミリシーベルトを超えているから営業できない」と言ったところ、東電が「文部科学省が通知した1時間あたり3.8マイクロシーベルト(年間にすれば約33ミリシーベルト)を超えていないから営業できる」と反論し、裁判所がこの部分については東電の主張を採用したと言うことです。

 興味深いのは、双方とも文部科学省の通知を根拠にしていることです。おそらく、二つの数値の意味が理解されることなく議論が勧められてしまったのでしょう。とても残念なことです。
 また、この裁判所の判断に対する批判の多くが、年間1ミリシーベルトを超えれば健康被害が出る可能性がある、それを見てみないふりをしている裁判所は権力の手先だといったものです。これも、二つの数値の意味を混同したものです。

  私は、こんな主張をいくらしても裁判所の判断を変えることは出来ないと思います。

 そもそもこの手の議論は「基準値を超えれば健康被害が出る恐れがある」と言うことを根拠にしています。そして、暗黙のうちに「健康被害が出る恐れがなければ除染や損害賠償の要求が出来ない」と思い込んでしまっています。これこそが間違いです。裁判所もこの間違いをおかし、こんな判断をしたのでしょう。
 ここは発想の転換が必要です。
 私のお勧めは放射能をうんこに例えてみることです。ゴルフ場のコースにうんこがたくさん盛られていることを想像そてみてください。うんこは誰でも体内に保持しているものです。普通は有害ではありません。コースに盛られたうんこを踏んだくらいでは健康被害など起こるはずもありません。しかし、コースの至る所にうんこが盛られていれば裁判所もうんこをどかせ(つまり除染せよ)という仮処分申請を認めざるを得ないでしょう。そこに、うんこがどのくらいの量であれば健康被害を及ぼすかどうかなどという議論が入り込む余地はありません。もっとも、1グラムのうんこでは、無視できる量と言って却下されるでしょうが、それは健康被害の問題ではありません。
 放射能はうんこと同じで健康被害の有無とは関係なく、それが盛られることは誰でも嫌なものなのです。多くの人が遊ぶ場所であるゴルフ場のコースにあって良いはずがありません。ゴルフ場のコース上にたっぷりうんこが盛られていたら、たとえ健康被害がないとしても、だれも来ません。営業など出来るはずはないのです。それをどかせと言うために文科省による基準値など引き合いに出す必要など全くないのです。それがあるだけで嫌なのです。
 放射能はそういったものですから、本来、年間1ミリシーベルト以下であってもどかせと要求出来るはずです。しかし、それでは原発を含めた放射能の利用が出来ない。そこで、法律で特例措置として、事業者は年間1ミリシーベルト以下なら出しても良いと規定しているのです。みんな年間1ミリシーベルトまでは我慢しましょうと決まっているのです。年間1ミリシーベルトは健康被害の境界値ではないのです。

 おそらく、この裁判官は自宅の玄関先に東電によって「うんこ」が盛られたことを想像することが出来なかったのでしょう。(杉山弘一)

トラックバック

このページのトラックバックURL:
http://app.kazelog.jp/t/trackback/308121/27556963

放射能とうんこを参照しているブログ:

コメント

久しぶりにおもしろい原稿を読みました。一昨日、高崎市で福島の佐藤幸子さんの講演を聴きました。そこでも、この二本松のゴルフ場の訴訟について、東電は「空から降った放射能は関係ない。」と言っていることが話題になりました。杉山氏の原稿を読んで、何が問題なのかがよく分かりました。ありがとうございました。

群馬県民さん
コメントありがとうございます。

 東電もアホな主張をしたものです。そんなこと言わないで、「たしかにゴルフ場の言うとおり東電が除染をしなければならないが、大量の汚染水が出て下流に迷惑をかけるし、汚染土をどこにおいて良いかも解らない。すぐには手の打ちようがなく、どうして良いのかさえ解りません。お金で賠償させていただきますから仮処分は勘弁して下さい。」とでも言っておけばだいぶ印象変わったでしょう。
 裁判所も却下の結論自体は致し方ない面もあるので、「1時間あたり3.8マイクロシーベルトを超えていないから営業が出来る。」なんて変な理由を言わなければこんなに批判されなかったと思います。

私の中学、高校時代の同級生が二本松市に住んでおりまして、以前は「自宅の除染のこと、米のセシウム問題、今度はゴルフ場の問題で、本当に頭にくることばかりだ」と怒っていました。
杉山さんの記事を読んだら、きっと彼女も気持ちがスッキリすると思いました。

東電側も裁判所側も、もう少し発想が豊かな集団なら、互いにうまく説明できたのに…。

田村さん

コメントありがとうございます。

ところで、この本、目から鱗の名著です。被災地の方にもお勧め出来ます。専門家の知恵を利用すると言うことはこういうことなんだとつくづく思います。「最大の発癌リスクは食品そのもの。」「食べると言うことはリスクと向き合うと言うこと。」
1キロあたり何ベクレルなら安全と言った議論が如何にバカげたものかが良く解ります。

「安全な食べもの」ってなんだろう? 放射線と食品のリスクを考える 畝山智香子
http://www.amazon.co.jp/dp/4535586047

良書の紹介ありがとうございます。

昨日は明治粉ミルクが話題になっていましたね。9時のNHKニュースで、食品に詳しい(名前を忘れた)女性専門家が「粉ミルクは7〜8倍に薄めて使用するので、飲ませても大丈夫…」と解説していました。

唖然としました。

新生児や乳児が飲んで、命・体を育むものにセシウムが入っていても、薄めて飲ませたら安心だなんて言われても、赤ちゃんを抱えたお母さん方は怒りますよね!

大人より厳しい別基準値を決めなければならないのに、国は何でも後手だから、いまだにそれすらハッキリしてなくて、いらつくばかりです。

マスコミの報道は恐ろしいです。

 明治の粉ミルクは1キロあたり最大で30ベクレル程度検出されたというものです。
 この値が正しいとして(そもそもここがあやしい)、これを飲んだところでどんなリスクがあるのでしょうか。まともな専門家なら即座に「考えても仕方ない量」と言い切れるはずです。
 国はとっくに幼児も含めた基準(継続的に摂取することを前提)を造っていて、それよりもはるかに低い値です。
http://katukawa.com/?p=4467
乳製品については、乳児を基準に200ベクレル/kgとなっています。(乳製品以外は大人の方が厳しいことに注意)
 畝山さんの本を読んで頂ければ、お解りになるでしょうが、この程度の放射能なら、食品に自然に含まれているヒ素やカドミウムの発癌リスクの方が桁違いに高い(もちろん規制値以下)のです。

 そういうことには触れずにあたかもセシウムだけが食品のリスクで、微量でも影響が出るかも知れないと思わせるような記事になっています。こう書かないと記事にならないんですよね。今だから記事になる、今しか記事にならないのだと思います。

 そもそも、明治の粉ミルクの材料は震災前に作られたものらしいです。明治は工場での乾燥過程で外気からセシウムを取り込んだと考えているようですがこれも納得がいくものではありません。
 工場は埼玉県の春日部市ですからもし外気が原因だとすると、工場周辺に住んでいる方はずっとその空気を吸っていたわけです。相当の被曝をしているはずです。当然乳幼児もいるわけで、そちらの方が心配です。報道はそうはなっていません。
 もっとも、当時のセシウムの空気中濃度は関東では10Bq/m3程度だったようです。これは自然にある屋内のラドン濃度15Bq/m3と同レベルです。(これは、屋外でのセシウム被曝を避けるため屋内に留まるとかえって被曝が増えるかも知れないというレベルです)
 被曝リスク低減という点ではどこにでもあるラドンの規制を考えた方がはるかに有効だと思います(ラドンの多い欧米では規制がありますが日本はありません)。

 放射能は「いやだ」という気持ちを健康被害に直接結びつけるべきではないと思います。

(社)日本産科婦人科学会

乳児用粉ミルクの放射性セシウム汚染について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内

http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_20111208.html

明治の粉ミルクについての冷静な分析です。
http://d.hatena.ne.jp/akatibarati/20111206/1323192061

http://numata-city.kazelog.jp/numata/2012/02/post-6a92.html#comment-48707597

違うエントリへのコメントで
誤字の指摘を頂きました。
4カ所、賞を省に訂正しました。

menchanさんありがとうございました。

コメントを投稿

2012年8月

      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

最近のトラックバック