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« TPPで二分した国論 | メイン | 放射能汚染とどう向き合うか »

2011年11月 7日 (月)

安全とは何か。

 利根沼田でも放射線量率をめぐって安全論議が盛んです。例えば、川場村ホットスポットと題するブログ記事では、こんな意見が交わされている。

こんなに高い値なのに、本当に害はないのでしょうか?
政府や公的な関係からの本当の事が知りたいですね。
関東全域の値においても疑問があります。
国内の知識、基準ではなく世界的な安全基準に照らして間違いないことを誰か教えてくれませんか?

 この手の議論が混乱するのは、「安全とは何か」ということを考えていない事が原因だと思います。安全とは何かについては、40年以上も前に反原発の立場で発言を続けていた物理学者の故武谷光男が『安全性の考え方』(岩波新書)で解りやすく書いている。

 「放射線というものは、どんなに微量であっても、人体に悪い影響をあたえる。しかし一方では、これを使うことによって有利なこともあり、また使わざるを得ないということもある。その例としてレントゲン検査を考えれば、それによって何らかの影響はあるかも知れないが、同時に結核を早く発見することもできる というプラスもある。そこで、有害さとひきかえに有利さを得るバランスを考えて、〝どこまで有害さをがまんするかの量〟が、許容量というものである。つま り許容量とは、利益と不利益とのバランスをはかる社会的な概念なのである。」

 安全とは相対的なものなのです。被曝量に安全基準などと言うものはあり得ないのです。少なくとも、ICRP(国際放射線防護委員会)はそのような考え方を採用しています。

 では、どんなに少量でも被爆を避けなければならないのでしょうか。
 これもまた違います。

 乳がんなって、医者に放射線治療を勧められたとします。医者は、2(2000ミリ)シーベルトの被曝をするが、安全だから大丈夫だと言います。このケースではたしかに安全だと評価すべきでしょう。なぜなら、癌を治療するメリットの方が2シーベルトの被曝より大きいからです。ここでは、2シーベルトが基準値なのです。
 乳がんのマンモグラフィ検査でも放射線を使います。そのとき、2シーベルトを被曝する事が安全でしょうか。安全のはずがありません。検査のメリットは2シーベルトの被曝よりも小さいと考えられているからです。それだけではありません、現実に癌治療の2万分の1の0.1ミリシーベルト程度の被曝で検査が出来るからです。ここでは、0.1ミリシーベルトが安全で2シーベルトは危険なのです。
 癌の治療に戻ります。医療機器が進歩して、10分の1の0.2シーベルト以下の被曝で癌の治療が出来るようになりました。そうなると、2シーベルトは危険です。基準値は2シーベルトではなく0.2シーベルトにすべきです。

 では原発事故です。

 原発事故起因の被曝は医療と違ってメリットなどありません。だから、少しの被曝でも避けるべきです。これが基本です。だから、東電に対しては、原発起因の被曝をゼロにしろと要求することが出来ます(法律上は年間1ミリシーベルトまでは許されています。)。健康被害が出るかどうかとは関係なく要求出来るはずです。

 ここで健康被害が出なくても要求出来るの?と疑問に思われるかも知れません。でも、道を歩いていて泥水をかけられたケースを考えてみて下さい。健康被害とは関係なくクリーニング代を請求出来ます。悪いたとえですが東電は糞尿のようなものをばらまいたのです。仮に、健康被害がないとしても、除染しろと要求出来るはずです。

 問題はそのあとです。

 では、どんな少量の土壌汚染でも東電に除染させるべきでしょうか。
 1ベクレルでも汚染された食品は食べるのを避けるべきでしょうか。

 実際に土壌の除染を行えばデメリットがあります。建物を洗うぐらいなら大きな問題はないでしょうが、それでも作業者が被曝します。また、森林の大規模除染となれば、土をはがすのですから環境破壊にもなります。だから、被曝のデメリットと除染のデメリットを比較して、よりデメリットの少ない方を選ばざるを得ないのです。デメリットが大きく現実の除染作業が出来ない分については、お金で解決するしかないのです。

 食品についても同じです。1ベクレルでも汚染された食品を避けようとすると食べるものが無くなります。また、生産者を苦しめることになります。それは回り回って消費者に跳ね返ります。どこかで、被曝を避けるデメリットのほうが、我慢して摂取するデメリットよりも大きくなります。

 デメリットがバランスする点をどこに見いだすか。これは状況によって異なります。日本中が大規模に汚染された状態では高くなります。そうしないと食べるものが少なくなって、栄養障害のデメリットが大きくなります。事故が収束し、汚染地が少なくなってくれば、容易に放射能が少ない食物を入手出来るようになるのですから、バランス点は下がってきます。そうなったら、当然、基準値も下げていくべきです。

 そして、そのバランス点を決める一つの目安が、自然放射線です。1年間で、自然放射線を1.5mSv 受けています。地域による差もかなりあります。年間2mSvを1.5mSvにするために、大規模な土壌の入れ替えが必要でしょうか。

 食品の中にはカリウム40という放射性物質が含まれていて、私たちは毎日50から100ベクレル程度摂取しています。そのような状況で、10ベクレルのセシウムの摂取を避けるために、好きなものや栄養価の低いものを食べる意味があるでしょうか。

 今利根沼田はこのレベルの汚染です。このようなレベルの被曝を避けようとするとかえってデメリットが多くなります。東電に賠償請求をする範囲にとどめておくのが、本当の安全だと思います。(杉山弘一)

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