国が亡びるということ
人のものをとってはいけません。これは社会生活の原則のなかでも最も基本的なルールです。この基本を守り維持する役目をしているのが警察です。人のものを盗む泥棒を捕まえるのがお巡りさんの仕事です。ところが、この国でこのところわかってきたことは、泥棒を捕まえるのを仕事にしている警察の幹部たちが、部下のお巡りさんが使うように国が支出している捜査費や交通費を泥棒し、幹部たちの遊興費や交際費として使っている、というびっくりするようなことです。北海道警察の幹部だった原田宏二さんがこの「裏金」を告発し、道警は初めは頑強に否定していましたが、遂に事実を認め、幹部たちやOBが九億円ほど北海道庁に返しました。
これは新聞に報道されましたからご存じの方も多いでしょう。道警は、裏金があったことを認め、返しました。けれども、それで処罰された幹部はひとりもありません。泥棒していたのに、盗んだ犯人は、盗んだ金の一部を返しただけで、犯罪のお咎めはありません。
東京電力が原発事故を起こし、放射線の汚染によって何万人もの人々が住む家を追い出され、耕していた農地を失いました。東電は賠償をすると言っていますが、さっきまで原子力は安全だ、と言っていた、つまり嘘をついて騙していたこと、十分な安全対策を怠っていたことで刑事罰に問われた人は一人もいません。保安院とか原子力安全委員会などとありもしない安全を吹聴し、多くの人々を騙していた連中も誰一人処罰されていません。原発などという危険なものを持ち込んで国土に放射能汚染をもたらした政治家や役人は素知らぬ顔です。
最近、『恥さらし』(稲葉圭昭著講談社)という本が出ました。これは、北海道警察の「エース刑事」だった著者が道警幹部や上司が了解承認した「違法捜査」を行い、銃器摘発の実績をあげながら、幹部や上司に裏切られ、絶望に追い込まれて行った半生の正直な告白です。
この本には、捜査に必要なエス(情報提供者)を自費で維持することの困難さ、それを知りながら、捜査費は裏金に回し、エスの維持を刑事個人の「甲斐性」にして平気な上司。手柄を立てたい一心で違法捜査を「やれ」と命令しておきながら自分の不手際で大失敗し、130キロの覚醒剤を輸入し、騙し取られてしまう。失敗を隠し何食わぬ顔でうやむやにして済ます幹部たち。これを嗅ぎつけた北海道新聞のスクープも道警の反撃に遭い、道新は記者を処分、謝罪文を書いて隠蔽に加担する。稲葉さんの本であのスクープがみんな事実だったと知って、道警や道新の幹部はどう落とし前をつけるつもりか? 得意の完黙を決め込むつもりか?
著者の意図は懺悔録を書くことだったのでしょうが、図らずもそこに如実にあからさまになったのは、道警という政府組織の救いのない実態です。幹部や上司と稲葉警部が呼ぶ人物はみなそろいもそろって胡散な人々ばかりなのです。稲葉の上司が特に劣等児だったということは考えられませんから、警察というところはこんな連中がのさばる暗黒世界だと見るのが正しいのです。幹部は部下のカネを公然と盗む泥棒です。そのことは幹部自身が一番良く知っています。だから幹部は部下にモラルを説くことができません。泥棒が部下に泥棒はいけないとは言いにくい。こんな幹部がモラルを説けば、偽善です。本人も聞く者も、「嘘ばっかり」と白ける。「誠意を持て」「公明正大に」「責任を全うせよ」みんな白けることばかり。上司が部下に演説する言葉がない。
警察だけではない.。経産省も、東電も白けている。特捜検事も白けている。県知事も白けている。役所はどこもかしこも白けている。日本は白けきって亡びる。どっちらけで滅亡する世界で最初の国となる。白けた話である。(峯崎淳)
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