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2011年9月21日 (水)

冷温停止に騙されるな

 細野豪志原発事故担当相がIAEA総会で、福島第1原発の「冷温停止」の時期について、12年1月の目標期限を前倒しして「年内をめどに達成すべく全力を挙げる」と約束したことがきっかけで、「冷温停止」に対する誤解が広まっているようだ。

 冷温停止とは、「全制御棒を炉心に挿入して未臨界にし核分裂反応を停止させ、原子炉プラントの冷却および減圧を行った後の原子炉の状態をいう。普通は原子炉プラントの定期 検査などのように長期間原子炉を停止する場合である。原子炉プラントの機器・系統の保全管理上、原子炉水は必ずしも常温(約20℃)になっているとは限らない。」(ATOMICA)である。

 しかし、福島第1原発1~3号機は、炉心が融けてしまっているのだから、炉心にあった制御棒など融けてなくなっている。制御棒を挿入して未臨界にするという概念が存在しない。(地震直後は制御棒が存在し未臨界になっていた。)
 また、4号~6号機は、地震時には、冷温停止状態であった。それが事故を起こしたのである。冷温停止など安全性の上でまったく意味のないものであることは明らかである。

 そこで、政府は摂氏100度以下になったことをもって事故炉の「冷温停止」と勝手に定義を造ったようだがこれも技術的には意味がない。意味があるとすれば政治的な意味だけだ。

 炉心が融けた1~3号機では、融けてしまった燃料を冷却する必要があるのは言うまでもない。核分裂が止まった後も、燃料(といっても融けたデブリ)は発熱を続けるからだ。誤解のポイントなので、何度も言うが、燃料が熱くてなかなか冷えないのではない。いつまでも、燃料が発熱を続けるのである。一度冷やしても、発熱量に見合う冷却が出来なくなれば、温度がどんどん上昇してしまうのである。一度冷えて固まった燃料もまた溶け出してしまうのである。

 だから、一度、100度以下になったとしても、冷却が止まれば、炉心が溶け出し放射性物質が漏れ出る恐れがある。また、水が放射線分解され水素と酸素が発生しているから、水素爆発の恐れも残っているのである。100度以下になったことなど意味がないのである。

 そして、やっかいなことに、冷やしすぎも良くないのである。 

 融けた燃料の大部分が溜まっているだろうとされる原子炉圧力容器は鋼鉄で出来ている。冷やしすぎるとこれが脆くなって、壊れやすくなるのである。タイタニック号の事故はこれが原因である。温度の低い海水によって、船底が脆性破壊したのだ。
 鋼鉄は温度が高いと延性(ねばっこい)になり、ある温度以下になると脆性(もろい)になる。この温度を延性脆性遷移温度という。やっかいなことに原子炉の場合、中性子の照射によって、この延性脆性遷移温度が運転期間に従ってあがっていくのである。高温でも脆く壊れやすくなるのである。これは、中性子照射量が多い加圧水型でより問題になるが福島のような沸騰水型でも無視して良いものではない。
 加圧水型の玄海1号炉では、延性脆性遷移温度98度まで上昇しているというデータさえある。冷却しすぎにも注視する必要があることは明らかである。

 冷やしすぎて、圧力容器が脆性になっているところに地震でも来れば、圧力容器が破損する恐れがあるのである。圧力容器の底に溜まっている燃料が注水でうまく冷却出来ているとすれば、容器の破壊でそれが出来なくなる恐れがある。その結果、また燃料の温度が上昇すると言うこともあり得るのである。

 これが、炉心溶融事故の怖さなのである。

 100度以下にすることなど、これまで何時でも出来たのである。注水量を増やせば良いだけで。しかし、冷やしすぎも恐くてしなかっただけだ。冷やしすぎに気をつけながら、しかも確実に冷却を続けることが必要なのである。

 100度以下にこだわる必要などまったく意味がない。焦ってはいけない。温度を下げることよりも、冷却系のバックアップを造ることの方がはるかに重要である。電源が失われたり、ポンプが故障したり、配管やパッキンに漏れがあったときも確実に冷却水を循環するようにさまざまな対策をとる必要がある。

 冷温停止に騙されてはいけない。(杉山弘一)

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コメント

やはり、水素が溜まっていたようです。あわてて温度を下げる段階ではないと言うことです。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110923/dst11092314300005-n1.htm

水素濃度1%以上。実は、100%だった。
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110924k0000e040047000c.html
事故の収束には、まだまだ時間がかかります。

このニュースの「配管内の気体は水素でほぼ満たされている」「100%が可燃性ガス」というのは意味が解りません。記者さん、理解しないまま書いていますね。

10月2日の毎日新聞です。
冷温停止より意味のある情報です。

http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20111002ddm003040117000c.html

「余震などで東京電力福島第1原発への注水が38時間止まると、核燃料が再溶融するとの推計結果を、東電が1日、発表した。東電は「現在の注水系はバックアップ機能を備え、単一トラブルの場合は30分程度で注水を再開できる」と説明し、万が一の有事対応のための分析としている。」

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