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2011年7月29日 (金)

安全審査の実態

 安全審査について、多くの皆さんが誤解していると思われる点について述べておきます。

 第1に、審査の内容です。
 よく、保安院と安全委員会でダブルチェックをしているから安全だと言われています。しかし、安全審査とは設計の隅から隅までを網羅的にチェックするものではありません。キングファイル100冊もの基本設計書(メーカーの元にはもっと膨大な資料があります)をA43cm程度の暑さにまとめた設置許可申請書の添付資料8(テンパチと呼びます)が提出され、これを元に審査されるのです。もちろん規制側から要求があれば、追加の説明資料は出さなければいけませんが、審査する先生が興味がある点だけがチェックされるに過ぎません。チェックされるのは基本的な問題点で、細かな設計の一つ一つがチェックされる訳ではありません。まして、委員の先生方はそれぞれの分野の専門家でしかなく、プラント全体の設計の専門家ではありません。設計全体のチェックなど出来ません。
 結局、設計全体の整合性については、設計をしたメーカーの技術者が責任を持ってチェックするしかないのです。しかし、前任者の設計を引き継いだ際、確認をしたら計算が間違っていたことが判明したなんてことはざらにあります。あまりにも細分化しすぎて全体をチェックできる人はいないのです。さらに、設計現場では常に経済性のことが言われます。設計者には如何に安くするかという課題が常に突き付けられているのです。これほど複雑化したシステムをミスなく設計をするというのは神業でしかないと思います。

 第2に、審査の目的です。
 安全審査とは、原子力発電所を造るための手続の一環に過ぎません。通すことが目的ですから、出来る範囲での設計改良を求めることはあっても、出来ないことを求めることや、落とすことは絶対にあり得ないということです。
 新型転換炉実証炉の基本設計のとりまとめを担当していたときのことです。これまでの軽水炉の安全審査では、配管と弁はすべて破断を想定することになっています。原子炉容器だけは破断を想定しないことになっています(この点はまた別に述べたいと思います。)。
 しかし、新型転換炉実証炉には、ウォータードラム逆止弁という重要な機器がありますが、この弁だけは機能上破断想定することができないのです。破断するとアウトなのです。非常用炉心冷却系が作動しても逆止弁のところから漏れてしまい炉心に水が行かなくなってしまうのです。
 これが長年問題になっていましたが、客先(電源開発)からそろそろ本気で考えてくれと指示がありました。ところが、担当部門から出てきたのはこんな言い訳です。「容器とは水を入れるもので、一時的にしろそこで水の停留がなされるものを言う。逆止弁にも水の停留する場所がある。だから、逆止弁は容器と言えなくもない。よって破断を想定しなくて良い。」 
 何のことはない、国語辞典で容器の意味を調べ屁理屈を並べただけです。
 私は、「もっと本質的な理由を考えなくてはダメだ。こんなことでは安全審査が通らない。真剣に考えてくれなくては困る。」と担当部門に食ってかかりました。上司にも進言しました。そうしたら、こんな風になだめられてしまったのです。
 「安全審査は通すためにやっているんだ。安心しろ。いずれ何とかなるから、そうカリカリするな。」

 第3に、審査の担い手です。
 安全審査は、メーカー、設置者、審査側の共同作業でしかできないということです。これは審査の場面だけではありません。安全審査に用いる指針類の作成も含めて共同作業なのです。特に、私がやっていた新型炉は開発段階ですからその傾向が強かったです。設計をしながら、指針を作り、審査の準備をするといったイメージです。
 多くの方が、安全基準が先にあって、それに照らして審査をするというイメージを抱いていると思いますが、これは違います。設計と別に安全基準があるわけではないのです。設計がある程度進まないと安全基準も作れないのです。だから、安全審査の指針作りにはメーカーが関与します。これを原子力村の癒着という方も多いのですが、そういう見方は技術の本質をとらえているとは思えません。
 例えば、未来の話として、自家用宇宙船を想像してみて下さい。これの安全基準をどう作るを想像してみて下さい。自家用宇宙船のイメージが出来ていなければ、安全基準など考えることも出来ないのです。新しい技術では、安全基準よりも先に設計があるということです。ある程度設計が出来て、始めて安全基準のことが考えられるのです。したがって、技術開発の初期段階においては、メーカー、設置者、審査側の共同作業で安全基準が作られるというのは必然なことなのだと思います。
 福島第1原発が造られたのは、40年以上前です。日本に導入されだした初期の原発です。安全審査も指針もまさに手探りの状態だったと思います。メーカー、設置者、審査側の共同作業であったことは間違いありません。

 安全審査は所詮この程度のものです。安全審査は安全確保のための必要条件ですが、十分条件ではありません。安全審査あるからそれで安全が確保されていると思うことは、我が国は裁判があるから冤罪はないとか、法律があるから犯罪は起きないと思うのと同じだと思います。(杉山弘一)

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