原子力発電の何が危険か。
原子力発電と言っても単なる湯沸かし器に過ぎません。その点は火力発電と同じです。違いはウランなどの核分裂反応を熱源としていることです。原子の火です。それが危険性の根源です。
原子の火の第1の特徴は、膨大な熱が発生することです。米粒よりも少し大きい程度のペレット一つで、石炭3トンに相当する熱を出すのです。桁違いなのです。しかも、1年間入れたままで運転します。
第2の特徴は、核分裂が連鎖反応であることです。一つの核分裂が起こると次々と連鎖的に核分裂が起こるのです。この連鎖反応が一気に進むと核爆弾です。そこで、原子炉では連鎖反応をコントロールします。コントロールは制御棒で行われると良く言われるのですが、それ以前の話として負のフィードバックとなるように設計する必要があります。負のフィードバックとは反応が進むとそれが原因となって反応が抑制されることです。正のフィードバックはその逆で、反応が進むとそれが原因となってますます反応が進んでしまうことです。これでは制御棒だけでは制御できません。だから、原子炉は負のフィードバックとなるように設計することが大切です。火力では負のフィードバックは当然のことですから、考慮することはありません。チェルノブイリ炉は低出力で正のフィードバックになるような設計がなされていました。事故の大きな要因です。原子炉はそんなことまで考慮しなくてはいけないのです。
第3の特徴は、もっともやっかいな点ですが、核分裂生成物が出来ることです。ウランなどの核分裂の結果、さまざまな放射性物質ができます。しかも、膨大な量です。これは人体に有害な放射線を出します。だからこれを閉じ込めなくてはいけません。燃料ペレットとそれを覆う被覆管の中に閉じ込めたままにしておく必要があります。
さらにやっかいなことに、核分裂生成物は発熱します。放射線を出すということはエネルギー出すと言うことです、このエネルギーが熱に変わるからです。これを崩壊熱と言います。発熱量は時間とともに減っていきますが、何年もの間、冷やし続けることが必要になります。この点を、誤解されている方が多いのですが、核分裂を止めても熱くなっていた燃料がすぐには冷えないのではありません。核分裂の火を止めても崩壊熱という火が付いたままで消すことが出来ないのです。だから、冷却できなければ燃料が冷えていかないのではなく、どんどん熱くなるのです。しまいには、燃料被覆管が融けてしまいます。さらに、燃料ペレットも融けてしまいます。そうすると閉じ込められていた核分裂生成物が出てきてしまいます。
さらにさらにやっかいなことには、燃料被覆管に使われているジルコニウムという特殊な金属が、水と反応して水素を出します。水素は大気中の酸素と反応して爆発します。ジルコニウムというのは聞き慣れない金属ですが、頑丈なので使われているのではありません。アルミに毛の生えたような金属でステンレスよりも弱いのです。ただし、中性子を吸収しにくいという性質を持っているのです。ステンレスは中性子を吸収しやいので、これを使うとと核分裂の連鎖反応が起こせなくなってしまうのです。
考えるだけで大変になってきます。だから、安全だと思える神経が解りません。
このように、冷却と閉じ込めが原子力発電の生命線です。そのために、非常用炉心冷却系(ECCS)と格納容器があります。いずれも、事故対策としてだけ付けられた装置です。そしてこの二つが安全の砦です。(杉山弘一)
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