JCの公開講座に期待する
沼田青年会議所から、6月18日の公開講座の案内を頂きました。
「放射能で本当に知っておきたいこと ~今、何が安心で何が危ないのか~」と題して、講師を呼んで原発問題を取り上げるとのことです。タイムリーな企画で、関係者のご苦労には敬服します。
ただし、講師の進藤勇治氏は、元通産官僚で政府よりの方のようです。この時期に、不安を増長させている方に対して、説得力がある立場かなと気になります。そこで、進藤勇治氏がどんな見解を持っているのか、調べてみました。
進藤勇治の環境ブログに、原発事故と放射能汚染という記事がありました。沼田では、反体制派と目されている私の視点で評価してみます。
第1段落を全文引用します。
Q:原子炉の爆発というような最悪の事態は起こるのか?放射性物質が放出・飛散しても、その濃度は距離の二乗に反比例します。
A: 圧力容器もしくはそれを格納する格納容器で核燃料による爆発というような事は起こり得ないでしょう。そもそも原子力発電所はそのように設計されています。制御棒により反応は制御されており、再臨界に至る可能性は極めて低い状態です。また、水素爆発とチェルノブイリ原発で起こった核燃料による爆発は本質的に異なるものです。ただ、臨界状態でなくても燃料棒は発熱しており、そのままにしておくと圧力容器は高温、高圧になります。それを防ぐためには圧力容器に水をかけ冷却する必要があります。
「核燃料による爆発というような事は起こり得ないでしょう。」について、
核燃料による爆発を核分裂による爆発と限定的に解釈すれば、起こりえないと思います。ただし、水素爆発も水蒸気爆発(起こらなかったけど起こりえた)も広義の核燃料による爆発ですから、正確ではありません。
「そもそも原子力発電所はそのように設計されています」について
この部分はいただけません。そのように設計されているけど、その設計が間違っていたり、設計通りに造られていなかったから事故が起こったのです。こんなことをいえばかえって信用が無くなり、不安が高まるだけだと思います。
「制御棒により反応は制御されており、再臨界に至る可能性は極めて低い状態です。」について
これは全くの間違いです。再臨界にいたる可能性が低いのは制御棒で反応が制御されているからではありません。そもそも、今は、制御棒など融けて形を残していないでしょう。それがメルトダウンです。再臨界に至る可能性が極めて低いのは事実ですが、その理由は別にあります。
第2段落を全文引用します。
Q:東京は本当に安全か?
A:福島第一原発から200km以上も離れている東京は、今後も想定されるいかなる事が起こっても重大な事態に直面することなく安全でしょう。原発で爆発などの事態が発生して放射性物質が放出・飛散しても、その濃度は距離の二乗に反比例します。原発から1の距離の場所と比較しますと、東京では約4万分の1の濃度になります。その日の天候により風向きは変わりますが、一般には偏西風の影響で、放射性物質は太平洋上に飛散していく場合が多いです。
「放射性物質が放出・飛散しても、その濃度は距離の二乗に反比例します。」について
これが間違いであることは、もはや常識でしょう。放射線の強さは距離の2乗に反比例するでしょうが、放射性物質は距離だけで決まらず、風などの気象条件が大きく影響します。この講師本当に大丈夫でしょうか?心配です。つぎは、第3段落を全文引用します。
Q:停電は続くのかどうか?
A:1 年で電力の需要が一番大きいのは、冷房が必要な夏の昼間の時間帯です。夏までには3~4ヶ月程度の時間がありますので、休んでいる火力発電所を運転した り、民間の火力発電所の運転増強や、さらに火力発電所の新設を急げば、停電を避ける見通しがつくでしょう。夏までに電力の供給量を上げることは、まさに国 の総合力が問われる事で、日本にはそれを実行できる力をまだ十分に持っています。
これは、そのとおりだと思います。つぎは、第4段落を全文引用します。
Q:放射能汚染された地域は、これから何十年も汚染が残るのか?
A: 放射能汚染は、早ければ本年の6月、遅くとも本年の秋頃までには解決する可能性があります。梅雨前線や秋雨前線による大雨や集中豪雨、もしくは台風の襲来 により大半の放射性物質は流されます。そして、陸地および海洋ともに放射線の測定値が基準値以下になれば、行政機関が安全宣言を行うことにより汚染問題は 終結となるでしょう。
広島や長崎に原爆が落とされた後、今後70年は人畜の生けていけない土地になると言われましたが、直ぐに人が住み復興がなされています。原爆が投下された翌月、有名な枕崎台風が日本を襲いました。この巨大台風により放射性物質が洗い流されたとも言われております。
尚、大陸の西側にあるヨーロッパでは地理的に、東アジアのような台風や豪雨などはありません。放射性物質が洗い流されるというような事のないチェルノブイリでは、相当の期間にわたり放射能汚染が残ることになるでしょう。
「放射能汚染は、早ければ本年の6月、遅くとも本年の秋頃までには解決する可能性があります。」について
雨で流されるのはたしかだと思います。下水道の汚泥から比較的高い値の放射性セシウムが検出されているのはその証拠です。しかし、雨で流されるということは、河川や海が汚染するということです。また、流れずに、土壌にしみ込んでしまう分もかなりあるでしょう。だからこそ、農産物に移行することが懸念されているのです。
「放射性物質が洗い流されるというような事のないチェルノブイリでは、相当の期間にわたり放射能汚染が残ることになるでしょう。」
これは、根拠ないでしょう。チェルノブイリに雨が少ないといっても、福島での数ヶ月の降水量と25年間にチェルノブイルで降った雨量ではどちらが多いか明らかです。また、このような発言は、チェルノブイルの人々を差別することにつながりかねません。
こんなデタラメ言ったら、余計不安が大きくなるのではないでしょうか。この講師本当に大丈夫でしょうか。つぎは、第5段落です。
Q:原発事故の影響は
A:原発からひとたび放射性物質が排出された場合は、何らかの形で放射能汚染と風評被害が発生します。一番影響を受けるのは農業です。
原発事故後において、発電所敷地内の事は科学技術の世界です。しかし、発電所の敷地外の事は科学や論理の世界ではなく、心理学の世界となりましょう。国民多数が、原発事故に伴って発生する事態を科学・技術的に正確に理解することは不可能に近いと思います。それゆえ、原発事故は絶対に起こしてはならない事で したが、起きてしまいました。
エネルギー資源のほとんどを海外に依存している日本は、エネルギー安全保障の観点から、今後も原子力の利用は必要と理性的に考えても、現実は原子力発電所 の新規建設はまず不可能で、既存の原子力発電所も順次停止に追い込まれる可能性が大いにあります。国民の経済的負担を最小限に抑える事を考えますと、原子 力に代わるエネルギー源としては、当面は火力発電に頼る事になるでしょう。
おおむね、その通りだと思います。ただし、原子力に頼っている現状の政策の元ではという条件付きで、原子力の利用が当面必要なのであって、そもそも原子力推進政策をとっていなければ、原子力は必要なかったのです。「原子力にサヨナラをする」というように政策の舵を切れば、段階的にではありますが原子力の必要性は減少して、何年後(何十年かも)にはまったく不要になります。
なお、「国民多数が、原発事故に伴って発生する事態を科学・技術的に正確に理解することは不可能に近いと思います。」は、進藤氏を見れば明らかなことですが、その進藤氏からは言われたくないです。
では、次の段落です。
Q:メルトダウンは本当に起きていないのか、政府は噓をついているのか?
A:東電が発表している圧力容器の温度や圧力のデータから判断すると、間違い無くメルトダウンが起きていると判断できます。さらに、高温状態になった圧力容器内では水が直接熱分解して水素が発生しているでしょう。
原子力事故の早期の収束を図ることは一番に大切な事ですが、国民にパニックが起きたり、さらに大混乱や騒擾が発生しないように努めることも政府の役割と考 え、政府は噓はついていませんが、事実やデータを公表しない(隠す)などの情報のコントロールしていることは確実です。
「高温状態になった圧力容器内では水が直接熱分解して水素が発生しているでしょう。」について
これは間違いです。水素は主に燃料棒被覆管のジルカロイという金属が水蒸気と化学反応することで発生しました。これはある程度(約700度)の高温が必要ですが高圧である必要はありません。また、水蒸気が放射線によって分解されることでも水素は発生します。こちらが今問題になっているのですが、高温である必要もありません。
講師の進藤勇治氏はエネルギー問題の専門家なのでしょうが、原子炉や放射線についてはまったく無知な素人だと思います。調べもしないで良くこんなデタラメが言えるものだと思います。肩書きだけの人物です。だから、極端な反原発派の方に簡単に論破され、不安がますます拡がるのでしょう。進藤氏は、なぜ政府の言っていることが、本当のことまで国民に信用されないのか、その理由を考えた事もないようです。
(追記)
進藤勇治氏は、エネルギー・環境問題と原子力と題する記事も書いています。
http://shindoyuji.blog.ocn.ne.jp/environment/2009/03/post_f257.html
その中で、柏崎原発事故について、「不安を徒に煽るような報道がさかんに繰り返され、その事象が重大なことなのか、安全に全く問題がないことなのかなど、正確な情報がほとんど国民に伝えられなかったことは、大変残念に思います。」といっています。
これはまったくその通りだと思いますが、その前の「一つは、あれだけの大きな揺れが観測されたにも関わらず、原子炉本体は安全であった事実は、安全性第一の原子炉の運転目標から考えて、大いに安堵させられることでした。」は全くのデタラメです。
元通産官僚が柏崎の事故についてこんな程度の認識しかないから、福島で事故が起こったのです。柏崎では、活断層を発見した学者が何度も地震の危険性を訴えていました。それを無視し、隠蔽までして放置してきた結果、大事故になりました。津波が来なかったので福島のようにはなりませんでしたが、事故を招いた構造はまったく同じです。もし、保安院や東電が、柏崎で起きたことを真摯に受け止めていれば、福島の事故は防げました。
こういう輩が原子力をダメにしたのだろうと心底腹が立ちます。こんな脳ミソでも工学博士!博士も落ちたものです。
こういった評価があるということも参考にして、講演を聞くことが有意義だと思います。(杉山弘一)
早速取り上げて頂きありがとうございます。昨年、理事長で今年は直前理事長(顧問と言ったところです)の加賀美です。
4月に片品村役場でボランティアの方が行った、「放射線・放射能のおはなし」(講師 群馬環境カウンセラーの綿貫孝司氏)に出席させて頂きました。この時はどちらかといえば一時帰宅を控えた南相馬の方々向けの話だったような気がしますが、大変勉強になりました。
その後、行政の方々にこの放射能問題の重要性や公として行うことの意義をお話しして、行政による開催や我々との共催を模索してみましたが、思うようにはなりませんでした。
資金的に行政から援助してもらっていない(社)沼田青年会議所としては「協働」によるまちづくりを目指していたのですが、結局、後援を頂くにとどまり、各地商工会議所・商工会青年部の方々、PTA、農業関係者、ボランティア団体の協力による開催となりました。
講師の選定につきましては、なるべくわかりやすく講演して頂ける方を選定したつもりではありますが、何れかに偏りがあるかもしれません。質疑応答時間も取ってありますので、その時に質問して頂ければと思います。また、後日FM-OZEにて放送も予定しております。
色々な情報が錯綜し、国に対して疑心暗鬼になっている方々も多いと思います。参加される皆様に少しでも判断となる情報が得られるよう心がけて開催いたしますので、多くの方々の参加をお待ちしております。
投稿: 加賀美 勉 | 2011年6月17日 (金) 01:17
加賀美さん
コメントありがとうございます。
JCの皆さんが、「国に対して疑心暗鬼になっている」利根沼田の住民に少しでも役立つ情報を提供しようと努力された点、敬服します。
だからこそ、講師のデタラメぶりに腹が立ちます。「何れかに偏りがあるかもしれません。」とのことですが、偏りがあるなら、また別の方の話を聞けばいいのですから、それほど気になりません。しかし、進藤氏は全くのド素人としか言いようがありません。肝心の皆さんが知りたがっている点について、正しい情報をまったく持ち合わせていません。無知にもほどがあります。あれで、原発や放射線について講演をしてお金を取る行為は詐欺だと思います。
私は、原子炉の設計に係わる中で、原子力発電に反対の立場を取るようになりました。今の日本は放射線について怖がりすぎていると思っています。そのことの弊害が各所で出ています。だから正しい情報によって、正しく理性的に怖がることが大切です。それが被害を最小化することだと思っています。
しかし、間違った知識に基づく進藤氏の話を聞けば、いくら安全だと言っても、聞いた人はますます不安になるでしょう。
進藤氏には、本当に腹が立ちます。利根沼田をバカにするのもほどがあります。
投稿: 杉山弘一 | 2011年6月17日 (金) 14:11