政治家の資質について
デイヴィッド・キャメロン。英国の保守党の党首である。凋落久しい保守党を建て直し、ゴードン・ブラウン現首相(労働党)の後はこの人が首相になるのではないかと専らの評判である。最近キャメロンに全国民の目が集まった。六歳になる長男アイヴァンが死んだからだ。アイヴァンは脳性麻痺のうえに重症の癲癇を持つ障害児だった。歩くことも、自分で食べることもできなかった。短い生涯の大半を病院で過ごし、時には両親がベッドの脇の床に寝て看病した。アイヴァンは頬笑みを浮かべる以外ほとんどなにも出来なかったが、両親は「ビューティフル・ボーイ」と呼んでアイヴァンを夢中で世話した。
イートンからオックスフォードを出た典型的エリートのデイヴィッドと子爵の娘である妻のサマンサは、普通、世間の人気が集まるカップルではない。英国英語のスラングで「トフ」(お高くとまっている奴」と呼んで嫌うタイプだから。世間が感動したのは、彼らがアイヴァンに注いだ愛情の素晴らしさだった。英国の政治家は家庭生活を公にしたがらない。まして重い障害を持つ子の親はそのことを隠したがる。三年前保守党の党首になったキャメロン(42)は、妻の支持を得て、家庭生活を公開した。BBCのカメラを家に入れ、夫妻はもちろんアイヴァン、ナンシー(5)、アーサー(3)を撮らせ、アイヴァンの障害を正直に話題にしたことには、批判の声も上がっていた。これに対しキャメロンは、英国の首相になろうという男がどんな人間なのか公衆は知る権利がある。家庭生活こそその人を知る重要だと反論した。これにより彼は英国の障害者のために活動する組織の強い支持を得ることになった。アイヴァンの生き様やそこから知られる障害児を育てる厳しさや喜びは、支持基盤を広げる大事なメッセージとなった。アイヴァンが死んだ日、BBCのインタヴューで、キャメロンが「何とか生き続けようと努力するこの小さな人」とアイヴァンを語った場面は何度も繰り返して放映された。
二千七年のある演説のなかで、キャメロンは、アイヴァンという息子を持った父親の誇りについてこう語った。「アイヴァンは、魔法の微笑を持つ魔法の子です。この微笑を見るたびに私は自分が世界一幸福な父親だと感じます」。
政治家が障害を持つ子の父親になることは珍しいことではない。障害者と向かい合ったとき、政治家の資質が明かになる。なんとしてでも守ってやりたい、と考え、そのことに生きがいを見出す資質こそ政治家に最もふさわしい。世間に障害を隠そうとしたり、障害を恥じたりする人は、政治家になるべきではない。子の障害を恥じ障害を持った子を卑屈にするような父親は政治家を辞めるべきである。
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