ブラックとブラク
米国で初めてのブラック(黒人)大統領オバマ氏がブッシュ時代と訣別する政策を次々に打ち出している。日本では麻生首相が小泉路線から転換する施政方針演説を行った。ところが、オバマの方は主張が首尾一貫しており、違いも明確であるのに、麻生の方は内容空疎と評判はよくない。私などはこの金融危機の最中に消費税の値上げを主張する勇気をむしろ評価する。女子供には受けないことは初めからわかっての主張だと思うからだ。
しかし、麻生の宰相の資質に疑問を持つ理由は、米国の新聞で次ぎのような記事を読んだからである。
話は2001年に遡る。順序から行くと野中弘務が総理になるはずだった。野中弘務は、部落出身である。自民党員すべてが部落の出自を持つ総理を選ぶことに賛成したわけではない。少なくとも、一人、現総理麻生太郎は、オフレコでその見解を明らかにした。「おれたちは、本当に連中(部落民を指す)を日本の指導者にさせるつもりかね?」その場にいた政治家の亀井久興は証言している。
亀井は、この発言を聞いて、「そういうことを言うのは不適切」と感じた。亀井も部屋にいたほかの人々も、話題をそれで打ち切ってしまった。「あの発言が外に洩れるなどとは想像もしませんでした」と亀井は言っている。
ところが、この発言は政界と部落民の間で急速に広まったのである。そして、オバマが大統領に当選する数週間前麻生太郎が総理になると、あの発言が総理の資質を見分ける基準として多くの部落民の口に上り始めた。
亀井の話では、麻生の声は大きかったので、ドアのところで立ち聞きしていた新聞記者に
聞こえたにちがいない。しかし部落問題はタブーだったので、新聞記事にならなかったのだ。
二年後、政界を退く直前、野中は自民党のお歴々が何十人と集まっている席上、麻生に正面から詰め寄り、「私は君のあの言葉を決して許さない」と言った。
2005年になってやっと野党の政治家が、麻生にあの発言について国会で質問した。麻生は、「私は絶対にそんなことは言っていません」と答えている。
野中は自民党総裁に立候補しなかった。そのとき首相になったのが小泉純一郎。
日本でオバマは可能ですか?と言う質問に野中弘務は、「さあ、わかりませんね」と答えた。
部落問題と米国の黒人問題とは起源も内容もまったく違うが、差別であることに違いはない。差別に合理的な根拠がない点でも似ている。アメリカ人はオバマを大統領に選ぶことで差別の克服に一歩を踏み出した。しかし、日本人は、差別に何の痛みも感じていない名門の御曹司を総理にした。麻生は、今消費税増税の必要を説く勇気がある。しかし、部落差別の意識をなくすのは、勇気のうえに、もっと人間的に深くなることが必要である。わたしは、深さを持った政治家に憧れている。
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