三粋人沼田問答その3
歴史家:沼田の巷ではグリーンベル21のことが問題になっているね。テナントがどんどん出て行っちゃって困ってるってことらしい。あそこにはまだ何軒か店がある。どうもあまり繁盛しているようには見えないね。儲かっているのかしら。
ビジネスマン:まあ、話にならん、というのが答えだよ。一階のスーパーは特売日には多少人が入っているように見えるけど、スーパーが繁盛するだけの人数ではない。他の店に至っては開店休業に近い。全部赤字じゃないのかな。
法律家:大きな店が出て行ってしまったのは、駄目と見切りをつけたからだろう。立地条件にそもそも問題があったのかもしれないな。
ビ:構想が無理だったことがすぐ指摘できる。沼田の中心街と言ってるけど、あそこは小規模店舗がやっていく場所でね、あんなビルなど必要なかったんだ。ビルを見に来たあるビジネスマンは、瀕死の病人だと言っていた。死ぬことは避けられないんだから、考えるべきことはいかに苦痛少なく死なせるかだけだ、と言うんだ。
歴:でも、ビルの中になぜまだ店が残っているんだろ。
法:わかってきたよ。今ビルの八割方を所有している三井生命が所有権を市に無料で譲渡したい、と言ってきているんだろう。市がビルをもらうということは、三井以外の地権者にとっては死者が蘇るほどのありがたいことなんだ。市があのビルを使うとなると、フロアを整理しなければならない。すると店を出している人たちに動いてもらわなければならなくなる。補償ということにならざるを得ない。憲法二十九条さ。財産権の保障だ。財産権というのは、ビルそのものではない。それを所有したり、それを担保にカネを借りたりする法的能力、つまり権利のことだ。二十九条の第三項に、私有財産は、正当な補償の下に、これを公共の福祉のために用いることができる、としている。つまり、私有財産を市が使ったら補償しなければならないんだ。ビルに店を出しているのは持分を持つ権利者だろうから、それが行政と裏で結びついたりするとけしからん事態となる。市長はすべての情報をテーブルの上に公開し、疑惑を持たれないように心がけなければならない。意思決定のプロセスを明示することが肝要だね。
ビ:店の経営者が赤字を市に転嫁することを画策するのは、下の下だよ。失った資本は埋没原価と考え、切り捨てなければますます深みにはまるだけだ。埋没原価というのはサンク(沈められた)コストという英語の和訳だけど、優れた経営者はみなサンク・コストを経験している。
歴:沼田には「猿山のメンタリティー」とでも呼ぶべき心理があるね。長老支配だ。年寄りが馬鹿なことを言う。若い者は馬鹿なこと言ってるな、と腹のなかでは思っても、口に出して批判はしない。
ビ:グリーンビル21でもそうだよ。都市開発(株)なんてビルの管理会社だが、経営戦略など一つも持っていないし、戦略がないことに気づいてさえいない。相変わらず物売りのテナント探しをやっている。最近は家賃(テナント料)なしでいいから入ってくれるところを探す方針を検討中だというから呆れる。そんなことで入ってくるのは碌なものじゃない。ろくなものじゃないものが入ればビルはますます悪くなる。こんな簡単な幼稚園児でも分りそうなことがわかってないんだ。
歴:そういう経営者をまずクビにすることから始めるんだね。猿山メンタリティーを克服しなきゃ沼田はよくならんよ。馬鹿なボスざるを真正面から批判することから始めるのだよ。
ビ:猫に鈴をつける話しと似てきたね。大事なことはもう一つある。ビルには小さいながら健闘しているところもある。六階のスポーツジムがそうだ。あそこには、健康上の必要や衛生とささやかな交流を求めて少なからぬ市民が来ている。車を持たない老人たちが気兼ねなく来られる息抜きの場所にもなっている。
法:そういう使用している市民の観点から、ビルの意味を見直すことが必要だろう。ビルの維持管理をしている人々の雇用の問題も大事だ。大事さの順序を大きな立場から見直し、そういう大事さを明文化して市民に発表するのが市長の責務だね。
歴:沼田市の将来像をどう描くかということを抜きにして議論しても空しいということだね。
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