三粋人沼田問答その2
例によって、谷川岳の美しい姿が北側の窓から見えるあたたかい部屋に三粋人が集まった。ビジネスマンが携えてきた極上のブルーマウンテンの香りが部屋中に広がる。
歴史家:有力者が町のためにならないことをする場合、相手が力があるので阻止できないことがある。そんなときに古代のアテネの人々は貝殻追放というのをやった。市民が貝殻に気に入らない人の名前を書いて投票する。これに当選した者は町の外に出て五年間は帰ることができなかった。沼田でも有力者にたちの悪いのがいる。とんでもない道路をつくったため、向こう十三年間沼田市は毎年二億七千五百万円ずつ借金を返さなければならない。望郷ラインという道路さ。沼田の健康保険が赤字になって保険料を値上げした。赤字の額が約三億円、ほぼこの道路の返済額に相当する。つまり、あの道路をつくっていなければ、保険料を値上げしなくて済んだかもしれない。われわれも貝殻追放をやりたいね。
法律家:現行憲法下ではむろん居住の自由が保証されているから、オストラキズモ(貝殻追放)はできない。しかし、行政府の長が背任により重大な被害を選挙民に与えたときは損害賠償を請求できる。望郷ラインをつくるとき将来毎年二億七千五百万円ずつ借金を返さなければならないことを市長は議会に説明し、議会の可決を得て事業に着手したはずだから、議会は将来の負担を承知していたはずだ。それだと手続き上の背任は成立しない。ただし、説明の内容が真実ではなかった場合、別の話になる。
ビジネスマン:あの道路はみどり資源のカネでつくったんだ。つくる前、市民に十分な説明はなかったと思う。そんな大借金を背負うなどという事がわかっていたら、市民は反対したはずだからね。
歴:道路必要不必要は必ずしも今人や車が通っているかいないかだけで判断できるものではないが、あの道路は論外だな。無用有害、環境破壊しただけだもの。発想そのものに欠陥があったとしか考えようがない。どうやら、カネを借りて道路をつくることが先に頭にあって、できたのではないかな。カネが借りられるなら借りた方が得ということしか頭になかったんだね。自治体が投資に失敗する典型だ。ひと言で言えば、首長の無責任体質がつくらせたのさ。ひどい奴だよ、あれをつくった西田って市長は。最後は市民が責任を持つしかない。たとえ、市が破産しても。
ビ:夕張と同じだよ。ただ、夕張の場合はつくったものそれぞれは構想もしっかりしており、出来も悪くない。どうすれば人が来るかというマーケティングの発想がなかった。商売を知らない役人がやったためひどいことになっちゃった。望郷ラインのでたらめとはちょっと違う。
近頃沼田ではお城を再建すれば起爆剤となって観光客が押しかけると言う人がいるが、そんな甘いもんじゃない。それこそ妄想だよ。起爆剤になるほどのお城をつくるのにどれだけカネがかかるか計算したことなんかないんだろうね。費用対効果を考えれば、全然成立しないアイデアだ。焼け野原に大阪城をつくった時代じゃないんだ。個人が自分のカネで建てるのなら勝手だが、市がやることじゃない。
歴:お城に詳しい専門家の意見を叩いたことのないんだろうね。たとえば、せめて、都市交通の大家であり、城の研究者としても一流である新谷洋二博士などのご意見を伺うだけの準備をしてからアイデアを語ってもらいたい。新谷博士はお城の再建では現在日本で一番の権威だろうからね。都市問題でも相当な見識を持つ学者だから、ああいう方にまず相談すべきなんだ。そういう真剣な検討なしに思いつきで運動などされては大変迷惑するね。
法:沼田の最も遅れている部分が集約されているね、お城の再建には。いまだに長老支配から脱け出せない。老人特有の事大主義で、いつも、頼みの綱は市だ。公金でなんとかしてもらうと始めっから税金を当てにしている。世界がどんどん広がっているのに、目は内向きで視野が狭い。そのためはたから見ればこっけいな見当はずれを演じて、肝腎の沼田再生のチャンスを台無しにしている。これをなんとかしなきゃならんね。英語どころか、インターネットも知らない爺さんはさっさと引退し、後進に道を譲るべきだ。今は何をするにも世界を同時的に把握できなければ没落するのみなのだから。沼田の中でいがみ合いをやっていたのでは、ますます遅れていく。遅れの先に待っているのは破産。これが見えないのは、うちばかり見ているからだよ。内ばかり見て、足の引っ張り合いをやっている。われわれは、こんな連中の道連れにされるのは真っ平御免だ。沼田のこれからの世代だってそう思っている。言論をもっともっと活発にして、新しい沼田コンセンサスをつくる。このコンセンサスを軸に新生沼田にする。子供を連れた若いお母さんなどを見るととくにそう思うね。
歴:理想がなくなったね、政治家に。国政にもいないな。アメリカではバラック・オバマが「チェンジ(変化)」を旗印に今までとは違うアメリカにしようと呼びかけ支持を得た。沼田もオバマが必要だね。このままでは沈没するもの。
ビ:チャンスはいくらでもある。問題はこちらの頭がかちかちに固いこと。固定観念さえ振り払えばいろんな可能性が開ける。まず即刻改めなければならないのが、地元出身者と外来者の差別。これをやっている限り、沼田に救いはない。外来の人ほど事態を客観的に見られるから、その意見は貴重なんだ。
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