番組情報

国際専門家会議「放射線と健康リスク」〜世界の英知を結集して福島を考える〜

9月11日(日)と12日(月)、14カ国からおよそ30人の放射線分野の専門家が福島に集まり意見を交す国際会議が開かれました。当日は研究者らによる会議のため、一般の人が出席することはできませんでしたが、FCTではこの会議模様を全て収録しました。

福島に住む人たちにとって、福島第一原発事故によってもたらされた放射能が我々の健康にどんな影響を与えるのかというのがとても重要な問題となっています。

その問題を県民に様々な視点から考えてもらうため、この会議で世界の放射線分野の専門家たちがいまの福島をどう分析し何を語ったのか、そしてどんな提言を出したのか。5日連続でお伝えします。

「世界保健機関(WHO)からのビデオメッセージ」
世界保健機関 マーガレット・チャン事務局長
放射線による人々の恐怖に対応するには政府が正確な情報にもとづいて決断をすることが求められる。リスクコミュニケーションが困難となる中、科学的根拠に基づいた決断をするために国際的機関の支援が必要。子どもたちの健康に及ぼす不安にも、最新の科学を活用して根拠のない不安を払拭して欲しい。

基調講演

「東京電力福島原子力発電所事故とその影響」
放射線医学総合研究所 明石真言
東日本大震災と東京電力福島第一原発の事故が福島や日本にもたらした被害とはどんなものだったのかを解説。ライフラインの崩壊で通信機能が失われた中で事故がどのように推移していったのか。災害と原発事故による「複合災害」に対応するためには、どんな戦略の策定が必要か。放射線医学分野第一人者として様々な課題を指摘する。
「福島原子力発電所事故の影響に関する国際放射線防護委員会からの提言」
国際放射線防護委員会(ICRP)原子力保安局 アベル・ゴンザレス
原発事故が起きたとき、被ばくに関してどのような基準を設定しどのような対策をとるべきか国際機関の立場から解説。福島第一原発事故後の日本政府の対応をどのように評価しているか。深刻な問題を乗り越えるために必要な対策と被害を最小限にするための解決策などを提言する。

セッション(1)「福島の現状」

「環境の放射能汚染と公衆の被ばく」
日本原子力研究開発機構 本間俊充
東京電力福島第一原発の事故によってどのような放射性物質がどのように環境の中に広がっていったか。政府の原子力安全委員会にも係わる立場から解説。放射線被ばく経路で注意すべき土壌表面に沈着した核種からの被ばくについて注意を促す。そして、科学的な知見により放射線防護と除染の戦略を確立することが重要と指摘。
「東京電力福島原子力発電所事故の教訓」
広島大学 原爆放射線医科学研究所 神谷研二
福島第一原発事故によって明らかになった5つの問題点を指摘。オフサイトセンターの指揮命令系統の崩壊、住民の避難誘導の問題、緊急医療制度の崩壊、放射線の様々な影響、そして、リスクコミュニケーション不足によって増大した住民の不安。事故の教訓を今後に活かすため、専門家としての役割を考える。また、警戒区域内で活動した消防隊員の内部被ばくのデータも解説。
「東京電力福島原子力発電所災害によってもたらされた内部被ばく」
放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター 酒井一夫
福島第一原発事故の後に福島県内の住民を対象に行った内部被ばく調査のデータを解説。健康に影響があらわれる値ではなかったことを発表。しかし、健康上の影響だけでなく感情面での影響があることを指摘する。放射線影響や放射線防護の専門家は一般の人々に対して、内部被ばくの概念をきちんと伝えるべきであると訴える。

セッション(2)
「放射線被ばくによる健康影響:低線量被ばくと健康、緊急被ばく医療の課題」

「電離放射線暴露の医学的影響とリスク」
ニューメキシコ大学 フレッド・メトラー
放射線について多くの研究者たちが100年間に渡って続けてきた研究の内容を解説。チェルノブイリ原発の作業員や広島と長崎で被ばく者した人たちの追跡調査や医学的なデータから、放射線が細胞を破壊するメカニズムを解き明かす。現在も研究されている最新の情報についても触れる。
「放射線疫学〜福島の展望について〜」
国際疫学研究所 ジョン・ボイス
チェルノブイリ原発事故などこれまで世界で放射能汚染が広がった状況と福島の原発事故の状況の違いについて、医学的側面から解説。福島の原発事故によってどんな健康影響が考えられるか、高線量の場合と低線量の場合の違いを認識しながら、正確な情報を元に知識を得て防護策を考えるべきと指摘。

セッション(3)
「汚染地域における放射線量、線量測定と線量評価」
「放射線生物学と放射線防護学/安全:基礎と疫学と分子疫学」

「放射性廃棄物による急性被ばくおよび継続被ばくの内部放射線量」
パシフィック・ノースウェスト国立研究所 ブルース・ネピア
内部被ばくのメカニズムについての説明。放射性物質がどのような経路で体の中に取り込まれるのかやセシウムやストロンチウムなど核種によって体内組織に与える影響の違いを解説。また、事故の後、時間が経ってからの内部被ばく量をどのように計算するかについても考える。さらに、今後問題となる放射性廃棄物からの被ばくをどう抑えるかについて考える。
「原爆被害者における放射線と発がんリスク」
放射線影響研究所 児玉和紀
放射線が広島や長崎の原爆被爆者の健康に与える影響を明らかにするため、9万3千人の原爆被爆者と2万7千人の対照群を対象に行っている寿命調査(LSS)について。どんな発ガンのリスクがみられ、白血病などの死亡が現れたのか。世界中の多くの放射線分野の研究者が注目する、いまも続いている重要な研究の最新情報を提供する。

セッション(4)「チェルノブイリ原発事故の教訓から学ぶ」

「放射線影響:チェルノブイリの教訓を今後の福島に活かす」
ロシア医学放射線研究所 ヴィクトル・イワノフ
チェルノブイリ原発事故後の25年間における国家放射線疫学登録による大規模な追跡調査研究の結果を発表。チェルノブイリ事故の健康影響に関する情報は福島での事故の健康影響を予測する上で極めて重要。ICRPの放射線リスクモデルとの比較から、福島の今後の課題を指摘する。
「チェルノブイリ原発事故における逆行的線量測定」
ウクライナ医学アカデミー ヴァディム・チュマック
チェルノブイリ原発事故の直後は、住民たちは個人線量計を持たず、どれだけ被ばくしていたのか多くの人が分からないままだった。そのため、過去にさかのぼって被ばく量の推定を行うことが必要になった。そこで得られた線量測定の新たな技術や蓄積された経験を福島の事故に活かすため、25年間の研究成果を発表する。
「チェルノブイリ原発事故の心理的影響」
ニューヨーク州立大学ストーニブルック校 エヴェリン・ブロメット
チェルノブイリ事故の経験から、原発事故は実は被ばくによる身体的影響だけでなく、うつ病やストレス障害など様々な長期間に渡って精神的な疾患をもたらすことが明らかになっている。目に見えない放射線への恐怖から、原発事故がもたらす心への影響について問題提起する。

セッション(5)「放射線安全と健康リスクに関するガイドライン」

「発がんモデルと放射線防護」
マンチェスター大学 リチャード・ウェークフォード
放射線に被ばくした広島と長崎の日本人被ばく者や世界の様々な放射線被ばくの状況の詳細な調査を元に得られたがんのリスクモデルについて解説。がんのリスクがデータによってどのように裏づけられているのか、中高線量の被ばく者から得られた情報から、低線量での被ばくをどのように予測するのか最先端の研究を発表。いわゆる「LNTモデル」などの研究をもとに、原発事故があったときに政府がどのようなガイドラインを作り応用すべきかを提言する。
「放射能汚染地域長期在住者の防護〜ICRP Publication111からの提言〜」
フランス原子力防護評価研究所 ジャック・ロシャール
日本政府の被ばく基準設定のもとともなっている国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告はどのような考えなのかを解説。年間の被ばく量を20ミリシーベルトからできるだけ早く年間1ミリシーベルトを目指すという、まさにいまの日本政府の政策も示している基準がどのような科学的根拠に基づいているかを説明する。そして長期に渡って汚染された場所に住む住民が、どのような防護対策をとるべきか、行政がどのような政策を取るべきかを提言します。

セッション(6)「総括」

「福島県・県民健康管理調査について」
福島県立医科大学/長崎大学 山下俊一
福島県の全ての県民に実施される「県民健康管理調査」について、どのような目的で行い、どのような調査方法が取られているか、現在の進捗状況とも合わせて解説する。そして、これまで会議で議論されたことを総括し、今後、県民の健康を見守りながら、世界の英知を結集して福島県を放射線医療の拠点する将来像を提言する。

「国際専門家会議からの提言」

スピーカー=英国王立国際問題研究所 デイヴィッド・ヘイマン
2日間に渡って放射線分野の専門家たちが話し合ったことを総括し、この原子力災害に福島は日本は、そして世界はどう立ち向かうべきかを提言する。