原子力の安全神話
ようやく、原子力についてまとまったことを書いてみようという気持ちになりました。何回かに分けて書いていこうと思います。
福島の原発事故後、「安全神話は崩壊した」といわれていますが、これには違和感を抱いています。安全神話は崩壊などしていないと思っているからです。こんな事をいうと反論が来そうですが、 「神話」を辞書で引いてみて下さい。手元の辞書には「一般には絶対的なものと考えられているが、実は根拠のない考え方や事柄」とあります。原発が安全だと言うことは、そもそも根拠がないのです。それを端的に示している言葉が安全神話なのです。だから、今回の事故で、原発が安全性が神話にすぎないことが立証されたのです。安全神話は神話のまま健在なのです。
原発の設計現場にいた私にとって、原発が危険だと言うことはあまりにも当然のことでした。皆さんが、安全神話と言っているのを聞いていましたが、安全は神話に過ぎないものであると解っているからこそ安全神話といっているのだろうと思っていました。
しかし、事故後、いろいろな方と話をしてみて、本当に安全だと信じ込まされていた方が多いことが解りました。これには驚きました。設計者の立場であったときから、原発が安全であると言ったつもりもありませんし、危険性を隠していたつもりもありません。ただ、本当のことが伝わっていなかったということです。 だから、本当のことを伝えようと思います。
さて、原子力関係で良く聞く言葉を並べてみます。
安全審査、原子力安全委員会、原子力安全保安院、安全設計指針、原子力安全基盤機構、原子力安全技術センター、原子力安全研究協会などなど、原子力にの世界では安全が付くものばかりです。本当に危険がないなら、安全と言う言葉を使うはずがありません。危険な仕事であるからこそ、安全が重要になるのです。安全が一番使われているということは、それだけ危険だと言うことです。
ところで、私が原発の設計に従事して最初に担当したのは、PRAというものでした。Probabilistis Risk Assesment の略で、確率論的リスク評価といって確率論を用いて事故のリスクを評価するという手法です。
福島の事故後、いろいろと調べたのですが、このPRAがどこにも出てこないのです。出てくるのは、PSA です。私が知らないうちに、何か考えが変わったのかと思いましたが、読んでいくとPSA が私が知っているPRAと同じ意味で使っています。PSA というのは、Probabilistis Safty Assesmentの略でした。つまり、確率論的安全性評価です。なんのことはない、リスクを安全と言い換えただけです。
中身は変わっていないのに、言葉遊びだけは進化していました。もしかしたら、原子力の現場は、私が嫌気がさした20年前よりももっと酷いことになっているような気がします。 おそらくそれが事故の要因なのだろうと思います。(杉山弘一)
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