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【社会】

笑いで届け 沖縄の怒り ネタは基地 でもいらない

2012年8月15日 07時08分

 広大な米軍基地がある沖縄は今も戦場とつながっている。ベトナムへ、イラクへ。米兵を供給し続けてきた島は、事故が続発する米軍の輸送機オスプレイの配備に猛然と反発している最中だ。沖縄で生まれ育ったお笑い芸人小波津(こはつ)正光さん(38)は、基地と隣り合わせのウチナーンチュ(沖縄の人)の日常にツッコミを入れ、笑いに変える。本土に届かない深い怒りを伝えるために。 (小川慎一)

 米軍の普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)近くの病院の一室。医師が「実はあなたの病気は」と告知しようとすると、キーンと戦闘機の爆音が響く。患者は「まったく聞こえなかったんで、もう一度言ってください」。やりとりを繰り返すうちいらだった患者は外に向かって叫びだす。「いつまでいるつもりだばー、早くアメリカ帰れ」

 これは、基地問題をコントにする舞台「お笑い米軍基地」の一場面だ。小波津さんは、企画、演出、脚本を担当し、出演もする。二〇〇五年の初演が大好評で、その後も毎年、沖縄戦が終結した慰霊の日(六月二十三日)前後に新作の公演を県内で続けている。

 舞台が生まれたきっかけは、〇四年八月十三日の沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故だ。当時、東京で活動していた小波津さんは新聞を読んでがくぜんとした。一面には同じ日に開幕したアテネ五輪の大きな記事。事故の扱いは小さかった。

 「アテネでは聖火が燃え上がってたころ、沖縄ではヘリが燃え上がってたばーよ」。事故二日後、都内でのライブ。即席のネタに観客は大笑いした。「ギャグ半分、怒り半分だった。(客は)意味が分かって笑ってんのかよと思った」

 沖縄の本土復帰後の一九七四年に生まれた。戦闘機の爆音も、米兵が事故を起こしても基地の中に逃げればおとがめ無しの不条理も「当たり前」と受け止めてきた。東京での活動は、危険を日常としてのみ込んできた沖縄も、危険が人ごとの本土も、どちらもおかしいと気づかせてくれた。

 米兵による少女暴行事件、普天間飛行場の移設問題。何かあるたびに何万人もの沖縄の人間が集まり、抗議する。その姿もネタにする。基地撤去を叫ぶ人が、基地内の祭りに喜んで参加する矛盾した姿を演じると、沖縄の観客は大爆笑する。

 「怒りは伝わらなかったら意味がない。これまでの抗議では、本土の人に伝わらないんじゃないか」。自問しながら、芸人として「笑い」という表現に希望を見いだそうとしている。

 親族を沖縄戦で亡くし、おじぃ、おばぁや両親から戦争の悲惨さを聞かされて育った。「芸人としては基地があればネタに困らない。でもウチナーンチュとしては基地はなくなってほしい。矛盾してますけどね」

 <沖縄と米軍基地> 沖縄県には国内にある米軍専用施設の74%が集中し、沖縄本島の面積の約2割を占める。駐留する米軍人は約2万6000人で、海兵隊が最も多い。市街地にある海兵隊の普天間飛行場は「世界一危険」と言われる。普天間飛行場の移設をめぐっては、民主党の鳩山由紀夫元首相が「最低でも県外」と約束したが、結局断念し、県内の名護市辺野古への移設に向けて計画が進んでいる。日米安全保障条約に基づく地位協定では、米軍人や軍属が起こした公務中の事件、事故については、米側に裁判権があると規定され、基地を抱える自治体は不平等な協定の抜本改定を求めている。

(東京新聞)

 

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