空の軌跡エヴァハルヒ短編集
第十九話 残暑記念ハルキョン小説短編 気分は最高っ!


※この作品ではハルヒとキョンは高校を卒業して大学生になっています。



「ほらっキョン、もっとスピードを出しなさいよ、あたしは早く海に入りたいの!」

助手席でそう言って騒ぎ立てるやかましい女は――SOS団”元”団長の涼宮ハルヒだ。
俺達が高校を卒業すると同時に、SOS団は解散して長門と朝比奈さんは未来に帰って、古泉も外国の大学に行ってしまった。
何の因果か、ハルヒにずっと受験勉強の指導を受けていた俺は、ハルヒと同じ大学に入っちまった。
大学生になっても、俺に対してわがままな事を言う関係は全く変わらないように見える。

「無理言うなよ、車ごと海水浴したいのか?」

海岸通りを走る車のハンドルを慎重に操りながら、俺は皮肉を交えながらそう答えた。
俺は車の免許を取ってからまだ半年しか経っちゃいない。
この自分の車だって、大学に入ってから必死にバイトをして貯めた金と親から頼みこんで借金して、大学最初の夏休みに間に合うようにしたんだぜ?

「じゃあ、あたしが運転を代わろうか?」
「断固拒否する、買ったばかりの新車をスクラップにしたくはない!」

俺はわめくハルヒの声をかき消すためにも、スピーカーのボリュームを上げた。
車内をアーティストの夏の歌を満たす。
9月になっても依然として厳しい残暑が続いてはいたが、風はすっかり涼しくなっていた。

「うーん、サーフィンをやるなら9月が海開きって感じよね」
「そうだな、8月の間は海水浴の客がごった返して、ブイとかで禁止区域が設けられているからな」

海水浴場に着いた俺は、2人分のサーフボードを車の屋根から降ろしながらハルヒの言葉にそう答えた。
夏休みの混雑から解放された浜辺は、俺達のようにサーフィンを楽しもうとやって来たであろう大学生や社会人の人影がまばらに見えるだけだった。
大学は8月から夏休みがやっと始まるところもあり、9月の半ばまで夏休みが続くのが一般的だ。

「キョン、早く来なさい! 波と風がとっても気持ちいいわよ!」

真っ赤な水着に素早く着替えたハルヒが、俺に向かって手を振っている。
大学生になったハルヒは、高校生の時のスタイルの良さをそのまま維持した、なかなかの美女になっていた。
周囲から感じる羨望の眼差し、俺は嫌いじゃないぜ。
俺はハルヒの呼びかけに笑顔になって応じて、ハルヒの元へと駆けて行った。
波が太陽の光に反射して、とてもきれいに輝いている。

「良い波が来るといいな」
「絶対来るわよ、水曜にはでっかい波が来るって決まっているんだから!」
「それは映画の話だろう?」

俺はハルヒにそう答えながらも、もしかしてハルヒの言う通りに大きな波が来てしまうのではないかと思っていた。
ハルヒの持っていた自分の願いをかなえると言う神がかり的な力はもう完全に失われている。
ごく普通の人間にハルヒはなってしまっているはずなのだが、自信たっぷりのハルヒにはそんな力が無くても願いを叶えてしまいそうな、そんな気がした。
青い海と空の中で、俺とハルヒは波乗りを楽しみ、夏を満喫した。
しかし、空に浮かぶのは入道雲では無く、鱗雲。

「もう、空では秋になっているんだな」
「まだ、夏が終わっちゃ困るのよ!」

俺はハルヒの言葉に引っ掛かりを覚えた。
大学の課題はやってしまったから、ハルヒのやつは今度は一体何が心残りなんだ?
今度はあの時みたいに無限ループを繰り返すわけには行かないぞ。
そんな事を考えているうちに、日はどんどんと傾いて行った。

「でっかい波、来なかったな」

暮れなずむ浜辺で、俺はハルヒにそう声をかけた。
他のサーファーたちも波乗りを終えて、戻って来ていた。

「うん、でも別に構わないわ」

どういうことだ、ハルヒが夏にやり残したのはサーフィンじゃなかったのか?
じゃあ、なぜハルヒのやつは俺をしつこくサーフィンに誘ったんだ?

「あ、あのね、あんたをサーフィンに誘ったのは、本当はサーフィンがしたかっただけじゃないのよ……」

ハルヒは顔を赤らめながら、歯切れが悪そうに俺に向かってそう言った。
顔が赤いのは夕日のせいだけじゃないだろう、俺にもそれは分かる。

「分かっているよハルヒ、お前が素直に言い出せなかった事ぐらい」
「恋愛は病気だって、言っちゃったしさ……」

ブツブツと顔を反らして言い訳をするハルヒに向かって、俺は告げる。

「ハルヒ、目を閉じてじっとして居ろ」
「う、うん」

ハルヒは俺に期待するようにそっと目を閉じた。
夕暮れの静かな浜辺、ムードも悪くない。
俺もやる時はやってやるさ。

「行くぞ、ハルヒ」

俺はそう言って、ハルヒの焼けた肌を熱く抱きしめた……。



※倉木麻衣さんの「feel fine!」を聞いて浮かんで来たイメージを形にしました。
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