空の軌跡エヴァハルヒ短編集
第十一話 2010年 シンジ誕生日記念LAS短編 破られたシンジ宛てのラブレター


アタシは、出会った時からシンジの事を好きだったわけじゃなかった。
それどころか、さえない暗いやつだと思っていた。
でも、ユニゾンの特訓をした後から少しずつシンジに対するアタシの気持ちは変わって行った。
あの時のアタシは自分の事しか考えて居なくて、シンジに合わせるつもりなんて無かった。
だから、シンジとファーストにユニゾンの組み合わせを変更するとミサトに言われた時はショックだった。
またアタシは仲間外れ。
どうせ今までずっと一人でやって来たし、最初から上手くいかないものだったと、アタシも諦めていた。
でも、シンジはファーストよりアタシと組みたいと言ってきた。
ファーストよりアタシが良いって。
そしてシンジはアタシに無理をしないで欲しいとも。
アタシがエヴァンゲリオンのパイロットに選ばれた時から周りの大人達は常に結果を出せと言い続けて来た。
努力しても結果を出せなければ、役立たずとまで言われた。
シンジにそう言われた時、アタシは無駄な努力をするなと言われたような気がして、怒鳴り返してしまった。
でも、よく考えてみるとそれは誤解だと分かった。
シンジはアタシが苦しんでいる事を感じ取ってくれていたんだと。
だけどアタシはシンジに対して素直に謝る事もお礼を言う事も一言も言う事が出来ないでいた。
アタシはいつかシンジに素直な気持ちを伝えられるようにシンジとの同居をミサトに申し出た。
でも、シンジと一緒に暮らすようになってから、アタシはシンジに当たり散らすようになってしまった。
シンジってば内罰的で暗い顔をして謝まってばっかりだから。
そんなシンジの顔を見ているとイライラしてくるのよね。
だけど、シンジがアタシのために色々してくれている事は知っている。
ハンバーグもかなり上手くなったよね。
でも、アタシはいまだにシンジに一言も自分の気持ちを伝えていなかった。
このままじゃ、シンジはアタシに愛想を尽かしてしまうんじゃないか。
アタシは手紙でシンジに感謝の気持ちを伝える事にした。



シンジへ
毎日アタシを起こしてくれたり、ご飯を作ってくれたりしてくれてありがとう。
アタシは優しくしてくれるシンジが大好きだよ。
……
……



「大好き」って……ラブレターじゃない!
ちょっと大胆すぎるかな……でも、素直な気持ちを書くって決めたんだし……。

「アスカー、ご飯できたよー」

シンジの呼ぶ声が聞こえる。
アタシは手紙を机の引出しにしまってリビングへと急いだ。


破れられたラブレター
(2010年 碇シンジ誕生日記念LAS小説短編)



学校から帰ってきた僕は、さっそく部屋の掃除に取り掛かる。
ミサトさんもアスカも部屋の掃除を全くしてくれないから、自然と僕が掃除をしなければならなくなった。
同居人にアスカが増えた事で、僕は掃除をしなければいけない部屋が一つ増えた。
でも、僕は嫌だとは思っていない。
ミサトさんやアスカが僕と一緒に同居をして掃除をさせてくれるのは、少なからず僕に好意を持っていてくれるってことなんだと思うから。
アスカの部屋を掃除していた僕は、引き出しから紙切れがはみ出しているのに気がついた。
僕はその紙切れの事がとても気になって仕方がなかった。
アスカの秘密を勝手にのぞくのはいけない事だと解っているけれど……僕は興味を抑えきれなかった。
これは……僕宛てのラブレター……!?
アスカが僕の事、優しくって大好きだって……。
手紙を読んだ僕はとても幸せな気持ちでいっぱいになった。
僕もアスカに告白した方がいいのかな……。
でも、この手紙を見た事がアスカに知られるとまずいよね。
僕も手紙でアスカに自分の思いを伝える事にした。

「アンタ、今日はやけに機嫌が良さそうじゃない?」

僕は夕食に思いっきり大きなハンバーグを作った。
アスカもおいしそうに食べてくれたし、好感触だ。
僕はアスカがラブレターを渡してくれる日を楽しみに待っていた。
でも次の日、僕とアスカの仲が険悪になる出来事が起きてしまったんだ。
いつも定期的に行われているシンクロテスト。
僕はアスカにいい所を見せようと頑張った。
もうアスカの足手まといにはならないと。

「シンジ君、ユーアーナンバーワン!」

僕はミサトさんの言葉に笑顔で答えんだけど……。

「シンジに負けるなんて!」

ネルフの廊下でそう言って荒れるアスカの姿を僕は見てしまったんだ。

「何見てるのよ、バカシンジ!」

アスカに怒鳴られた僕は逃げるようにその場を立ち去った。



アタシはシンクロ率をシンジに抜かされたと聞いて目の前が真っ暗になった。
エヴァンゲリオン弐号機のパイロットとして選ばれた時からアタシは常にトップで居る事を要求された。
アタシの代わりのパイロットはいくらでも居ると周りの大人達に脅されることも何回もあった。
バカにされないように大学を卒業しても、みんなはアタシを惣流博士の娘としてしか見てくれない。
何の努力もしないシンジがアタシのシンクロ率を抜いたと聞いてアタシは腹が立った。
どうしてシンジが!
小さい頃からエヴァのパイロットとしての厳しい訓練を受けていたアタシより、何でシンジの方がシンクロ率が高いのよ!
ミサトのマンションに戻っても、アタシのシンジに対する怒りは収まらなかった。

「こんな手紙なんか、シンジなんて大嫌い!」

アタシはシンジに宛てて書いた手紙を細かく引きちぎってゴミ箱に捨てた。
シンジがご飯を作ったと呼びに来ても、お風呂を沸かしたと言いに来ても、謝りに来ても、アタシは背中を向けて答えようとしなかった。
アタシが無言の抵抗をしていると、シンジは諦めてアタシの部屋から出て行った。
しばらく時間が経って、すっかり夜中になった。

「お腹空いたな……」

アタシは眠れないまま、ベッドに座り込んでいた。

「アスカ、入るわよ」

そう言って部屋に入って来たのはミサトとリツコだった。

「何でリツコまでここに?」
「あたしが説明してもアスカは信じないと思ってさ」

ポカンとしているアタシに向かってミサトは心配した。

「アスカ、確かにシンクロ率はエヴァンゲリオンの攻撃力や防御力を高める効果があるけど、実戦で問われるのはパイロットの判断や操作能力よ」
「そうそう、シンクロ率が全てじゃないのよ」

リツコとミサトにそう言われてアタシは何で二人がアタシの部屋までわざわざ来てくれたのか分かった。
その後もリツコは細かいデータをあげて、エヴァとシンクロ率の関係を丁寧に説明してくれた。
リツコの説明を聞いたアタシはエヴァのパイロットとしての自信を取り戻してすっかり落ち着いた。

「じゃあシンジ君に謝って仲直りするのよ」
「ごめんね、あたしが余計なこと言っちゃったせいで」

リツコとミサトの二人はとっくにアタシの事をお見通しか。
明日の朝、シンジが起こしに来たら謝ろう……。



僕はいつものように朝食を作ってアスカを起こしに行くんだけど、気が進まなかった。
アスカはきっと僕の事を怒っているから。
アスカの部屋に入った僕は、破られた紙くずが入っていたゴミ箱を見てしまった。
あれは確かアスカが僕宛てに書いたラブレター?
アスカは僕をそこまで嫌いになってしまったんだ……!
胸が痛んだ僕は、そのままアスカの部屋を飛び出して食卓へと戻った。
そうしたら、怒った様子でアスカが部屋から飛び出してきた。

「シンジ、何でアタシを起こさずに部屋を出て行っちゃうのよ!」
「アスカは僕の事、嫌いになったんだろう? 僕を見ているとイライラするって!」
「それは、シンジが内罰的でウジウジした顔をしているからよ……」
「僕宛てのラブレターを破り捨てたんだろ!?」
「……シンジ、アタシの机の引き出しを開けて……!」
「ご、ごめん」
「そりゃあ、昨日はかっとなって手紙を破り捨てたけどさ……でも、アタシ、シンジの事は嫌いじゃない……いえ、好きよ」
「でも、僕は……」

そう答えると、僕は突然アスカに顔をつかまれて唇にアスカの唇を押し付けられた。
これってキス……!?
女の子の唇ってこんなに柔らかいんだ……。
僕が初めてのキスの感触に酔いしれていると、アスカはゆっくりと僕から体を離した。

「……アスカ、本当に僕なんかでいいの?」
「何よ、アタシが好きでもない相手にキスすると思ってたの?」
「でも、僕はそんなに頭も良くないし運動もできるわけじゃないし、そんなにかっこ良くないし……」
「それは、シンジがウジウジ下を向いているからよ。シンジってかっこ良いと思うわよ」
「僕が?」
「もっと明るく笑っていればいいのよ。アタシ、シンジの笑顔が好きよ」
「そ、そうなの?」
「アタシのワガママにも付き合ってくれるしさ、アタシのためにご飯も作ってくれるし……」
「何か、あんまりかっこ良くないな……」
「そんなことない、マグマの中に飛び込んでくれたシンジは十分カッコ良かったわよ!」
「そ、そう?」
「お二人さん、ノロケはそのくらいにして朝ごはんを食べて準備しないと学校に遅刻するわよ!」
「ミサト?」
「うわっ、ミサトさん!」

いつの間にかニヤニヤと笑いを浮かべたミサトさんが僕達の後ろに立っていた。

「行ってきます!」

僕はアスカに手を引かれて通学路を走っている。

「アスカ、こんな所を見られて平気なの?」
「別に構わないわよ。後、これから内罰的になるのは禁止ね」
「どうして?」
「だって、アタシがつまらない男の彼女になった事になっちゃうじゃない」
「でも、自信がないなあ」
「そうね、今日は放課後、シンジの誕生日プレゼントの服を買いに行きましょう! あんなダサいTシャツ変えなさいよ!」

今日は僕の誕生日。
アスカからはTシャツ以上に大切な物を受け取った。
自信を持って胸を張って歩くって事を。

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