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草サッカーからブラジル代表へ上り詰めたレアンドロ・ダミアン(インテルナシオナル=ブラジル代表)
世界の新たな勢力、新興国として、今や日本のメディアでも頻繁に登場するようになったブラジル。19年住んでいる私としては、ここ数年の急激な経済発展に驚きながらも喜んでいる。その昔は、物の種類も数も、質も、すべてが日本よりも20年は遅れていた感じだったが、経済政策、グローバリゼーションに伴い、都会での生活はかなりレベルがアップしたと言える(田舎は別世界)。
経済発展に伴い、最近、特に物価高が進んでいる。94年以前の2500%までのハイパーインフレには到底比べられないが、インフレは我々の生活に影響を与えている。
大きなところでは、不動産。買えば絶対に値上がりする。お金がたくさんある人にとっては、よい投資になるが、マイホームを持つのには、この高騰は痛い。そのうち、バブルが崩壊するかもとも言われている。
子供のいる家庭にとって、出費の大きな比率を占める学校の月謝も、保険代も、当たり前のように値上がりするばかり。4カ月で26%の値上がりをしたのは牛肉。ブラジルは牛肉が安く食べられるという魅力がなくなりつつある?!
そんな経済状況において、サッカー界もご多分に漏れず一部の人気選手のサラリーや移籍金は上がるばかり。現在の頂点は、サントスのネイマールだが、レアル・マドリードとバルサの争奪戦も絡み、移籍金が6000万ユーロ(約60億円)にまで跳ね上がった。が、サントスはこれを蹴り、現在は高額サラリーと広告収入(パナソニックを始め5社と契約)でつなぎとめている。サラリーと広告収入の合計で、ネイマールの年収は約6億円になっている。ブラジルの経済発展に支えられて、ネイマールの収入は高騰し、慌てて海外移籍をする必要がないが、普通ならちょっと芽が出た選手は、海外のクラブに引き抜かれてしまう。かなりの逸材なら、クラブもあの手この手で引き抜きを阻止するが、中堅クラスの選手なら喜んで移籍させ、収入源にする。
中小クラブが、選手を育ててビッグクラブ、もしくは海外のクラブに移籍させ移籍金を財政に当てるのは昔からあることだが、ビッグクラブとてうかうかはしていられない。才能ある少年を早い段階でセレクトして、育成しなければ、ライバルクラブがかっさらってしまうからだ。そのため、ビッグクラブでも、年々育成部の低年齢化が進み、小学校低学年のサッカースクールから始まり、下部組織としては9歳くらいからセレクションされた少年たちが、指導者の下、多くのスタッフに囲まれ、きちんとした計画にのっとって育成されている。多くの人材から選び抜かれたタレントを、サッカー選手として磨き上げること、それが、現在のブラジルサッカーの強みであることには違いない。
しかし、ブラジルが急激な発展をする前、サッカー界も今ほどお金もなければ、整備された環境もなかった。下部組織は15歳くらいから上で、それまでは草サッカーや、アマチュアチームでボールを蹴り、その中から選ばれたものがプロの道をたどるという、今から考えれば非常にスローペースな世界だった。
そもそもブラジルのサッカーの原点は、草サッカー、ストリートサッカーだった。年配の指導者たちが言うには、昔は都会でもそこら中に空き地があり、あちこちで草サッカーをやっていた。かつてのブラジルサッカー界のヒーローたちも、枠にはめられることなく草サッカーで揉まれて、独自の発想と独自のプレースタイルを身に付けたものだった、と。元日本代表の呂比須ワグナーも、「ストリートサッカーで、年齢も体の大きさも関係なくガチンコでぶつかり合う中で、ケガをしない方法や、相手をかわす術、自分のプレースタイルを自然に身に付けた」と言う。
もうそんな時代は終わってしまった・・・・・かと思いきや、今時珍しくなってしまった草サッカー育ちの選手がブラジル代表に現れた。インテルナシオナルのFWレアンドロ・ダミアンだ。身長1m87cmでダイナミックさとブラジルらしいテクニックを身に付けた大型選手のレアンドロ・ダミアンは、ネイマールのように小さいときからプロクラブの下部組織に入って、大事に育てられた選手とは全く違う道のりでセレソンまで上り詰めた。
現在22歳だが、17歳まで、サンパウロ市の貧しい地区で暮らしながら地元のアマチュアチームの選手としてボールを蹴っていた。時々、他のチームに約1500円のギャラで助っ人として借り出されるくらいで、どこの下部組織にも所属することはなかった。彼の住んでいたジャルジン・アンジェラ地区は、有数の危ない地域で草サッカーでは、容赦ない相手のアタックに身の危険さえ感じるほどだったが、そんな厳しい世界が彼を返って強くしていった。誰に教えられたわけでもない身のこなしやテクニックを自分で習得していったのだ。
そして、17歳のとき、サンタ・カタリーナ州のアトレチコ・デ・イビラマという小さなクラブでプレーするチャンスを掴んだ。その後、19歳でブラジル最南端の州、リオ・グランデ・ド・スール州の名門クラブ、インテルナシオナルに移籍したのだが、まだこの時は原石に過ぎなかった。そんな彼を磨き上げたのが、インテルの下部組織の中にある改良部(プロジェット・アプリモラール=インプルーブ・プロジェクト)の敏腕指導者オルチスだった。オルチスはヘディングの正確性、利き足は右だが両足が使えるようにする、ボールキープ力、ポストになるなど元々彼がよい素質を持っていながらも磨き足りなかったことを徹底して修正、改善していったのだ。
その結果、高い身長を生かしたヘディング、テクニックに優れたオーバーヘッド、中盤から相手を抜き去るスピード、角度がなくてもシュートが打てる高い技術を持ち備えた理想的なストライカーが誕生した。
2010年南米チャンピオンズリーグのリベルタドーレス杯優勝の原動力となり、2011年3月、スコットランド戦で代表デビュー。今年は45試合37ゴールというゴールゲッターぶりを発揮し、現在、ブラジルリーグの得点ランキング2位につけている。
かつてはロナウドがつけたブラジル代表の9番、すなわちセレソンのストライカーの称号を受け継ぐ筆頭と呼び声が高く、マノ・メネーゼス監督の信頼も厚い。そのフィジカルから、ブラジルのイブラヒモビッチとも言われている。
9月にロンドンで行われたガーナ戦で代表初ゴールをマークし、世界からも一気に注目が集まることとなった。
数年前まで1500円の助っ人だったに過ぎない草サッカーのプレーヤーが、今では、トッテナムとポルトが約20億円、リバプールが約30億円を提示するほどの大物となり、一気にスターダムを駆け上がった。バルセロナも大いに興味を持っているといわれているが、インテルはレアンドロ・ダミアンに50億円の値をつけている。
1500円から50億円、これはハイパーインフレなのだろうか。(大野美夏=サンパウロ通信員)
[ 2011年10月7日 ]
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