<ウェーブ=時評>
グリーンピースと資金
中村 政雄
(元読売論説委員)
(その2)
(本文転載)
有名な反原発団体であるグリーンピースの共同創設者の一人であり環境 学者のパトリック・ムーア博士は昨年4月28日、米上院エネルギー天然 資源委員会で「原子力は、化石燃料に代わって世界中のエネルギー需要を 満たすことの出来る、唯一の非温暖化ガス排出エネルギー源である」と証 言した。 ムーア博士はカナダの大学で生態学を学び学位を得た。学生のころから ヒッピー・スタイルで核実験に反対し、反捕鯨の闘士だった。20年前に グリーンピースを離れたが、反原発運動の親玉だった男が原発を礼賛した というので、社会経済生産性本部が昨年12月ムーア博士を日本に招いた。 大阪で開催されたシンポジウムや東京での記者会見で私は司会をしたので、 興味深い話が聞けた。原子力発電に反対から賛成に変わった理由について ムーア博士はこう語った。 「若いころは原子力の軍事利用と平和利用の区別がつかず、原子力を利 用すれば必ず兵器の開発に結び付くと思って反対した。ところが、原子力 は安全で、環境に対しクリーンであることが分かった。それまで反対ばか りの攻撃的生き方をしてきたが、これからは建設的に生きようと切り換え た。グリーンピースが年金制度を設けたことにも疑問を持った。環境保護 のために闘ってきたのに、それでは生活のために活動することになるから だ」 シンポジウムの会場が沸いたのは、グリーンピースの資金源について語 った時だ。当初は全世界の会員400万人からの会費だけだったが、ロッ クフェラーなどリッチな50の財団から資金を得るようになり、活動資金 の80パーセントを占めるようになったという。そのリッチな財団は、一 方では原子力発電の支持団体である。「それらの財団は環境を大切にして いるというポーズのためにグリーンピースに寄付するのだ」と語った。 「自動車ほど環境を破壊する技術はないとあなたは書いているが、なぜ 車に反対しないのか」と質問したら、「そんな運動に誰が金を出しますか」 と答えた。これでグリーンピースの正体が分かった気がした。 フランスの環境学者ブルノ・コンビ博士が昨年11月来日したさい、 「グりーンピースの活動資金はサウジアラビアが出している。あの国際団 体から別の国際団体へ金が移動するたびにマネー・ロンダリングを受け、 どこから来た金か分からない工夫がされてグリーンピース・インターナシ ョナルに金が入る。そこから各国のグリーンピースに分配される。フラン ス・グリーンピースだけでも毎月400万ユーロ出ている。受け取る側は 金の出所は知らない。同じルートでオサマ・ビン・ラディンにも資金が流 れている。どちらも原油価格の維持のためだ。サウジは毎日1千万バレル の原油を売っている。1ドル値上がりするだけでも軽く元が取れる。この 2つの資金ルートについて世界で最も詳しいのはブッシュ大統領だ」と食 事の合間に話してくれた。 ムーア博士に話したら否定したが、この話が本当なら、ブッシュ政権が 原子力を推進するようになって、環境学者の大物が各地で原子力賛成の声 をあげるようになった時期が奇妙に一致するのが、分かる気がする。反原 発環境団体「地球の友」にも、原子力推進を主張する人が出るようになっ た。 ムーア博士は原子力推進に転向したが、グリーンピースそのものの反原 発の姿勢は変わらないという。「なぜなら彼らの反対は宗教のようなもの だ。捕鯨反対もそうだ」と語った。それは一神教の世界の産物だ。世界は 多神教が共存する時代に移りつつある。身勝手な一神教の論理を振り回す のは時代遅れだ。 |