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2012年8月11日22時49分

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いじめられている君へ

《いじめられている君へ》川渕圭一さん

写真:川渕圭一さん拡大川渕圭一さん

■弱虫なんかじゃないよ

 小学校入学から中学卒業までの9年間、いじめを受け続けました。当時は太っていたし、気が弱くて無口(むくち)。いじめっ子特有の嗅覚(きゅうかく)で「いい標的がいる」とかぎつけられたのでしょう。

 ズボンを脱(ぬ)がされ、びりびりに破られた。しょっちゅうランドセルを投げられるから2回買い替(か)えたし、お金も取られました。

 でも、恥(は)ずかしくて親にも先生にも言えなかった。「いじめを受けたら誰(だれ)かに相談して」というメッセージは無意味なんです。そもそも、人に話せる子はいじめられないんだから。先生も気づいていたけど、見て見ぬふりでした。

 でも、不登校になったり、「死にたい」と思ったりしたことはありませんでした。だって、家に帰れば天国だったから。犬と散歩したり、おやつを食べたり、漫画を読んだり。自由な時間が僕を救ってくれました。親もいじめに気づいていたと思いますが、黙(だま)っておいしいご飯を作ってくれた。月に1度のずる休みも黙認(もくにん)してくれました。

 周(まわ)りの大人は、子どもが1人で考えられる時間を作ってあげてほしい。いじめへの対応を、学校だけに任せていてはだめです。

 いじめられっ子OBとして伝えたいのは、いじめられるのも悪いことばかりではないということ。今だから言えますが、いじめっ子には感謝しています。

 大学を卒業後、引きこもりを経て、37歳で研修医(けんしゅうい)になり、本を書き、ドラマにもなった。「転んでもただでは起きない」という精神(せいしん)を植えつけてくれました。「僕」という土台を作ってくれたのは彼らです。

 だから君に伝えたい。君は弱虫なんかじゃない。いじめに耐えることができるのは、本当は一番強い人間なんだよ、と。

 よかったら、僕がいじめられた体験を元に書いた「マゾ森の夏休み」(汐文社)も読んでみてください。(かわぶち・けいいち=医師・作家)

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