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大津中2自殺問題 再発防止へ事実解明を
滋賀本社編集部 山本旭洋
大津市であった中学2年の男子生徒=当時(13)=の自殺をめぐり、市教育委員会と学校が繰り返す不自然な説明に疑念を拭えない。「いじめをはっきりと認識していなかった」と説明するが、異変を察知していた教師が一切、いじめを疑わなかったとは思えない。再発防止の一歩として、学校や市教委の閉鎖的体質の改革が急務だと感じる。 生徒が命を絶つ6日前だった。昨年10月5日、担任は女子生徒から「いじめでは」と伝えられた。9月を含めて2度目。生徒と加害者とされる同級生の間にあった力の差も把握していたという。担任は同日の放課後、双方に聞き取りし、あえて生徒だけを残して「大丈夫か」と再確認した。いじめを疑ったからこその対応に思える。だが、生徒が「友達でいたい」と答えたとして、けんかと判断した。 いじめが原因で四男を亡くしたNPO法人「全国いじめ被害者の会」の大沢秀明理事長(68)=大分県=は、「教師は『大丈夫か』ではなく、『いじめられてないか』と聞くべきだ。いじめであってほしくないという潜在意識が働かなかったか」と指摘する。 担任や2年生の教師5、6人が同5日夕、15分程度、生徒への暴力について話し合いの場をもったことも判明した。その場でいじめのキーワードも出たが、校長は「一般論の話。当時は、教師の誰一人、生徒へのいじめを疑わなかった」と強調した。 「息子は学校に見殺しにされた気がしてならない」。父親(47)は不信感を強める。 市教委や学校の調査不備や遺族感情を無視した対応が噴出したのは生徒の死から9カ月たった今年7月。空白の時間は戻らない。自戒を込め、再調査を決めた市の判断や県警の捜査、報道の追及などのいずれもが遅い対応だったとの反省が必要だろう。 学校と市教委の調査手法や事後対応などの検証は欠かせない。ただ、最優先で取り組まなければならないのは、いじめや子どもの自殺を繰り返さないための再発防止策だ。 市教委はいじめが自殺の一因の可能性が高いという。生徒が家庭の悩みを何度か担任に打ち明けていたことも言及した。一方、越直美市長は学校での出来事を解明するとしながら、担任が受けていたという相談内容は調査の対象外とし、訴訟でも触れないと明言した。その判断に誤りはないだろうか。 文部科学省は昨年6月の通知で、児童の自殺は「複数の要因からなる複雑な現象」とし、背景調査の範囲を「学校、個人、家庭の背景が対象になり得る」と明記している。子どもが自ら死を選ぶことのない社会を築くためにも、生徒を死に追いやった要因がいじめ以外にもなかったか、という視点は置き去りにしてはならないはずだ。すべてを明らかにし、真実から目を背けてはならない。 [京都新聞 2012年8月8日掲載]
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