現代社会には、報奨による動機づけが氾濫している。社員のボーナス、アプリのバッジ、児童生徒学生の等級、それにオバマ大統領とのランチもある。しかしこれだけ広く普及している報奨制も、これまでの多くの研究によると、単純労働を除いては長期的には成績の向上に寄与しない。それは、賞にこだわると創造的な思考が鈍るからだ(下のビデオ)。しかし教師たちに関する最近のハーバード大学の研究は、報奨のやり方を変えることによって生徒の成績が劇的に上がることを発見した。教師たちに(生徒たちにではない!)事前に報奨を与え、クラスの成績が上がらなければそれを取り上げると脅すことによって、生徒たちの成績は実際に上がったのだ。このいわゆる“損失回避(loss-aversion)”と呼ばれる人間の心理の傾向を利用すると、ソフトウェアデザイナーや管理職たちの創造力も、強力に刺激できるかもしれない。
ハーバード大学のRonald Fryerらの説明によると、教育においては成果報酬制(==結果に対する報奨)が児童学生生徒の成績向上に導く効果をほとんど上げていない。高額の(最大15000ドル)現金ボーナスを予告した場合と、無報奨で教師の意思と善意にまかせた場合とでは、生徒の成績向上においてほとんど差がない。インドでは初年度のみ報奨がやや効果を上げたが、次年度以降は劇的に無効果となった。
しかしながら人間は、損失に対しては、利得に対するよりも別の対応をする。たとえばある研究が示すところによると、人びとは一度与えられたコーヒーマグを取り戻すためなら、それを新規に買う場合の倍以上のお金を喜んで払う。Amos TverskyとDaniel Kahnemanが流行(はや)らせた“授かり物効果(endowment effect)”により人間は、自分の物に対してはテリトリー意識を持ち、そのもらったばかりの宝物をいろいろ有意義に使うことを想像するようになる。すなわち同じ物でも、自分の物になると価値が大きく上がる。たとえば中国の工場では、労働者の生産性を上げるために彼らの研究と同様のことが行われている。
ハーバードが行った学校の実験では、ランダムに選んだ教師たちに1年の始まりまたは終わりにボーナスを与える。始めに与えられたほう(治験グループ)は、生徒の成績が期待値まで上がらなければボーナスを返却する。もっとも良い結果に対してはボーナス総額が8000ドルで、治験グループは最初に4000ドルもらい、年の終わりに、結果に応じて一定額を返金する、または上乗せされる。
結果は劇的で、最大10%の成績向上が達成された(標準偏差では0.33)。
この研究結果は、企業にも応用できるだろう。社員のボーナスを、年末ではなく年初に与えたらどうだろう? あるいはレストランのディスカウント券を月初に与え、彼らが訪れるたびにチェックインしなかったら無効にするのはどうか?
可能性は無限にあるから、コメントでみなさんのアイデアを寄せていただきたい。あなたの企業では、どんな報奨制を使うか? 損失回避の心理を利用して、報奨の与え方を変えるべきか?
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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))