空の軌跡エヴァハルヒ短編集
第七十話 2012年 夏休み記念LAS短編 夏の大三角関係 〜織姫と彦星と……デネブ!?〜(前編)


碇シンジと惣流アスカは幼馴染。
両親が同じ人工進化研究所に勤めている事もあって、家族ぐるみの付き合いをしていた。
内気なシンジを強気なアスカが引っ張り、気の強いアスカをシンジがなだめる、と言う相性の良さもあって、2人は姉弟のように仲が良かった。
ずっと一緒に居られると思った2人だが、アスカの両親は人工進化研究所のドイツ支部へと転勤になってしまった。

「シンジと離れ離れになるなんてイヤっ!」
「僕だってアスカが遠くに行っちゃうなんてイヤだよ……」

アスカの引っ越しを知らされた時、シンジとアスカは抱き合って大泣きした。

「こうなったら、パパとママのドイツへの転勤を無しにしてもらいましょう!」
「えっ、そんな事出来るの?」
「それにはシンジの協力が必要なのよ」
「僕はアスカと一緒に居るためならなんでもするよ!」
「じゃあさっそく準備に取り掛かりましょう!」
「うん!」

シンジはアスカの言葉に嬉しそうにうなずいた。
次の日、2人は行動に出る。
ロミオとジュリエットのように、家を出て駆け落ちしたのだ。
アスカはシンジ誘拐の犯行声明文を自分の部屋に残し、ドイツへの転勤を止めなければ、シンジを返さないと宣言した。
いつもはアスカの暴走を止めるシンジも、この時はアスカに協力した。
それだけシンジもアスカと離れたくない気持ちが強かったのだ。
心優しい2人の両親は何とかできるものなら何とかしたい思ったのだが、さすがに子供達の都合で仕事を断る事はできない。
幼いシンジとアスカの抵抗は長くは続かず、辺りが暗くなって心細くなったアスカとシンジが泣きながら家に帰った所で事件は解決した。
別れる事が決定的になったアスカとシンジは、約束を交わす。

「絶対にアタシの事、忘れないでね」
「うん、アスカの事はずっと覚えているよ」

シンジの返事を聞いたアスカはシンジの口へとキスをした。
そしてアスカは両親と一緒に遠いドイツへと旅立って行った……。



それから数年の時が過ぎ、シンジが中学2年生に進級した新学期。
シンジは同じクラスの女子、綾波レイに告白される。

「だけど、どうして僕の事なんか……」
「碇君は私に優しく手を差し伸べてくれたから」

中学校の入学式の時、遅刻をしてしまって心細い思いをしていたレイにシンジは声を掛けた。
そしてクラスを確認し、レイの担任に謝るまでシンジは付き添ったのだ。
さらに、内向的なレイはクラスの図書委員を押し付けられてしまったのだが、委員会でシンジとの再会を果たした。
図書委員の仕事でシンジと組む事が多くなったレイは、様々な場面でシンジに助けられた。
それからレイは1年近く、シンジの事を自然と目で追いかけるようになっていた。
中学2年に進学した新学期、レイは自分がシンジと同じクラスになった事を知った。
出席番号順でレイの席はシンジの目の前。
レイは近くに居るシンジへの気持ちを抑えられず、勇気を出してシンジに告白したのだった。

「碇君は私の告白が迷惑だった? もしかして好きな子が居るの?」
「別に、そんな事は無いけど……」

シンジがそう答えると、レイは期待に輝いた瞳でシンジを見つめた。
断れなくなったシンジは、レイの告白を受け入れる。
シンジも控えめで穏やかな感じがするレイに好意を持っていたのだ。
付き合う事になったシンジとレイだが、それから数ヵ月、特に進展は無かった。
たまに放課後に寄り道して話をするぐらい。
しかしお互いの緊張をほぐすのに大切な期間だったのだ。
そして夏休みに入り、自然な流れで会う事が難しくなると、レイは一大決心をした。
自分からシンジをデートに誘ったのだ。
シンジもレイの誘いにOKと答え、シンジとレイは海へ遊びに行く約束をした。


そして迎えたデートの日、8月7日。
朝、シンジの家で待ち合わせをしたシンジとレイは出掛けようとしていた。
玄関を出ようとしたタイミングで来客者を告げるチャイムの音が鳴り響く。

「やっほーシンジ、グーテンモーゲン!」

シンジがドアを開けると、元気いっぱいに玄関の前に立っていた、赤みを帯びた金髪の青い瞳の少女にシンジとレイは驚いた。

「えっと……君は誰?」
「もう、待望の織姫が1ヶ月遅れの七夕に舞い戻って来たのに、つれないわね」
「……アスカ? 帰って来るなんて聞いてなかったけど?」
「そう、シンジをビックリさせてやろうと思ってね」

アスカは胸を張って答えた後、シンジの隣に居るレイに尋ねる。

「で、アンタ誰?」
「わ、私は碇君の恋人よ!」
「アンタバカぁ!? シンジの恋人はこのアタシよ!」

レイがそう答えると、アスカは大声で叫び、シンジの左手をつかんだ。

「碇君から手を離して。昔はそうだったかもしれないけど、今は私と碇君が付き合っているの」

いつもは控えめなレイもアスカに対して一歩も引かず、シンジの右手をつかんだ。

「ねえ2人とも、落ち着いてよ……」

にらみあいを続けるアスカとレイをシンジがなだめようとするが、どちらも引き下がろうとしない。

「どうしよう……」

門と玄関の狭間で困窮極まったシンジの所に、助け船が現れる。
それは碇家を訪問した、ゲンドウとユイの部下である葛城ミサトだった。

「ユイさんに頼まれて様子を見に来たら、予想通り面白い事になってるわね」

どうやらユイはアスカの家族がドイツから帰って来た事を知って、このような展開になると見越していたようだ。

「ミサトさん、面白がっていないで助けて下さいよ」
「分かったわ」
「シンジに馴れ馴れしく話し掛けているけど、アンタもシンジの恋人だって言うんじゃないでしょうね!」

アスカがにらみつけると、苦笑しながら首を横に振って否定する。

「私は葛城ミサト、シンジ君のご両親には仕事でお世話になっているの。まあ、シンジ君のお姉さんって所かしら」
「お姉さん?」
「何よ、文句ある?」

眼光を鋭くしたミサトが聞き返すと、アスカは黙り込んだ。
シンジとレイもそのミサトの迫力に、口を挟む事は出来なかった。

「そこで私から提案があるのだけど……アスカちゃんもレイちゃんも、シンジ君の気持ちを考えないで無理やり、って子供っぽい事はしないわよね?」
「も、もちろんよ!」
「ごめんなさい、碇君」

アスカとレイが握っていた手を放すと、シンジはホッと息を吐き出した。

「でも、アスカちゃんもレイちゃんも、シンジ君の事を好きって気持ちは負けないと思っているんでしょう?」
「当たり前じゃない!」
「私も譲れません」

ミサトの問い掛けにアスカとレイは迷いの無い、毅然とした表情で答えた。

「なるほど、だけどシンジ君にすぐ決めろって言うのも酷な話よ。シンジ君にも考える時間が必要だとは思わない?」
「それならどうしろって言うのよ?」

アスカに尋ねられたミサトは、胸を張って答える。

「だからこの夏休みの間、シンジ君はアスカちゃんとレイと過ごして、どちらと正式に付き合うのか決めるのよ」
「えっ!?」

ミサトの提案を聞いたシンジは驚きの声をあげた。
しかしアスカとレイは乗り気のようで、早くも火花を散らしている。

「さあ、今日は海に出掛ける予定だったんでしょう? ついでだからお姉さんが車で海へと連れて行ってあげるわ」
「えっ!?」

シンジはミサトの車の運転がとても荒っぽい事を知っているので、真っ青な顔になった。

「よし、シンジがイチコロになっちゃう勝負水着を持って来るわよ!」
「私も……負けない!」
「ほらほら中学生なんだから、あんまり過激なのは無しよ」
「ちょっと……アスカ、綾波!」

シンジが止める間もなく、弾かれたようにアスカとレイは走り去ってしまった。

「さあて、シンジ君は幼馴染の元気な女の子と、告白して来た控えめそうだけど芯の強い女の子と、どっちを選ぶのかしら?」
「ミサトさん、面白がらないで下さいよ……」
「私はお姉さんとして、シンジ君の身を案じているのよ」

ニヤニヤ顔のミサトにそう言われても、まるで説得力が無い。
今日は楽しい初デートのはずだったのに、シンジはもう疲れた顔になってため息をつくのだった。

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