【コラム】先天性謝罪欠乏症

「すみません」と言えなくて遺憾?

 「『すみません』と言えば済むことなのに、なぜ最後まで言えないのか分からない」「男の人たちは『ごめんね』を『オレはダメなヤツだ』と同じ意味だと思っている」「6日間家に帰らず酒を飲んでたっていいだろってことよ。ところがそれについて何かちょっとでも言ったら、口をぎゅっとつぐんで返事をしなくなるでしょ。何か言うと急に機嫌が悪くなるんだから」

 わが家でもよそのお宅でも、韓国の男たちの態度は似たり寄ったりだろう。女も男も間違うことはある。問題は、韓国人男性は「申し訳ない」「すまなかった」「ごめん」という一言を口にするのを非常に恐れているということだ。

 この「先天性謝罪欠乏症」は韓国人男性に限ったことではない。公私・国内外を問わず同じような現象が見られる。米国である男性が医療事故により兄を亡くした。病院側は当然、謝罪しなかったが、だらだらと長い訴訟の末に補償金を受け取ることになった。しかし男性は虚脱感でいっぱいだった。「本当に望んでいたのは担当医が責任を認め、心から謝罪し、事故の詳細を説明することだった」と話した。

 後にこの男性は非政府組織(NGO)「ソーリー・ワークス(Sorry Works)」を設立した。お金よりも心からの謝罪の方が先だという考えからだ。医療事故が起きた場合、医師であれ患者であれ真実だけを話すと約束する。そして徹底した調査を行い、ミスを犯した方がきちんと謝罪する。この制度を導入したところ、ミシガン大学病院では2001年に訴訟件数262件・訴訟期間20カ月だったのが、05年には11件・9カ月へと激減した。ハーバード、スタンフォードなどの大学病院でも同制度を導入したところ、効果がみられた。もちろん、患者が負けたケースも少なくない。しかし、事故の過程を確認することで納得し、癒やされれば、強硬な態度で抗議する患者は大幅に減る。この話は数年前、本にもなった。

 「すみません」「私が間違っていました」という相手には強く言えない。申し訳ない、間違っていたと言っているのに、どうしようというのか。もちろん、これも受け取る側に悪用しようという意図がなければの話だ。後輩に「医師は絶対に患者に対して『私が間違っていました』という言葉を口にしてはならない。その瞬間から患者側との争いが始まる」と言う医師もいるという。謝罪が足を引っ張るからだ。このため米国・カナダ・オーストラリアの一部の州では「申し訳ない」「お気の毒です」といった謝罪や慰めの言葉を、法廷では「法的過失を認める言葉」と見なしてはならないという一種の「謝罪悪用禁止法(Apology Act)」がかなり以前から採用されている。

 ロンドン五輪のフェンシングで、時間を計るボランティアのミスにより、シン・アラム選手がメダルを逃すという事態が発生した。この問題の責任は、15歳のボランティアよりも、そのようなシステムを放置した主催側のミスの方が大きい。これを受けて国際フェンシング連盟(FIE)は「試合判定に不手際があったことを認め、シン選手のスポーツマンシップをたたえ特別賞を授与する」と発表した。正式な謝罪はできないが「メダルはやるぞ」というのだ。だが、韓国国民はこうした態度にさらに憤慨している。

 大統領選の党内予備選がいよいよスタートし、今後は有力候補者たちの過去の過ちが明らかになると予想される。その中には事実も事実でないこともあるだろう。だが、事実だと確認された過ちに対しては、すんなりと事実を認め謝罪してほしい。ただし、謝罪の言葉は非常に重要だ。「非常に遺憾に思っている」「批判を謙虚に受け止めたい」などは、言葉はきれいだが謝罪ではない。「遺憾」という言葉は遺憾なことに全く謝罪に聞こえない。「謙虚に受け止める」という言葉は謙虚どころか傲慢(ごうまん)に聞こえる。男女関係なくたった一言、次のように言ってほしいだけだ。「すみません」「申し訳ありません」と。

文化部=朴垠柱(パク・ウンジュ)部長
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