先月27日、韓国国会の外交通商統一委員会では、民主統合党の洪翼杓(ホン・イクピョ)議員と外交通商部(省に相当)の金星煥(キム・ソンファン)長官の間で、次のようなやりとりがあった。
-(洪議員)「(7月12日に)中国の孟建柱・公安部長が韓国を訪れた際、(当時中国に拘禁されていた、北朝鮮の人権問題に取り組む韓国人活動家の)金永煥(キム・ヨンファン)氏の問題について話し合ったか」
(金長官)「金氏の釈放問題については話をした」
-孟部長は公安部長なので、金氏に対する拷問の件で事実上責任がある当局者ではないか。
「そうともいえる」
-それにもかかわらず、何の問題提起もしなかったのか。
「当時は金氏の釈放が急がれたため釈放問題を提起したが、過酷な行為については中国外務省側に提起し続けていたため、孟部長には提起しなかった」
韓国外交の責任者である金長官のこの答弁は、外交通商部が「金永煥氏拷問事件」の深刻さを認識していなかったことを象徴的に示している。韓国人が中国で、長さ50センチの電気棒により「肉が焼ける臭い」がするほどの拷問を受けたにもかかわらず、孟公安部長に抗議しなかった。洪議員のほかにも、与野党議員が入れ代わり立ち代わり金氏への「拷問」について質問を投げ掛けたが、金長官は「過酷な行為」という表現で答弁しただけだった。金氏が拷問されたという事実をおよそ40日前に把握していながら、依然として「事実確認中」だと語ったのだ。この件で中国が「善処」してくれることだけを望んでいたと言っても、過言ではない。
それから3日後の先月30日、河今烈(ハ・グムヨル)大統領室長は国会で「韓国政府にできる、あらゆることをするつもり」と答弁した。その後ようやく、外交通商部はこの問題に対する消極的な立場を改めた。遅まきながら「中国で収監されている韓国国民625人について、中国による過酷な行為があったかどうか、全数調査をしたい」と発表した。
外交官が主張する通り、中国問題をめぐって韓国側の外交的手段が制限されているのは事実だ。「テーブルに置いて使えるカードが、中国側に10枚あるとすれば、韓国側は2-3枚にすぎない」という話を何度も聞いた。ならば韓国は、最適の瞬間に、相手を圧倒できる最善のカードを切る戦略で立ち向かうほかない。
金氏に対する電気拷問は、それ自体が「状況の逆転(Game Change)」をもたらし得る事案だ。全世界が中国の人権弾圧問題を注視しているという事実に着目すれば、中国に泣いて訴えるというスタイルのアプローチは変わっていたかもしれない。にもかかわらず外交通商部は、中国公安が韓国国民に拷問を加えたという事実を把握した後も、これを外交手段として活用することは考えなかった。
これまで中国側の協力が得られず中国国内の韓国公館に3年近くも抑留されていた脱北者を、今年初めに無事韓国に帰国させることができた。この事例を今回、外交通商部は参考にできたのではないか。当時中国は、国際世論だけでなく中国国内の世論までもが良くない方向に変わったことを受け、問題を速やかに処理した。この事例を応用していれば、韓中の対立がここまで深刻になることはなかっただろう。
2000年代初めの時点で、韓国外交通商部には「米国だから仕方ない」という「米国例外主義」がはびこっていた。最近は「中国を相手に何ができるのか」という「中国例外主義」が広まっている。こうした例外主義が、国家の基本責務である「自国民保護」にまで影響を及ぼしているというのが、韓国外交通商部の直面している悲劇だ。