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2012年8月12日(日)付

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学力テスト―政策に生かせる調査に

すっきり答えが見つからなくて、もどかしい。全国学力調査の報告書のことだ。文部科学省はこの調査を、政策にどう生かすつもりなのか。去年の調査は中止になったため、震災後初の調[記事全文]

石綿公害判決―住民の健康調査を急げ

住民が健康被害を受けたのは、工場から飛散した石綿(アスベスト)が原因である。国の責任は認めなかったが、神戸地裁はそう指摘し、大手機械メーカーのクボタに3195万円の賠償[記事全文]

学力テスト―政策に生かせる調査に

 すっきり答えが見つからなくて、もどかしい。全国学力調査の報告書のことだ。文部科学省はこの調査を、政策にどう生かすつもりなのか。

 去年の調査は中止になったため、震災後初の調査になった。これまで4回は国語と算数・数学の2教科だったが、理科が初めて加わった。それが今回の特徴だ。

 でも、知りたいことがわからない。「理科離れ」はなぜおきているのか。被災地の子の勉強は遅れていないか。どんな学習支援が効果をあげたのか……。

 「観察・実験が好きな子は理科ができる」。分析はこんな具合で、驚きは少ない。「小学生は理科好きが多いが、中学生になると激減する」などは、過去の国際調査で指摘されていた。

 被災3県の成績は、震災前と大差がなかった。津波や原発事故で、多くの子が不自由な学習環境を強いられたのに。データは興味深いが、分析はない。

 調査はテストのほか、生活習慣などを聞くアンケートもとっている。その質問項目を工夫して、背景を探ることはできなかったか。来年に期待したい。

 今回もふくめ5回の調査は、政策に役立っているのか。

 文科省は「たとえば、少人数学級の効果が調査でわかった」と言う。けれども、その根拠が「成績がいい県を探ると、早くから導入されていたから」では弱い。現に、予算を握る財務省は納得せず、小3以上の少人数学級は実現できていない。

 本来こうした政策の効果を測るには、年ごとの変化を追えるよう問題の難しさを毎年一定にし、試験対策ができないよう問題を非公開にした方がよい。

 ところが、学力調査は学力低下批判のなか、競争で学力を上げる発想から始まった。だから政策を検証する「調査」だけでなく、子どもの弱点をつかんで教え方の改善に生かす「テスト」の役割も掲げている。現場の指導に生かせるよう、問題や答えは公開されている。

 器ひとつにあれこれ詰め込まれ、学力調査はどっちつかずの性格になった。政党のマニフェストさながらだ。

 いまでも、「テスト」としては先生が教え方を工夫する役に立っている。だが、それは多くの自治体が実施している独自の学力調査でもできる。

 国として年30億〜40億円を使う以上、政策づくりに生かすことを優先すべきだ。

 大事な政策に的をしぼり、効果を毎年検証する。そんな文字通りの調査へと、あり方を見直す時期がきている。

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石綿公害判決―住民の健康調査を急げ

 住民が健康被害を受けたのは、工場から飛散した石綿(アスベスト)が原因である。

 国の責任は認めなかったが、神戸地裁はそう指摘し、大手機械メーカーのクボタに3195万円の賠償を命じた。

 石綿被害をめぐって、工場周辺の住民に対する企業の責任を認めた初の司法判断だ。

 兵庫県尼崎市のクボタ旧神崎工場の周辺で05年、住民の健康被害が表面化した。

 クボタは工場から石綿が飛散したことを認めないまま、「道義的な責任はある」として周辺住民に最高4600万円の救済金を支払う制度を設けた。

 中皮腫で亡くなった男性と女性の2組の遺族が、責任を明確にしたいと裁判を起こした。

 判決は工場の不十分な石綿対策を指摘し、75年ごろまでは工場外に石綿が飛散していたと認めた。

 そのうえで、大学教授らの疫学調査をもとに、工場から300メートル以内で1年以上生活して中皮腫を発症した場合、工場が発生源と考えられると判断した。

 工場から200メートルの事業所に勤めていた男性は石綿が病気の原因と認められた一方、1キロ余り離れたところに住んでいた女性側の訴えは退けられた。

 死亡リスクの高い範囲に絞っての認定だが、環境汚染を明確に認めた意義は大きい。

 この判決を被害者の救済に生かしていくことが大事だ。

 石綿は吸ってから発症までの潜伏期間が長く、2040年までに死者が10万人以上になるとの試算もある。被害に気づかずすごしてきた人もいるはずだ。

 まずは住民被害の全容を調べる必要がある。クボタが救済制度の基準としている工場から半径1キロの範囲で、石綿を使っていた期間に生活していた人たちの健康調査をすべきだ。

 旧神崎工場のあった尼崎市は出稼ぎ労働者の多い地域だ。病気に気づかないで故郷に戻った人も少なくないだろう。

 クボタは加害企業としての責任を重く受けとめ、汚染源である工場の石綿粉じんのデータを開示してもらいたい。

 自治体などと連携しながら、患者の居住歴や職歴、石綿を吸った状況を把握できる登録制度をつくってはどうか。

 健康な人で一定期間そこで生活していた場合も登録できるようにする。定期的に健康診断をして、石綿疾患を早期発見できれば治療につながるだろう。

 全国のモデルになるような仕組みを整えてもらいたい。必要なら新たな法律をつくることも考えたい。

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