『軌跡の戦士エヴァンゲリオン』
第三新東京市帰還編(SC)
外伝一話 アスカとエステルのバレンタイン


《第三新東京市 市街》

暦の上では二月。お店はどこもかしこもバレンタインセールの真っ最中。

アタシとエステルは洋服や小物の店をウィンドウショッピングしていた。

「なんで、最近チョコをたくさん売ってるの?」

お店の様子を不思議に思ったのか、エステルが質問してきた。

「バレンタインをしらないの?」

アタシは呆れながらも、バレンタインの事を説明してあげた。

「いいなー、あたし、チョコ食べるの好きだよ。ヨシュアに作ってもらおう。」

「バカ。女の子の方が作るのよ。」

「えー。面倒だなぁ。」

エステルはふくれて答えた。

「ちょうどいいわ。明日はバレンタインだし、手作りのチョコをつくりましょ。」

アタシはチョコレートの材料を買っているあたりから、気づいてしまった。

そういえば、今までシンジにはチョコをあげてなかった。

アタシたちが十四歳の時から二年間暮らしていたリベール王国ではそんな風習なかったし。

料理やお菓子作りの腕もシンジと一緒に食事当番をしているうちにそれなりに上がって、

シンジにおいしいチョコを作ってあげられる自信がある。

そして、シンジはあたらしいアタシの魅力に気づくはず……。

でも、シンジと一緒に作ったら驚かす意味が無いわね。シンジたちを家から遠ざけておかないと。

「はいはい。シンジ君とヨシュア君にはネルフで特別な検査と言ってあげるわよ。」

ミサトにはかなり不自然な命令をでっちあげてもらった。

碇司令まで了解してくれるなんて、『碇アスカ計画』はユイさんの手でかなり進行しているようね。

 

《第三新東京市 コンフォート17》

あたしたちは、キッチンに入ると早速エプロンをしてチョコ作りを開始した。

「どんなチョコを作るの?」

「そうね、ガトーショコラとかはまだアタシにも難しいから、ハート型のチョコにしよっか。」

あたしたちは、ハートの型ぬき、オーブンシート、ボウル、ゴムべら、包丁、温度計などを用意していく。

「まず、チョコを刻むのよ。」

あたしとアスカは包丁で買ってきた板チョコを刻んで行く。

「次は、湯せんをするわよ。」

「湯せん?」

「刻んだチョコをボウルに入れてかき混ぜるのよ。」

「あー面白そう、あたしもやってみたい!」

あたしはアスカからボウルを受け取ると、思いっきりかき混ぜた。

「ちょ、ちょっとエステル、手加減しなさいよ、チョコがこぼれちゃうじゃない!」

「あーあ、チョコまみれになっちゃった。」

チョコまみれになったアスカはあたしからボウルを取り返して、ゴムべらでダマが残っていないか確かめていた。

「エステルがこぼしたせいで、量が減っちゃったじゃないの。」

「あはは。まだ残ってるからいいじゃん。」

「全く。お湯も入っちゃって、これじゃあテンパリングしても固さにムラが残っちゃうじゃない。」

「テンパリング?」

「チョコを滑らかに固める事よ。ココアパウダーをまぶして……、さあ型に入れるわよ。」

アスカはオーブンシートを丸めてコルネを作り、チョコを絞り出して型に入れていく。

「ふう。ギリギリ間に合ったわね。エステルがこぼさなければ、もうちょっと厚く作れたのに。薄っぺらになっちゃったじゃないの。」

「すぐ食べられるの?」

「全く。エステルは色気よりも食い気なんだから。冷蔵庫で固めるの。
アタシたちもチョコまみれになっちゃったし、お風呂に入りましょ。」

あたしはアスカと一緒にお風呂でチョコを洗い流すと、チョコの事が気になって、先に冷蔵庫の方へ駆けて行った。

あたしは冷蔵庫を開けると、自分の分のチョコを取り出して、食べてみた。

「うーん。ちょっと柔らかいところがあったり、固いところがあったり……。」

あたしは、隣にあるチョコに目を向けた。

「アスカの方はどうなんだろ。やっぱり同じかな。……一口だけならいいよね。」

パクッ。

「ああ〜!エステル、何してんのよ!」

とても怒ったアスカはあたしを殴った。グーで殴った。

「なにすんのよ!父さんにも殴られたこと無いのに!」

あたしが怒鳴り返してもアスカはアタシの方を見ていなかった。

「え〜ん。シンジにあげるチョコなのにぃ。」

アスカの宝石のように綺麗な蒼い目から涙があふれ出した。

「ご、ごめん、アスカ泣かないで。」

アスカは肩にかけたあたしの手を振り払って、外に出ていってしまった。

 

《第三新東京市 後のチルドレン公園》

ボクはアスカが泣きながら家を出ていったとエステルから聞いて、ユニゾンの時にアスカが居た公園へと向かった。

入口にはミサトさんが立っていた。

「シンちゃ〜ん、遅いわよ。アスカなら泣きながら公園に入って行ったわよ。」

「仮にでもボクたちの保護者を名乗って居たのに、結局フォローはしないんですね。」

ボクが皮肉たっぷりにそう答えると、ミサトさんはバツが悪そうに俯いた。

「あはは。だってさ、シンちゃんが慰めた方が面白そう……あわわ。」

……本音はそれかい。

「男の子として、頑張るのよ〜。」

ミサトさんはまだボクの後ろの方で騒いでいた。

ボクは公園の奥で膝を抱え込んで座っているアスカを見つけて声を掛けた。

「アスカ、話はエステルから聞いたよ。」

「ごめんね。シンジ。せっかく恋人になって初めてチョコをあげるはずだったのに。」

参ったな……何と言えばアスカが元気になるかわからないよ。

「おーい。アスカ、シンジ〜。」

公園の入り口の方からエステルがこっちに駆けて来るのがみえた。

後ろにはヨシュアが買い物袋を持って涼しい顔でついてきている。

ヨシュア……ボクの事を尾行したな。

エステルは落ち込んでいるアスカの腕を引っ張って強引に立ちあがらせた。

「こら、アスカ。材料を集めて来たわよ。バレンタインはまだ明日じゃない。
そう簡単に諦めるんじゃないわよ!」

翌日。ボクはアスカのチョコがもらえて、めでたし、めでたし。のはずだったんだけど……。

「……で、エステルは自分で食べちゃったんだ。」

「チョコが好きだから、つい……。」

「ヨシュア……。同情するよ……。」

エステルは味見のつもりが全部食べてしまったらしい。四人分をペロリと。

ヨシュアは冷静に見えるけど、かなり落ち込んでると思う。エステルの鈍感さを恨むよ。


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