『軌跡の戦士エヴァンゲリオン』
第三新東京市帰還編(SC)
最終話 明るい未来のための逆行
《ネルフ 作戦会議室》
第十六使徒アルミサエルが倒された直後、アタシたちやネルフの幹部クラスの関係者は作戦司令室に召集された。
集まったメンバーのには誰一人例外無く緊張感が漂っている。全員集まったのを確認すると、碇司令が口を開いた。
「とうとう、死海文書に記されたすべての使徒が倒された。」
「ゼーレはきっと渚君を始末するとともにサードインパクトを起こそうとここに量産型エヴァを送り込んでくるはずだ。」
「我々は、潜水艦に乗り込み、サードインパクトを利用して二年前の並行世界――リベール王国ヴァレリア湖の湖底に跳躍する。」
碇司令と冬月副司令の説明に声を挟む人は居なくて、みんな必死に耳を傾けていた。
「ここにいるメンバーには、シンジ君たちが使徒レリエル戦から帰還した後にその概要を伝えてはいるが、
向こうの世界へ跳躍したものは、二度とこちらの世界へ戻れない。また残念ながら同じ世界に同じ人間が存在することはできない。」
「あれからこちらの世界に残りたいと気が変わった者は、辞退することもできる。恥ずべきことではない。名乗り出たまえ。」
碇司令のこの言葉に、辞退を名乗り出る人は居なかった。
「葛城君。やはり君はリベール王国に行ってくれるのかね。」
「はい。副司令の分まで責務を果たす所存です。それと……姉としてシンジ君とアスカに誠意を示す最後のチャンスですから。」
「この加持リョウジも同じ気持ちです。」
「技術面では私がサポートします。」
「そうか……では私が行く必要は無いな。葛城君でも大丈夫だ。」
「あなた?」
ユイさんは碇司令のこの発言に驚いて目を丸した。
アタシも同感だった。何を言い出すんだろう?
「私は傷つける事しかできなかった。今まですまなかったな。」
そう言って碇司令はこめかみに銃を当てた。
司令が銃の引き金を引く……。
でも、その時銃声が響いて、司令の手から銃がこぼれ落ちた。
「司令!」
「銃が暴発したのか!?」
「シンジ君!?」
シンジがいつの間にか銃を抜いていた。
「右手だけを狙って打ったのか!」
「腕をあげたな、シンジ君。」
「父さん。今度こそ、死んだ気になって協力してよ。」
「ああ……問題無い。」
「そうよ。悪党を騙せるのは、悪人面している司令しかいないわよ。」
「調子に乗るんじゃないの。アスカ。」
ヨシュアはこっそりと司令の背後に忍び寄って居たみたいだけど、出番が無かったわね。
作戦会議室は、別れを惜しむ人たちの声で満ちていた。
「シンジ君。アスカ。今度こそ本当にお別れね。」
ミサトが目に涙を浮かべて近づいて来た。
自分の将来の人生を捨ててまで別世界に行くのだから、今度こそ偽善では無いと信じたい。
アタシは素直にミサトに抱きしめられた。
「向こうに言ったら加持のヤツと仲良くすることにするわ。……もっとも、あいつが浮気しなければの話だけどね。」
「ミサトさんたちなら大丈夫ですよ。ボクたちに愛の結晶を見せてもらったし。」
「赤ん坊をダシにしてアタシたちを説得するんだもの。……もしかして、もう妊娠しちゃってるんじゃないでしょうね。」
「あはは……シタことはあるけど、まだ妊娠はしてないと思うわ……。」
「まったく、ズボラなんだから。」
「……ガサツもでしょ。」
「あーら、いつの間にかエステルちゃんとヨシュア君も来てたのね……キツイツッコミね。」
こうして、ミサトをからかうことができるのもこれが最後か……。
アタシがそんな事を考えていると、ネルフに警報が鳴り響いた。
「ゼーレが動き出したか。跳躍するメンバーは、ただちにセントラルドグマの潜水艦にむかえ。」
「オーバー・ザ・レインボウ艦長!」
ミサトさんは作戦会議室に入って来た人影を見て声をあげる。
「ネルフには艦隊司令の経験者がいないとのことでな。ワシが引っ張り出されたわけだ。
まさか虹だけではなく次元まで越えるとはおもわなんだ。」
ネルフ本部は慌ただしくなった。発令所に向かうのは冬月副指令、ユイさん、オペレーターのメガネとロン毛。
それ以外のネルフ幹部は職員を伴ってこぞって潜水艦に乗り込むみたいだ。
《初号機 操縦席》
『日本政府よりA−801が発令されました。』
『ネルフの特例による法的保護の破棄及び指揮権の日本国政府への委譲です。』
『よし、作戦どおりセントラルドグマに通じる隔壁を全面開放。敵を招き入れる。』
『MAGI、ハッキングを受けています。』
『防壁を展開します……ダメです、乗っ取られました!!』
青葉さんの叫び声の直後、モニターに、バイザーを着けた白髪のお爺さんが大写しになる。
『ごきげんよう、ネルフの諸君。潜水艦に乗って逃げ支度かね。』
MAGIが支配下に置かれているので、こちらから返事は出来ない。でも、空調などはそのまま動いているようだ。
『セントラルドグマを開放して、ゼーレに降伏の意を示すつもりだったのかな?まあいい、命だけは助けよう。
そこで新たなる人類の指導者の誕生を見ているがいい。』
モニターに白いエヴァンゲリオンが空中を移動している姿が映し出された。
『我々ゼーレによる人類補完計画の遂行。その隠れ蓑としてネルフは役に立ってくれた。もう役目は終わった。』
『だ、そうですよ、みなさん。』
『なに、それはどういうことだ?』
モニターのお爺さんが振り返り、移動したカメラの視線の先には――カシウスさんが悠然と立っていた。
『ここの会話は世界中のモニターに映像と音声が配信されているということです。
繁華街のモニター前などでは、貴方の姿にたくさんの人々が足を止めているでしょうなぁ。』
モニターの向こうでは銃を突きつけられて囲まれているゼーレの幹部たちの姿が映し出されていた。
『キール・ローレンツ。民間人の平和を脅かした罪により拘束する。』
『まったく、父さんたらおいしいところばかり毎度毎度もっていくんだから、納得いかなーい!』
『まあ、気持ちはわかるよ。』
弐号機からエステルとヨシュアの声が聞こえる。ということは、機能が回復してきているのかな?
『ふふふ。MAGIが無くても、私達にはカぺルがある!』
エリカさんが自信満々に宣言する。
そういえばエリカさんもラッセル博士も、反対を押し切ってリベール王国から着いて来た(多分好奇心だろうけど)けど、
今まで本編では出番が無かったから、うっぷんが溜っていたんだろうな……ん、本編とか出番って何だろう?
カぺルのサポートによってMAGIはコントロールを取り戻していく。
『日本政府より、A−801が撤回され、Z−801が発令されました。』
『ゼーレの特例による法的保護の破棄及び組織の即時壊滅の作戦コードです。』
『おのれ、貴様の仕業か、カシウス・ブライト!』
青葉さんと日向さんの報告を聞いたキールはモニターの向こうで悔しがっている。
『エヴァンゲリオン量産機は出撃された。もう引き返せませんよ。さあ、我々と一緒に奇跡が起こる瞬間を見届けようではありませんか。』
『量産機9機、日本の領空に侵入しました。』
『もうお別れなのね。せっかくあなたたちと心が通じ合えたのに。』
「レイ……。」
ボクの隣に座ってるアスカはとても悲しそうな顔をしていた。
『アスカお姉ちゃん。最後に碇君が太陽のようだって言っているとびきりの笑顔を私に見せて。』
「グス……でも、アタシ、悲しくて……」
『大丈夫。きっといつかまた会える。そう信じて、楽しいことを考えて。』
「そうね。今度会った時はまたゆっくりおしゃべりしましょう。」
『ちょっと、綾波さん。あたしも居るんだからねっ!』
『ごめんなさい、エステル……さん。私、あなたとそんなに話したこと無かったから。』
『じゃあ、ほれほれ、あたしの笑顔を見せてあげよう。ピースピース。』
『エステル、Vサインだなんて……もう子供じゃないんだから。』
「……アスカ。」
「……うん、シンジ。」
ボクはアスカと一緒にモニターに向かって精一杯の笑顔をした。
『あなたたちの笑顔を見てると……心がポカポカする。』
「って、なんでアタシたちの顔が発令所正面の大モニターに映し出されているのよ!」
『まあいいじゃない。減るもんじゃないし。私も加持も旅立つ前に良いものを見させてもらったわ。
あ、この映像はさすがに世界には送信されてないわよ。ラブレターが来ちゃったら困るものね。アスカ♪』
ネルフ全体に笑い声が響き渡ってる感じがする。最終決戦なのに和やかな空気。誰もが成功を信じてる。頼んだよ、綾波。
『さて、そろそろ自動行動プログラムによって制御されている量産機が本部に着くころだ。頼むよ。』
「クロックアップ改!」(SPD+50%)
『クレスト!』(DEF+25%)
『エヴァ量産機の輸送機がネルフ本部上空、セントラルドグマの直上に到着。量産機の投下が開始されました。』
量産機が着水する音が聞こえる。量産機は零号機以外は相手にしないようだ。零号機を取り囲んで剣を構えている。
『パイロットとエヴァのシンクロを全面カット、急いで!』
『エヴァ、アルサミエル、あなたたちだけに痛い思いをさせてごめんね。』
零号機はコントロールを解かれ、棒立ちになった。無抵抗の零号機に9体の量産機が攻撃を加えて行く。
さすがに1対9では攻撃をかわしきれない。まだ綾波とカオル君はボクたちのようなA.T.フィールドは使いこなせない。
「ティア・オル!」(HP完全回復)
『ティア・オル!』(HP完全回復)
ボクたちは魔法で傷ついた零号機を回復させながら、零号機の攻撃に夢中になっている量産機にダメージを与えて行く。
「くそ、敵のA.T.フィールドは貫通してダメージを与えられるけど、九体は多すぎる……。」
すると、正面のゲートが開いてロボットが出て来た。
『戦略自衛隊から援軍に参りました、トライデント三機。霧島マナ以下三名が戦闘に加わります。』
ボクと同じぐらいの歳だと思う女の子の声が通信スピーカーから聞こえた。これで少しは楽になる。でもまだ足りない。
すると、さらにゲートの奥から製作者の美意識を疑いたくなるような奇妙なデザインのロボットが九体も出て来た。
『行け!ジェットアローン改弐式たち!』
『時田シロウ博士!?』
『はは、葛城さん、あの時はご迷惑をおかけしました。今度の動力は大型電池です。戦闘も十五分は可能です。』
『ゼーレもアレが兵器だとは見抜けなかったみたいよ。』
「シンジ……。」
「アスカ!落ち込みたいのはわかるけど、今はダメだよ。」
『あははははー!前のよりおもしろい形!』
『エステル、笑ってる場合じゃないよ。』
足を引っ張りに来たのかな……。
ジェットアローン改弐式も、エヴァ量産機にダメージを与えられる威力の攻撃ができるみたいだ。ムチによる電撃攻撃。
零号機に対する攻撃も中断されて、一石二鳥だった。二度の大失敗にめげない時田シロウ博士、意外と凄い人なのかも。
ダメージを受けた九体のエヴァ量産機の動きが止まった。
『潜水艦デロリアン、エヴァ零号機付近に向かって発進せよ!』
『オーバー・ザ・レインボウ艦長、なんでこの潜水艦の名前をデロリアンに代えちゃったのよ?』
『フン。セカンドインパクト後に生まれた若造にはわからないだろうがな。タイムマシンはデロリアンと決まっているのだ。』
『セカンドインパクト前に放映された映画の影響らしいわよ、ミサト。』
潜水艦やえしお……じゃなかった、デロリアンはネルフのみんなを乗せて零号機の足元にたどりついた。
『エヴァ量産機、再起動しました!』
装備していた武器を失った量産機たちの攻撃は零号機のA.T.フィールドで防げると思うけど、用心を重ねて様子を見る事になった。
『量産機から翼のようなものが伸びています。攻撃する気配は感じられません!』
『零号機、再シンクロ開始!』
再起動を果たした零号機の通信モニターが復活した。綾波とカオル君は悲しいのを我慢してボクたちに笑顔を見せている。
『……これ以上通信をしていると、泣いてしまいそうだから、切るわ。……さようなら、碇君、アスカお姉ちゃん。』
エヴァ零号機は潜水艦デロリアンをそっとつまみ上げると、はりつけにされていた白い巨人の元へ歩いて行く。
量産機も遠巻きにそれについていく。
零号機の手が白い巨人に触れると、両方とも早い速度で上昇していく。量産機も周りを取り囲む形で飛びはじめた。
そしてその姿が豆粒のように小さくなって行って……見えなくなった。
『エヴァ零号機、量産機、潜水艦デロリアン……。すべてのロストを確認しました。』
「零号機が消える瞬間は見れなかったね、アスカ。」
「綺麗な飛行機雲……。」
青空には、エヴァ零号機と量産機の軌跡が十筋、刻まれていた。
これで、二つの世界を行き来したボクたちの物語はおしまい。
これからは、ボクとアスカとエステルとヨシュアは高校生として第三新東京市で暮らしていくんだ。
まず勉強の遅れを取り戻さないとね。将来の事について考えるのはそれからでも遅くないから。
ボクは料理で人を喜ばせる仕事に就きたいと思ってる。漠然とだけどね。
アスカは……どんな仕事に就くんだろう。アスカは頭が良いからいろんな仕事につけるよね。今度聞いてみよう。
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