『軌跡の戦士エヴァンゲリオン』
第三新東京市帰還編(SC)
第二話 敵はネルフにあり
《日本重化学工業共同体 松代試験場》
碇司令の声が聞こえた途端、シンジの瞳から光が失われた。
アタシは慌ててA.T.フィールドを張り直す。
「ボクがダメだからみんな死んでしまう……死んでしまう……。」
「シンジ、しっかりしてよ!」
アタシが呼びかけてもシンジは全く反応を示さない。
見ているアタシの方も胸が張り裂けそう。
『戦いには犠牲がつきものだ。諦めろ。』
発令所から聞こえる碇司令の声にシンジの体がビクンと震えて崩れ落ちた。
ああ……これじゃあ使徒を倒してもシンジの心が……これまでなの…?
『諦めるんじゃないわよ!』
弐号機からの通信でエステルの声が聞こえた。
『最後まで、みんなが助かる方法を考えるのよ!
下ばかりみてイジイジしない!』
シンジが体を起こした。
「そうだ……助かる方法を考えるんだ。」
「シンジ!」
目に光を取り戻したシンジを見てアタシはうれし涙を流した。
あーあ。やっぱりエステル姉さんの輝きにはかなわないか。
下ばっかり見てないで……下……地下!
「思いついたわ!」
「ええっ、本当?」
「シンジ、エヴァの操縦をお願い。……マヤ、ミサトに連絡して、パーティー会場に居る人たちをシェルターに避難させて。」
『でも、アスカ。あのシェルターでは爆発にはとても耐えられないわよ。』
「大丈夫。アタシを信じて。シェルターへの避難が完了したらアタシに教えて。
さあ、シンジ。ジェットアローン改を抑え込むわよ。」
「うん。頑張るよ、アスカ。」
初号機と弐号機で両腕の無くなったジェットアローン改を抑え込む。
そして、数分後。
『シェルターへの避難が完了したわ。』
発令所から待ちに待った通信が入った。
『マヤさん、車に乗り込んで逃げようと駐車場に向かっている人が居ます。連れ戻すように伝えてください。』
ヨシュアは研ぎ澄まされた感覚から人の気配を感じ取ったようだ。
『……ごめんなさい。今度こそ避難は完了したわ。』
よかった。ひとりでも死者が出たことが分かったら、シンジの事だから落ち込むに決まってるわ。
『炉心融解まで後五分。』
「シンジ。アタシは魔法の詠唱に集中するからよろしく。」
初号機から魔力が解放されるのを感じる。
「アースウォール!」
アタシはシェルターを中心とした一帯にアースウォールの魔法をかけた。
この魔法は敵の攻撃を一回だけ完全に防いでくれる。
エヴァに乗っているからってシェルター全体にかけられるとは思わなかったけど。
その後、ジェットアローンは炉心融解して、パーティー会場本館や周囲の建物は消え去ったけど、
シェルターは無傷で、救助したみんなに感謝されたわ。
「シンジ、もっと喜びなさいよ、ホラホラ。」
アタシはシンジの腕をつかんで思いっきり振り回した。
ちょっとオーバーかもしれないけど、子供のように喜んで見せた方がシンジは嬉しいと思うから。
ご褒美よ。ご褒美。
《弐号機 操縦席》
ジェットアローン改の事件以降、シンジは初号機に乗る事を拒否している。
碇司令に言われたことが堪えているようだ。
『シンジ。私の立場も分かってくれ。』
『そうよ、シンジ君。あれは仕方がないことだったのよ。』
発令所ではミサトさんや碇司令が懸命に説得をしている。
『ミサトさんだって、使徒に取りこまれたアスカを見捨てようとしたくせに!』
やれやれ。シンジは吹っ切れたと思ったのにまだ拘っているのか。意外と頑固だな。
「僕はあの爆発で赤の他人を助けようと全然思わなかった。」
僕は弐号機の通信マイクに向かって、発令所に聞こえるように話しかける。
隣に座っているエステルに視線を送る。
「こういう時、自分がたまらなく嫌になる。人として不完全じゃないか、
心のどこかが壊れているのかもしれない。いや、すでに壊れていて人形なのかも…。」
エステルはコンソールを激しく叩いて怒って叱り飛ばした。
「そんなことない!この五年間、あたしはヨシュアの事をずっと見てきた!
良いところ、悪いところは誰よりも知っている自信がある!
たぶん、ヨシュア本人よりもね!あたしを差し置いて、勝手な事いうんじゃないわよ!」
『そ、そうだよ!ヨシュアは人形じゃない。ひとりの人間なんだ。』
発令所からシンジの慌てた声が聞こえて来た。もうひと押しだね。
「じゃあ、碇司令やミサトさんも同じ痛みを感じているわけだよね。人間だから。」
『あっ。』
『ヨシュアも人が悪いわね。二年前と同じ場面を再現してシンジを騙すなんてさ。』
「あたしも危うく騙されるところだったけど、成長したものね。」
「調子に乗らないの。」
エステルにツッコミを入れたとき、僕は邪悪な気配が近づいているのを感じた。
「ミサトさん、北東の方向から敵が近づいてきます!」
『使徒!?レーダーに引っ掛からなかったの?
でも、ヨシュア君のおかげで絶対防衛線は突破されずに済みそうだわ。』
「さあ、シンジ。二人の愛の力で使徒を倒すわよ!」
アスカとシンジは元気に初号機に乗り込んでいった。
使徒ゼルエル戦はあっさりと決着がついた。
僕たちのA.T.フィールドは破られなかったし、使徒のA.T.フィールドはあっさり中和されて、
固い装甲に守られていたコアも弐号機の一突きで粉砕。
S2機関も動力がセプチウムの新エヴァには必要なかった。
《第三新東京市 焼き肉屋》
使徒を倒したあたしたちは、ミサトさんとリツコさんに連れられて焼肉屋に入った。
でも座席はあたしたち四人組とミサト・リツコ組とは別。
「ねえ、シンジ。この肉が良い具合に焼けているわよ。あーん。」
ゴックン。
「ア、アスカ。アスカはタン塩が好きだったよね。はい、あ、あーん。」
ゴックン。
シンジもちょっと照れがあるけど、アスカの求めに応じているみたいね……。
あたしの前に肉が差し出された。
パク。
あたしはヨシュアのつかんでいる肉を食べてあげた。
「えーい、お返し!」
「ごほっ、エ、エステル、一時に何枚も口には入らないよ。」
「どーだ、参ったか。」
「勝ち負けの問題じゃないと思うんだけど……。」
あたしがヨシュアに肉を食べさせて満足していると、視界の隅にとんでもない光景が飛び込んできた。
「シンジ。頬っぺたにご飯粒が着いちゃった。取って。」
シンジが手を伸ばして取ろうとすると、
「まだ分かってないわね〜。口で取って、く・ち・で!」
「う、うん……。」
そう言ってシンジはアスカに顔を近づけていって……。
ペロリ。
「はは、あそこまでとは参ったね。エステル。」
ヨシュアはそう言って、あたしの指先についたご飯粒を眺めている。
「ばれてるか……。」
《第三新東京市 コンフォート17》
僕たち四人が焼肉屋で食事を終えて公園の前を通りかかると、
公園の中から僕たちを探るような視線を感じた。
「そこに隠れている人。出てきてください。」
すると、学生服を着た青い髪の少女が出て来た。確か……綾波レイさん、だったかな。
「私は私の碇君を取り戻しに来たの。」
「綾波!?」
「碇君。私と一つになりましょう。」
「な、なにを言い出すんだ……。」
「碇君は私に笑って欲しいって、優しい言葉を掛けてくれたわ。
私の部屋で私の裸を見た。そして倒れかかって来た。本当の事よ。」
「そっか、シンジは誰にでも優しいんだよね。ファーストにも手を出していたんだ。」
「アスカ!アスカーー!」
アスカは泣きながら走り去ってしまった……。
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