『軌跡の戦士エヴァンゲリオン』
第三新東京市帰還編(SC)
第一話 最狂爆弾兵器JA改の恐怖
《初号機 操縦席》
『あなたたちがレリエルを通じて別世界で二年を過ごして戻って来た、ですって?』
『しかもその世界で未来でサードインパクトを起して時間をさかのぼった我々と会ったというのかね。』
『確かに、シンジ君とアスカのDNAは一致しているけど……。』
モニターの向こうの発令所は混乱が続いているみたいだ。
「そうだ。父さんから手紙を預かって来たんだ。」
ボクはしまっていた紙を取り出した。
『もうお前たちの無駄話に付き合っている暇はない。』
今まで口を開かなかった父さんがついに喋り出した。
ボクは紙をモニターの前で広げた。
発令所のモニターには、
黙れ!
ゲンドウ
と書かれた紙が映し出されているはずだ。
『わかった、シンジ。お前の話を信用しよう。』
『碇!』
『司令!』
『問題無い。』
手紙一枚にこんなに効果があるなんて!
隣に座っているアスカは肩を震わせて笑いを堪えてる。
『あははははー!』
弐号機に繋がっているモニターの向こうでエステルが大笑いしている姿が見えた。
《弐号機 操縦席》
「あははははー!」
あたしは弐号機の中でモニター越しに交わされている会話がおかしくて、噴き出してしまった。
「エステル、もうちょっと礼儀正しくした方がいいよ。」
隣に座っているヨシュアが呆れ顔であたしにツッコミを入れてきた。
『エステル、だっけ?あんたの事も聞かせてもらうわよ。』
モニター越しからちょっと苛立ったようなミサトさんの声が聞こえる。
とりあえず、あたしたちがいきなり処分される事は無くなったわね。
『じゃあ初号機と弐号機はケージに戻ってくれる?』
あたしはヨシュアと一緒に警戒しながら弐号機を降りた。
ケージではミサトさんが待っていた。
「ようこそ、ネルフへ。さあ、司令室へ案内するわ。」
アスカとシンジも合流して一緒に司令室への廊下を歩いて行く。
あたしたちに不信感を与えないようにするためか、ミサトさん以外の姿は無い。
「加持さん。隠れてないで出てきたらどうですか?」
ヨシュアが物陰に向かって声をかけると、物陰から無精ひげの男性――加持さんが出て来た。
「いやあ、気配を消したのに気づかれるとは、君は何者だい?」
「ただの元暗殺者ですよ。」
ヨシュアがニッコリ笑って答えるとミサトさんは悲鳴を上げた。
「ぎょえええ、暗殺者!?」
「ミサトさんの旦那の加持さんも似たような仕事してるんじゃない?」
「ぎょえええ、加持が旦那!?」
あーミサトさんが、完全に固まってしまったわ。
《ネルフ 碇ゲンドウの部屋『司令室』》
「盗聴器と監視カメラの類はここに無い。安心して話してくれたまえ。」
副司令がそう言うと、今まで質問をしたくてウズウズしていたリツコが早速発言をする。
「じゃあ、まずはそこの二人がなぜ弐号機を動かせるのか教えてもらいましょうか。
なんなら、あなたたちを検査してもいいのよ。」
「エステルに触るな…。
もしも、変な実験でもしてみろ…。
ありとあらゆる方法を使ってあんたを八つ裂きにしてやる…。」
「ひいぃ。」
ヨシュアに睨まれたリツコが悲鳴を上げた。
「じゃ、じゃあなぜエヴァンゲリオンが改造されているのかしら?」
リツコは質問の矛先を変えたようだ。
「例えば、戦車に運転手と砲撃手が存在するように、ひとりが防御、もう片方が攻撃に専念できる。
回避行動に集中しながら魔法の詠唱に集中することができるわけ。ひとり乗りより合理的でしょう?」
もっとも、アタシたちみたいに気持ちが通じ合っていないと乗りこなせないけど。ねシンジ?」
アタシはシンジの腕に自分の腕を絡ませながらそう話した。
「誰が、そんな改造をしたのかしら。」
「それは私たちよ。」
アタシたちがその声が聞こえた入口の方に視線を送る。
「ユ、ユイーー!!」
碇司令は椅子を蹴飛ばして立ちあがり、凄い勢いでユイさんの元に駆けつけたわ。
でも、ユイさんは抱きつこうとした碇司令に平手打ちを喰らわせた。
「ゲンドウさん!今までシンジやリツコさんたちに酷いことをした事を反省しなさい!」
「すまない。」
「じゃ、許す。」
と言ってユイさんは背伸びして碇司令にキス。
司令室の中は凍りつく人、睨みつける人、反応は様々だったわ。
《第三新東京市 コンフォート17》
飛ばされた世界の事とか、新しくなったエヴァの説明は母さんに任せて、
ボクたちはミサトさんの部屋から引っ越しをしていた。
ボクはネルフに戻って来た日から、アスカと二人暮らしをするようになったけど、
寝るとき以外は結局、以前カシウスさんの家で暮らしていたように四人で居ることが多かった。
アスカは父さんに頼んで、リビングの壁をぶち抜いて一つの部屋にしちゃうし。
でも、カシウスさんに拾われた十四歳の頃と違うのは、
アスカの側に居るのがエステルじゃなくて、ボクって事かな。
「シンジ。ハンバーグ食べさせて。あーん。」
ボクはハンバーグを切り分けて、息を吹きかけて冷ましてからアスカの口に運んであげる。
「ねえ、アスカ。どーしてあたしたちの前でそう言う事するのよ。」
「バカね。エステル。見せつけるために決まってるじゃない。二人きりでやるより、
誰かの視線を感じていた方がテンションが上がるのよね。」
「アスカ。恥ずかしいよ。もしかして、そういう趣味……。」
「シンジ、それ以上は言わない方がいいよ。」
「そ、そうだねヨシュア。」
「エステルも、来週から高校に通うようになったら、他の女がヨシュアにちょっかいを出さないように、
たっぷりと見せつけてやりなさいよ。」
「そ、そうかな……。ヨ、ヨシュア。」
「はい、エステル。口を開いて。」
「うん、……おいしい。」
ボクたちの夕食の食卓には、巨大なハンバーグが中央の大皿に乗せられるのが定番になった。
ゆっくりと時間をかけた夕食が終わった後、二人でソファーに腰かける。
アスカはボクの肩にそっと頭を乗せていた。
向かい側のソファーに目を向けると、ヨシュアもエステルと肩を寄せ合って居た。
ボクたちは特に喋らなかった。体がそっと触れあっているだけで幸せだ。
「あ、お風呂が沸いたみたいね。エステル、行こう。」
アスカとエステルがバスルームに行くと、部屋にはボクとヨシュアが取り残される。
ボクは煩悩を抑えながら夕食の後片付けをする。
「アスカって、スタイルいいし可愛いし。あたしが男だったら絶対惚れてたね。」
「エステルだってさ……。」
バスルームから二人の話声が聞こえてくる。大きな声で話さないで欲しいな。
ヨシュアも読書をしているけど、あまり落ち着いていないみたいだ。
「シンジ〜♪お風呂空いたわよ。」
アスカはお風呂上がりにバスタオル一枚というスタイルで、ボクを挑発してくる。
最近はエステルも影響を受けたのか、同じ服装で……。
でも、本当はバスタオルの中は寝巻に着替えている事を知っている。
でも、万一何も着てなかったら……。エルモ温泉の時の事を思い出すと興奮してしまう。
「アタシの体、ナマで見てみる?あはっ、一回見せちゃったんだっけ。」
ボクは顔を真っ赤にしてバスルームに駆けていく。
残ったヨシュアはもっと我慢させられるんだろうね。ごめん。
「じゃあシンジ、おやすみのキス。」
キスが終わると、アスカが先にベッドに入って、ボクを隣に招き入れる。
昔はエステルが悪夢にうなされるアスカを抱きしめて寝ていたけど、
こっちの世界に戻ってきてからは、ボクが隣で寝ている。
もう悪夢は見なくなったけど、寂しいから、だってさ。
ボクとアスカはキス以上の関係にはまだ行っていない。
でも、アスカが隣に居ると、ボクはドキドキしてなかなか眠れない。
「うにゅ〜シンジィ。」
寝言なのか、そう言ってアスカがボクに抱きついてくると、
アスカに嫌われてしまうんじゃないかという不安はすっきり消えて気持ち良く眠れるんだ。
《日本重化学工業共同体 松代試験場》
次の日の朝。松代で第十三使徒バルディエルがジェットアローン改に寄生したって一報が飛び込んできた。
ボクたちはエヴァに乗り込み、飛行モードで松代に向かった。
ボクたちが到着すると、巨大ロボット『ジェットアローン改』は突然、腕を伸ばしてきた。
間一髪A.T.フィールドを展開して、腕の攻撃を弾き飛ばす。
『シンジ君。ジェットアローンの本体に強い衝撃を加えると、爆発する恐れがあります。』
発令所にはミサトさんもリツコさんも居ないので、マヤさんがモニターに映し出されている。
『ジェットアローン改をエヴァ両機で持ち上げ、飛行して上空高くで爆発させるというのが今回の作戦です。』
『君たちにばかり危険な任務を押しつけて、すまんな。』
『炉心融解まで後二十分!』
「シンジ!防御は任せるわ!アタシはアイツの肩を捕まえる!」
ボクの乗る初号機は伸びるジェットアローン改の腕に腕をA.T.フィールドの上からつかまれてしまった。
高圧電流が放出されたけど、A.T.フィールドのおかげでダメージはない。
アスカは攻撃をものともせずに突き進んでいく。エステルの操る弐号機と一緒に。
ジェットアローン改の肩をつかんだ時には敵の腕は根元から折れてしまっていたけど、
危険な本体が残っている事には変わりはない。
「よーし、持ち上げるわよ!飛行モードに移行。」
だけど、ジェットアローン改は全く浮上しなかった。
「な、なんで持ちあがらないのよ!エステル、出力最大にしてるわよね!」
『ジェットアローン改の体重が重すぎる!?』
『仕方ない。A.T.フィールドがあればエヴァは爆発に耐えられる。』
通信スピーカーから流れる父さんの声にボクは頭を殴られたようなショックを受けた。
ミサトさんが、リツコさんが、周りに居る人たちが一瞬にして消え去ってしまうイメージが頭に浮かぶ。
ボクの頭は悪い思考に支配されて、それ以外何も考えられなくなった。