『僕のアスカ。太陽のような君。』
リベール王国来訪編(FC)

第六話 唇で交わした約束


ボクは市長ダルモアが血走った眼で、こちらに銃を向けるのを見た。
隣にはアスカがいる。
ボクは撃ち殺されたアスカが血を流して倒されるのを想像した。
そんなの嫌だ。
アスカを守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい。
ボクは目をつぶって、それだけを考えていた。
銃弾が跳ねかえる音に目を開けると、ボクの前に金色の障壁が、アスカの前には白い障壁が展開されていた。

「「A.T. フィールド!?」」

ボクとアスカは目を丸くして驚いた。
驚いたダルモア市長はボクたちに向かって銃を乱射するけど、銃弾はすべてA.T.フィールドに弾かれた。

「ば、化物〜!」

銃が効かない事に錯乱したダルモア市長は、杖を投げ捨てて、階段を上って屋上に逃げていった。
その姿を見ていたボクの意識が急に途絶えた。

 

あたしはアスカとシンジの前に二色の光の壁が現れて、ダルモア市長の撃った銃弾を跳ね返すのを呆然と眺めていた。
光の壁が消えた後、アスカとシンジは気を失って倒れてしまった。

「てめえ、何逃げようとしてるんだ」

後ろに居たアガットが、こっそりと逃げようとしていた、秘書のギルバートを捕まえようとしていたみたい。
倒れたアスカとシンジをクローゼに任せて、あたしとヨシュアは逃げたダルモアを追って階段を上がった。
あたしたちが屋上に上がると、すでに逮捕されているダルモア市長を発見した。
取り囲んでいる兵士たちの服装は普通の王国軍の兵士と違って豪華な感じ。
隣に居るヨシュアに聞いてみると、多分、親衛隊だろうと言った。
あたしが大きな着いて頭上を見上げると、定期便より一回り小さい大型飛行船が浮かんでいた。
タラップから縄ばしごが下されて、そこから隊長クラスらしい女性と男性が降りてきた。

「罪人ダルモアを逮捕しました、ユリア隊長」

親衛隊の一人が女性隊長に向かって敬礼する。

「御苦労」

そう答えたユリアさんはあたしたちに気づいて、いや視線はあたしたちの後ろだった。
ユリアさんはあたしたちの後ろに立っていた人物、クローゼに向かって敬礼していた。

「ご命令により、参上しました、クローディア姫殿下」

ええ〜っ、クローゼって王女殿下だったの!?

「エステルさん、黙っていてごめんなさい。私は普通の女の子の生活に憧れて、逃げていました。でも、みなさんの姿を見て、私も王位を継いで国民を守る決意ができました」
「クローゼなら、良い女王様になれるよ」
「ありがとうございます。ただ、守りたい男性はまだ、居ませんけどね」

クローゼは嬉しそうな、ちょっと憂いを秘めた顔でそう答えた。
シンジは王女様を振ってアスカと付き合ってるんだっけ。
アスカがこの事を知ったら泣いて喜ぶかな?
もしかして、王女様に勝ったってタカビーに……ならないよね?
クローゼはユリアさんと一緒に来ていたミュラーさんって男の人と一緒に親衛隊の飛行船《アルセイユ》に乗って行ってしまった。
さすが王国一早い飛行船、アスカとシンジが目を覚まして屋上に上ってくるまでの間に豆粒みたいに小さくなってしまった。

 

《ルーアン地方 マノリア村》

アタシたちは事件解決の功績が認められて、ルーアン支部の推薦状をもらった。
アタシたちは、ツァイス地方に行く前に、マノリア村に火事に遭ったマーシア孤児院の子供たちの様子を見に行くことにした。
孤児院の子供たちの面倒は旅の巡回神父とシスターが見てくれているという。
神父さんたちは授業を終えて食事中らしい。

「ケビン、そっちのパエリアも食べたい。でも、このサンドイッチが大きすぎて、手がふさがってるの。だから、ほら、あーん」

アタシたちが村の風車の前にある展望台に行ってみると、シスターさんがケビンと呼んだ神父さんに向かって口を開けてるの。
それを見たアタシたち四人は固まってしまって、ケビンさんとシスターさんに声をかける事は出来なくて立ちつくしてた。

「ほ、ほら人がみてる。見られたら、わいらの事恋人同士と誤解してまうねん」
「ケビンは私の事、嫌いなの? グスン」

シスターさんは冗談混じりに嘘泣きの仕草をしていた。

「そないな事いわんといてや。嫌いやない、リースのことメッチャ好きやねん♪」

ケビンさんはごまかし笑いで明るく答えた。

「嘘。今でもルフィナ姉さんが好きなんでしょう」

リースさんは急に深刻な表情になった。
ケビンさんもその雰囲気を察してか、今までの軽い調子を崩して、話出した。

「ルフィナ姉さんは憧れていただけや。でもワイはリースを好きになる資格なんて無い。ルフィナ姉さんを殺してしまったわいはリースを傷つけるだけや……」

その言葉を聞いたアタシは見ず知らずのケビンさんを思いっきり殴ってしまった。

「アンタ、バカァ!? 人を好きになるのに資格なんているわけ!? 好きなら好きって言えばいいのに! 一緒に居たいなら居たいって言えばいいのに!」
「あたしもアスカと同意見よ。過去は過去、大事なのは今の気持ちなんだからっ!」

エステルもアタシの言葉に続いてくれた。
ケビンさんはアタシの突然の行動に呆然としていたけど、ふっ、と微笑むと殴られた頬をさすりながら、こう言った。

「その通りやな。ワイはリースと共に歩いていきたいと思ってる」

その言葉を聞いたリースさんはケビンさんに抱きついた。

「ケビン、やっと心を開いてくれた。今までのあなたは誰にも心を開いていなかった。空っぽの笑顔を見ていて辛かった……」

リースさんは涙を流しながらそう言った。

「さあ、キスしちゃいなさいよ!」

アタシがそう言うと、リースさんはアタシたちの前でケビンさんの唇を奪った。
ちょっと長めのキスが終わった後、リースさんはアタシを睨んでこう言った。

「ケビンと恋人になれた事には感謝しますけど、人をいきなりグーで殴るなんて、お行儀が悪すぎます!」

アタシはリースさんに説教を喰らう羽目になった……。

 

《ルーアン地方―ツァイス地方 カルデア隧道(トンネル)》

カルデア隧道。ルーアン地方からツァイス地方へ徒歩で行くにはこの洞窟を通らなければならない。
アガットさんを先導役として僕たちは進んで行くと、前方から女の子の悲鳴が聞こえた。
先頭を歩くアガットさんはいち早く駆けつけ、女の子を襲っている魔獣を追い払った。

「こら、チビスケ。一人で何をやってるんだ!」

アガットさんに助けられた女の子は、僕たちよりも年下のようだった。

「ふえっ。ごめんなさい。どうしてもやらなきゃいけない仕事があったんですぅ」

アガットさんは、それ以上強く怒る事はできなかった。
女の子はツァイス工房の見習い、ティータと名乗った。
確かに導力バズーカと作業服のツナギに耐熱ゴーグルと、工房士らしい服装をしている。
ティータは目的の洞窟内の照明の修理を終えると、僕たちを護衛として帰る事になった。
ティータはアスカと導力技術について難しい話題で盛り上がっていた。
アスカの事を気に入ったティータは、僕たちを家に招待して夕食をご馳走してくれた。

 

《ツァイス ラッセル家》

ティータの家に案内された時は、アタシは驚いた。
ティータがリベール王国の一番の導力技術者、ラッセル博士の孫だったなんて。
ラッセル博士は、ちょっと発明狂な所があるけど、人のいいお爺さんって感じ。
ティータの両親も外国から帰ってきているみたい。
お母さんのエリカさんはパワフルな女性で、ラッセルさんと喧嘩はよくしているし、
ティータに近寄るアガットを排除しようとしたりしていた。
アタシの事を気に入って娘にしたいって言ってくれた。
その気持ちだけ受け取っておく。
お父さんのダンさんは穏やかな人で、ティータの家庭は暖かいんだなと思った。

「湖に巨大な人型兵器が墜落したって噂を聞いて、外国から戻って来たのよ」

エリカさんの言葉を聞いて驚いたシンジは食べていた夕食を噴き出してしまった。
シンジ、ぼろを出さないといいけど。

「ワシも調査に行きたいんじゃが、最近妙な連中がウロウロしているからのう」
「王国の情報部の連中が奴らと結託して邪魔してるのよ。何を企んでいるのかしら」

アタシとシンジはその話を聞いて、エヴァンゲリオンが結社に利用される可能性がある事に気がついた。
アタシたちはラッセルさんたちを信じてすべてを打ち明ける決意をした。

「お前さんたちがあの機械のパイロットじゃと!?」

アタシたちの話をラッセルさんたちは信用してくれたらしくて、熱心に話を聞いてくれた。

「じゃが、今お前さんたちがあそこに近づくのは無理かもしれん」

ラッセルさんの話によると、謎の組織は湖の近くに建物を建てて、しかも王国の情報部まで根回しして部外者を立ち入り禁止にしているらしい。
ラッセルさんが出会った謎の組織の責任者はヒゲ面のサングラスを掛けたおっさんだったそうだ。

「アルバ教授じゃなさそうだけど……。結社の幹部の一人かな?」

シンジが腕組みしながらそう呟いた。

「うーん、僕が知っている結社の執行者の中にはそんな人は居なかったけど」

ヨシュアは考え込む仕草をしながらそう言った。
結局結論が出なかったけど、ラッセル博士は家族総出でアタシ達のサポートをする事を約束してくれた。

 

《ツァイス 遊撃士協会》

「え〜! 温泉に入れないの!?」

アスカはツァイス地方に《エルモ温泉》と言う観光地がある事を知ると、とても喜んでいた。
だけど、温泉の源泉が原因不明の沸騰を起して入れない話を聞いて、不貞腐れた表情で大声を上げた。

「こうなったら、アタシたちの手で温泉を取り戻すのよ!」

うわあ、アスカが燃えている。
温泉に入った事のないエステルとヨシュアにはよくわからないようだ。
他に受ける依頼はあったのに、アスカに引っ張られるようにボクたちはエルモ温泉に向かった。
温泉の奥地では無精ヒゲに黒いサングラスの長身の男性がボクたちを待ち受けていた。

「俺は結社の執行者の一人、ヴァルターだ。あいつの言うとおり、温泉に異常を起こしたら、お前たちがノコノコやって来たわけだ」
「僕たちだけをおびき寄せるために、この騒ぎを起こしたのか」

ヨシュアはそう言って、短剣を構える。

「俺は今までの執行者と違って、半端じゃねえぞ。……お喋りはこれまでだ。行くぜ!」

ヴァルターはそう言い終わると、ヨシュアに凄まじい勢いで拳を叩きこむ!
いつも動きが素早いヨシュアだけど、何発か喰らってよろけて倒れこんでしまった。
ヴァルターは、前衛に居たエステルも蹴散らして、ボクに迫って来た。
ボクの武器は導力銃だ。接近戦ではひとたまりもない。
そうだ、A.T.フィールドだ!
ボクはA.T.フィールドが出るように念じてみた。
でも、A.T.フィールドは全く出る気配がない。

「棒立ちとは、情けないやつだな」

呆然としているボクは一撃を喰らって、床に倒れこんだ。
ズキズキ痛む体のおかげで、床にひれ伏してるけど、意識はしっかりしていた。
ヴァルターは余裕を見せてアスカにゆっくりと近づいている。
アスカは導力銃で攻撃しているけど、奴は全然堪えてない。
アスカを守らないと……!
ボクは立ちあがろうとするけど、痛みが酷くて体が動かない。
すると、アスカとヴァルターの間に白いA.T.フィールドが出現した。
ヴァルターは驚いてA.T.フィールドにパンチやキックを叩きこむけど、破られることはない。

「これが話に聞いた『あの力』か!?」

ヴァルターは急に興奮して、A.T.フィールドに対する攻撃を強めた。
でも、僕が強いめまいを感じると、A.T.フィールドはしばらくして消えてしまった。

「……つまんねえ。もう終わりかよ」

ボクの方に視線を向けて吐き捨てるようにそう言うと、ヴァルターはボクたちを置いて去っていってしまった。

 

《ツァイス エルモ温泉 紅葉亭》

ヴァルターの残した機械を停止させると、温泉は正常に戻ったみたいだ。
僕たちはせっかくだから温泉に入って行くことにした。
ティータとアガットさんも紅葉亭に来ていた。
温泉のポンプの修理点検の仕事だったらしい。

「さあ、未知の世界へレッツゴー!」

エステルは子供みたいにはしゃいでいる。
当たり前だけど男湯と女湯は分かれている。
タオルは持って入っていいけど、湯船につけちゃいけないのがマナーみたいだ。

「ふう。体の痛みや疲れが消えていくようだ」

僕は足を伸ばして入れるお風呂に満足していた。
僕たちが黙って温泉を堪能していると女湯の方から声が聞こえる。

「アスカの胸って……」
「エステルの脚だって……」
「ティータも……」

シンジがさっきから顔を赤くして股を押さえている。

「膨張してしまった……。恥ずかしい……」

そんなシンジを余所に、さらに女湯の会話の声は大きくなっていた。

「アスカさんたちはもう結婚してるんですか?」

ティータは僕たちの家族構成に疑問を持っているようだ。

「バ、バカ!苗字が同じなのは家族だからよ!」
「えーいいじゃん。同じようなものだし。認めちゃいなさいよ」
「も、もうエステルってば! そ、そうよアタシとシンジは婚約してるの!」
「そうそう。あたしとヨシュアも結婚を前提に付き合ってるの♪」

会話を聞いたアガットさんが呆れてる。

「お、おめーらその歳で結婚を決めちまったのかよ……」

僕も結婚してくれる程好きと言われたのは嬉しいと思うけど、いつの間に婚約までいったんだろう?
シンジとアスカから婚約の報告を受けた事もない。
シンジも苦笑している。

「兄弟が居るって羨ましいです。わたしはおとーさんとおかーさんが居ないときは、おじいちゃんは工房にこもりっきりだから、一人で寂しいんです」
「じゃあ、アガットにお兄さんになってもらえばいいじゃない」
「うんうん」

エステルの言葉に追従するようにアスカの頷く声が聞こえる。

「でも、おにーさんじゃ嫌だな。いつか私がお嫁さんに行く時にさよならしないといけないし」
「十年後ぐらいなら年の差なんて関係なくなるわよ」
「そうそう、その頃にはアガットが逃げられないように既成事実を作っておけばいいのよ」
「な、何だと……」

アスカ達の言葉が聞こえると、アガットさんは青い顔をして重い足を引きずるように男湯を出ていった。
僕は男湯の奥に扉があるのに気がついた。
シンジに聞くと露天風呂の入口だという。
僕は露天風呂の入口の扉を開いた。ひんやりとした風が体を冷やす。
風邪を引かないようにさっさと湯船に入る事にした。
僕が景色を楽しんでいると、扉が開いてエステルが入って来た。

「あー、とても広くて気持ちいい」

エステルは湯船の中で手足をバタつかせている。

「だからって、泳いじゃだめだからね」

僕はエステルにいつものように注意した。

「わかってるわよ……ん? きゃああああああ! なんでヨシュアが居るのよ!」

エステルは慌てて両手を抱え込んで体を隠した。

「えっ、混浴って書いてなかった?」
「そんなの聞いてないわよ!」

僕はエステルの体をしっかり見てしまった。
本人は色気がないっていってるけど、十分女の子らしい体つきになってる。

「後ろ、向いてよね!」

僕がそう言われて慌てて後ろを向くと、エステルは慌てて露天風呂を出ていった。

「アスカ、あたしをはめたわね!」
「何も聞かないで行くエステルが悪いのよ……」
「ヨシュアに裸を見られちゃった。こうなったら責任をとってもらわないと!」
「あ、エステル!」

女湯からまた声が聞こえる。
響くとわかっていないのだろうか、もう少し小さな声で喋ってくれないかな。
エステルは出ていってしまったみたいだ。
僕も逆上せて来たので、浴場から外にでた。

 

アガットさんもヨシュアも出ていってしまったので、男湯はボク一人きりになってしまった。

「シンジー、一人なのー?」

女湯からアスカの声が聞こえる。

「うん、一人だよ」
「アタシもティータが出ていって一人なの。じゃあ露天風呂で会わない?」
「うん」

ボクはしっかりと腰にタオルを巻いて、露天風呂に入った。
入って来たアスカもしっかりとバスタオルを巻きつけている。

「シンジ、ひょっとして期待してた?」
「そ、そんなまさか」

ボクがそういうと、アスカはバスタオルの胸元に手を当てる。

「アタシ、胸も結構大きくなったんだよ。直接生で見てみる?」

ボクはアスカが本気で言っているのか、それともからかっているのか分からなかった。
すると、ガサガサと露天風呂の周りの茂みが揺れて、ヒツジ姿の魔獣が姿を現して、すぐに逃げ出して行った。

「こらー! 最近現れる覗きってアンタねー!」

激しく暴れたせいでアスカのバスタオルがほどけてしまった。

「!?」

……ボクはその後露天風呂でアスカと二人で気絶してしまって、心配して様子を見に来た女将のマオさんによって救出された。
部屋に戻ってしばらくした後、ボクはアスカに廊下に呼び出された。

「シンジも……責任とってよね」

その言葉に対するボクの返事は、唇と唇との接触だった。

「これは誓いのキス。ボクとアスカが婚約したって事だよ」

 

《ツァイス 遊撃士協会》

あたしたちは温泉で休養を取ると、ツァイスの遊撃士協会で、細々とした依頼をこなす日々を送っていた。
ラッセル博士から、レイストン要塞の軍司令部に、ヴァレリア湖に墜ちたアスカとシンジが乗っていたエヴァンゲリオンの調査に参加したいと打診してもらってるけど、軍司令部は調査は情報部に任せているの一点張り。
そんなある日、遊撃士協会に緊急通信が届いたの。

「大変な事が起こったの。落ち着いて聞いてちょうだい」

受付のキリカさんはそう前置きして、真面目な顔であたしたちに話を切り出した。

「王都で情報部によるクーデターが起こったらしいのよ。……アリシア女王様と、クローディア姫殿下の安否も不明らしいわ」


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