『僕のアスカ。太陽のような君。』
リベール王国来訪編(FC)

第五話 守るべきもの


ヨシュアはボクたちの方に振り向いて、とても悲しそうな表情で、こう言った。

「今までありがとう。さようなら」

ヨシュアの後頭部に剣を振り下ろそうとするレーヴェさん。

「イヤアアアア!」

エステルの叫び声と同時に、ボクは耐えきれなくなって、導力銃の引き金を引いた。
ボクの放った弾は、レーヴェさんの剣に弾かれた。
レーヴェさんはボクに目を向けて、問いかける。

「お前はなぜ邪魔をする。死にたいのか」
「ボクはヨシュア・ブライトの弟、シンジ・ブライトです!」

ボクは銃を構えたまま、大きな声でそう言った。
その言葉に反応したヨシュアは、飛び上がってレーヴェさんから間合いをとって、こう言った。

「僕は過去の結社の呪縛を断つ! 断てない大切な人との今の絆があるから!」
「ま、またしても私に逆らうのですか、この人形め!」

アルバ教授は金切声をあげる。
すると、レーヴェさんは跳躍してアルバ教授を切りつけた!
黒い障壁がレーヴェさんの剣を一瞬阻む。
黒い障壁は一瞬で消えたが、レーヴェさんの剣速を鈍らせるのには十分だったようだ。
剣はアルバ教授を切り裂いたが、致命傷は与えられなかった。

「おのれ、だが実験は成功だ! 覚えてろおおお!」

アルバ教授はそう叫ぶと、転送の魔法でその場から消えた。
アルバ教授の姿が消えた後、ボクたち三人はヨシュアの元へ近づいて行った。

「ごめん。何と言って謝っていいか、分からないんだ」
「笑えばいいとおもうよ」

ボクがヨシュアに向かってそう言うと、ほっとしたように柔らかな笑顔を見せてくれた。

「ヨシュア、やっとしがらみを振り切る強さを見せたな。……でなければ、俺はワイスマンを止めなかった」

レーヴェさんが近づいてきた。
顔には心なしか優しい笑みを浮かべている。

「みんな、そう警戒しないで。これから、レーヴェ兄さんについて話すよ」

そうヨシュアが喋り出した時、凄まじい咆哮が洞窟内に木霊した。
しまった!古竜レグナートが動き出した!
レーヴェさんは、素早く剣を構える。

「マズイな、俺が相手になると、奴も俺も無事では済まなくなる」

古竜レグナートは怒り狂った様子でこちらに顔を向けて来る。
そして大きく息を吸い込んだ。

「炎のブレスなんか吐かれたら、アタシたち仲良く丸焦げじゃない!」

アスカはそう言ってボクに抱きついてくる。
ちくしょう。せめて、丸焦げになる瞬間までアスカを抱きしめていよう。
ボクはぎゅっと目をつぶってその瞬間を待った。
だけど、また竜の咆哮が響き渡ったんだ。
目を開けるとカシウスさんが持っていた棒で、向う脛を思いっきり叩いていた。
暴れていた竜は痛みによって冷静さを取り戻したみたいだ。

「……久しぶりだな。人の子よ」

驚くことに古竜レグナートはカシウスさんに人間の低い声で話しかけている。

「もーまったく父さんは、おいしいところだけとるんだから!」

エステルは、言葉とは裏腹に嬉しそうだ。
ボクは抱き合っていたアスカに気がついて、お互い赤くなって慌てて体を離した。

「まあ、俺がここに来た事情は後で話すとして……。先にヨシュアの兄さんの話を聞かせてもらおうじゃないか」

カシウスさんが促すと、ヨシュアは話を始めた。

「レーヴェ兄さんは、僕の姉さんの恋人だったんだ」

ヨシュアはそれからポツリポツリと、自分が六歳の頃体験した『悲劇』について語っていった。
住んでいた帝国のハーメル村が突然炎に包まれ、傭兵崩れらしい野盗たちが襲ってきた。
ヨシュアは姉のカリンさんと逃げ出そうとしたけど、待ち伏せしていた傭兵の男に、お姉さんはが背中から斬り殺されてしまった。
それに逆上したヨシュアが、落ちていた銃を拾って、その男を撃ち殺したとの事。
その後駆けつけたレーヴェさんに、まだ息があったカリンさんが、弟のヨシュアを頼んだ事。
小さくして隣人たちを失い、愛する家族を失い、人殺しまでしてしまったヨシュアの心は壊れてしまったそうだ。
そこで結社のアルバ教授、本名はワイスマンと名乗る男に拾われて、ヨシュアは結社の暗殺者となった。

「でもね、僕もつらい過去を乗り越えられると思ってる。今は家族がいるからね」

話終えたヨシュアは笑顔でそう言った。
ボクもアスカも小さい頃につらい体験をしている。
でも、ヨシュアの言った通りみんなで乗り越えていこう、と思った。

「実はな。俺がここに居るのは、帝国と王国の国境のハーケン門のすぐ北にある、ハーメル村に調査に来てたからだ。ハーメル村の襲撃は、王国の侵略に見せかけるための帝国の軍部の陰謀という噂がある。最近になって、帝国の軍部が裏で糸を引いて、帝国の遊撃士協会を襲っているという動きもあってな。そこでだ。俺は帝国で軍部と、多分それに絡んでいる結社の動きを抑えようと思う。お前たちは、遊撃士になるための旅に出たんだろう? それならこのまま国内の他の地方を回って、結社の動きを抑えてくれないか?」

カシウスさんが長い話を終えると、今まで黙っていたレーヴェさんが、こう言った。

「では、帝国では俺も同行させてもらおう。俺はもう結社には戻らないからな」
「えっ、レーヴェ兄さんは僕たちと一緒に来てくれないの?」

ヨシュアは残念そうに言った。
レーヴェさんは優しくヨシュアの頭を撫でながらこう言った。

「俺がお前たちの側に居ると成長の妨げになる。……それに、また会えるさ」

 

《ルーアン地方 マノリア間道》

遊撃士協会ボース支部に戻ったアタシたちは、ボース支部の推薦状をもらって、ルーアン地方へ向かった。
マノリア間道は海岸沿いの街道で、右手には群青色の海が広がり、潮風にアタシの自慢の髪もサラサラなびいている。
シンジは綺麗なこの景色よりも、このアタシの事を見てくれて…いるのかな?

「あー、お腹すいたー。何か食べようよ」

エステルはマノリア村に到着すると、ランチを食べようと提案した。
エステルってなんでこう食いしん坊なのかしら。色気より食い気。
アタシたちは村の食事処《白の木蓮亭》に行くと、マスターに特製弁当を買って村の風車の前にある展望台で食べることを勧められた。
アタシとエステルはサンドイッチ、シンジとヨシュアはパエリアのランチボックスを買った。
シンジがマスターに買い物の割引スタンプを押してもらっているのを待っていたアタシが、シンジと一緒に展望台に着いたときは、すでにエステルとヨシュアが、二人掛けのベンチに隣り合って座ってお弁当を広げていた。
エ、エステル!アタシとシンジが一緒に座るしかなくなっちゃたじゃない!
アタシはシンジと一緒に隣のベンチに腰を下ろした。
アタシは隣に居るシンジを意識してしまって、サンドイッチがなかなか喉を通らなかった。

「ねーヨシュア。ちょーだい、あーーん」

アタシは、ヨシュアに向かって口を大きく開けて顔を突き出しているエステルに驚いてしまった。

「な、なにやってるのよ!?」

アタシは顔を真っ赤にして叫んだけど、エステルはケロリとして、こう答えた。

「ヨシュアのパエリアがおいしいから分けてもらおうかと思って」

ヨシュアはため息をついて、エステルにパエリアを食べさせる。
アタシはその姿を見て羨ましくなった。

「シンジ、アタシも食べたいけど、手がふさがってるのよねー。だから、ほら」

シンジは多分わかっているんだと思う。
真っ赤になって震える手でスプーンでパエリアを一杯すくって、アタシに食べさせた。

「ほら、エステル。君がどんなに恥ずかしい事をしたのか、わかったかい?」

アタシとシンジの姿を見ながら、ヨシュアはツッコミをいれた。

「ああっ!」

エステルが大声を上げ、頬に両手をあてて赤い顔をした。
エステル、今になってやっと気がついたの?やっぱり鈍感ね。

「ヨシュア。好きでもない女の子にこんな事をされちゃ、迷惑だよね?」

エステルは珍しく落ち込んだ様子で弱々しく質問した。

「エステル。僕は好きじゃない女の子に、そんなことしないよ」

ヨシュアはエステルの肩に手をかけて、側に寄せた。
シンジも……きっとそうだよね。
アタシは勇気を出してシンジに話しかける。

「ねえシンジ。また……キスしよっか」

アタシがそう言うと、シンジの顔はさらに赤くなった。
けど、次の瞬間、暗い顔をしてこう言った。

「どうせ、暇潰しなんだろう?」

アタシはその言葉で、シンジが傷つけていたことに気がついた。
それはちょうど二年前。
この世界に飛ばされる直前、シンジのママの命日にキスをした。
あの時は確かにミサトとデートした加持さんに対しての当てつけの気持ちがあったから、キスの理由を暇つぶしだっていってしまった。

「違う。アタシはシンジが好きだから、キスしたいの」
「でも、アスカは昔、加持さんが好きだって言ってたじゃないか」

シンジがそう言いかけると、エステルの大音量が飛び込んできた。

「だーっ! アスカは今、シンジが好きだっていってるんでしょーが! 大事なのは今! 過去のどーでもいいことより、今を大事にするって言うのが、あたしたちの約束でしょう?」
「うん、わかったよ」

シンジは真面目な顔で頷くと、顔を近づけた。
唇と唇が触れあう。
ファーストキスは最悪だったけど、セカンドキスは優しく長いキスだった。

 


あたしはアスカとシンジがキスをするところを、ヨシュアと二人で見守っていた。
アスカとシンジはお互いの気持ちを抑えていたんだね。
キスが終わると、アスカはシンジの肩に頭を乗っけて、幸せそうに寄りかかっていた。
あたしも…あたしもヨシュアと、キスしたいな。
でも、ヨシュアはきっと色気がないあたしの事を女だとは思ってないんだ。
ヨシュアが突然あたしに顔を近づけてきた。
唐突なファーストキス。それは短かったけど、あたしは受け入れる事が出来た。

「よかった。僕も怖かったんだよ」
「やだなあ、ヨシュアも怖かったんだ、お姉さんとしては……」

そこまで言いかけたあたしにヨシュアがクスッと笑ってツッコミを入れる。

「もう、お姉さんじゃないだろう?」

あたしもヨシュアの肩に頭を乗っけて、静かに展望台から見える景色を眺めた。

 

《ルーアン 遊撃士協会》

「……そろそろ、行こうか?」

ヨシュアが惚気続けるボクたちにツッコミをいれたのは、群青色の海が一面茜色に染まった頃だった。
遊撃士協会のルーアン支部に着いたのは日が暮れてからだった。

「ボース支部のルグラン爺さんから出発の連絡があってから、ここに到着するまでずいぶん時間がかかったようだけど、何か事件があったのかい? 報告してくれれば、遊撃士協会から報酬を出すよ」

受付のジャンさんはそう言ってくれたけど、ボクたちは本当の事を言えるわけも無く、ごまかし笑いを浮かべた。

「緊急の依頼は無いけど、細かい依頼ならあるから、キリキリ働いてくれよ」

ジャンさんはボクたちに細かい依頼の内容を説明した後、こう話を切り出した。

「そうだ。依頼じゃないけど、各地で目撃されている幽霊について情報を集めてくれないかな?」

それを聞いたアスカとエステルは揃って嫌な顔をする。

「だって、そんなの見間違いかもしれないし……」
「時間の無駄よね〜」

アスカとエステルは否定の言葉を口にした。
ボクとヨシュアは顔を見合わせて、クスリと笑って、調子を合わせる。

「幽霊が怖くて逃げるのかい?」
「そうだね、そんなに情けないとは思わなかったよ」
「「な(あ)んですって〜!」」

挑発に乗った二人は、幽霊調査の依頼を引き受けた。

「おめーら、上玉二人とイチャイチャしてるんじゃねーよ。」

ボクたちは、街の不良グループ『レイブン』の一人が、幽霊を目撃したという噂を聞いて、詳しい話を聞こうと倉庫まで来たんだけど……。
絡まれてしまった。

「エステル。やっと女の子って認められたね。しかも上玉だって。おめでとう」
「うるさーい!」

夫婦漫才をしているエステルとヨシュアを前に、不良たちはさらにイライラして来たようだった。

「そんな生っちろい小僧達なんか放っといて俺たちと楽しもうぜ〜」

不良の一人が軽い口調でそういうと、一気に激高するアスカとエステル。

「てめえら、何しているんだ?」

不良たちとの戦いに突入すると思われたとき、赤毛にバンダナを巻いて大剣を背負った男性が、声をかけながら僕達に近づいてきた。

「ア、アガットさん!」

不良たちはアガットさんと言う人にに頭が上がらないようだ。
中には這いつくばって土下座している人もいた。
アガットさんのおかげで、幽霊に関する情報を不良達から聞き出したボクたちは、次の目撃者がいる《マーシア孤児院》に向かった。
孤児院に向かう途中の街道で、ボクは孤児院から飛び出してきた、藍色のショートカットの制服の女の子に激突して、お互いに尻餅をついてしまった。
彼女はハッっとするとスカートを抑えながら立ち上がる。

「す、すいません。私がよそ見をしてしまって。急いでいるんで失礼します」

そう言って、その子はそそくさと立ち去ってしまった。
ボクはその制服の女の子のスカートの中身を見てしまっていた。

「何色だったのよ?」
「白かったよ」

ボクはアスカの質問に正直に答えてしまった。
それからアスカは怒って、ボクがいくら謝ってもそっけない返事しかしてくれなくなった。
マズイこと言っちゃったな……。
その後の聞き込みで、ボクたちは幽霊が消えていく方向から推測して、《ジェニス王立学園》の近くがもっとも怪しいという事で、その近くで重点的に情報収集を行う事になった。

 

《ルーアン地方 ジェニス王立学園》

アタシたちが学園の近くで情報を集めたいと遊撃士協会のジャンさんに相談すると、しばらく学生として在籍してみてはどうかと勧められた。
学園側も生徒が落ち着いて勉強が出来なくなるのは困るらしい。
ジェニス王立学園に着いたアタシたちは学園長の部屋に出向いた。
転校生として学園に滞在しながら、生徒たちから情報を集めて欲しいという。
学園を案内する学生として生徒会役員である三人の生徒が呼ばれた。
生徒会長のジル、副会長のハンス、そして街道でシンジとぶつかったクローゼと言う子。
クローゼはシンジと目が合うと、ぶつかった時の事を思い出したのか、顔を赤らめた。
シンジも顔を赤くしている。
アタシはそろそろシンジにいつも通りに接してあげようかと思ったけど、イライラしてシンジを怒った顔で睨みつけてしまった。
アタシたちは連れだって学園長の部屋を出ると、本館に隣接するクラブ棟の一階にある学食に向かった。
アタシたちは自己紹介をした後、依頼の話はそこそこに、お喋りに時間を費やした。
気がつくと、シンジとクローゼは料理の話題で、ジルとヨシュアは本の話題で話が盛り上がっている。
アタシとエステルはお互いムスッとした顔で黙り込んでいた。
ハンスが話しかけてきてくれたけど、全然話は弾まなかった。
それからアタシたちは男女のグループに別れて、情報収集を行う事にした。
調査する場所に男子ロッカールームと女子ロッカールームがあるから。
クローゼは調査中にもアタシにシンジの事をいろいろ聞いてきた。
シンジとクローゼが楽しそうに話しているのを見ていたアタシは、クローゼみたいなおっとりとして優しくて料理もできる女の子の方が、シンジには相応しいかもしれない、と思った。
アタシはシンジに告白はしたけど、クローゼに勝てるかどうか自信はなかった。
アタシはクローゼにシンジと恋人同士であるとは言えなかった。
幽霊の目撃談もないまま、学園生活はしばらく続いた。
しかし、ある日クローゼがアタシにこんな事を言いだしたのだ。

「私、シンジさんに告白してみようと思います」

ついに恐れていた事が起こってしまった。
シンジはアタシを振って、クローゼと付き合ってしまうんだろうか。
クローゼはシンジを学園の裏庭に呼び出していた。

「クローゼさん、大事な話ってなんですか?」

待っていたシンジが、クローゼに問いかける。
そしてクローゼが告白の言葉を言おうとしている。

「ダメっっっ!」

アタシは校舎の陰から飛び出すと、クローゼに向き直った。

「お願い、アタシからシンジを奪わないで! アタシにはシンジしかいないの。シンジの代わりはいないの……」

アタシはペタンと座り込み、両手で顔を覆って泣き出した。
シンジはアタシの肩を優しく抱きしめてくれた。

「ふふ。告白する前に振られてしまいました。もうアスカさんを泣かさないであげてくださいね」

クローゼがそう言って、アタシたちから駆けて離れていく音が聞こえた。
アタシは泣きやんで顔を覆っていた手を下した。
それに安心したのか、シンジがアタシを抱きしめる力も緩んだ。
ふと、アタシは少し離れた前方の学園の塀の向こうの空中に、白い人影が浮かんでいるのが見えた。
白い人影をよく目を凝らして見ると、仮面と帽子を被っていた。
白い人影はアタシと視線が合うと、帽子をとってお辞儀をして、学園の裏手にある旧校舎の方へ消えていった。

「キ、キヤァァァァァーーー!!」

幽霊のようなものを見たアタシは悲鳴を上げて、シンジにまた抱きついた。

 

僕たち四人はアスカの目撃証言にしたがって、旧校舎に向かった。
旧校舎は生徒が入り込まないように、鍵がかけられているけど、しばらく前に鍵が盗まれたらしい。
必要な場合には、扉を壊すという許可をもらっていた。
扉には、『鍵は落ちたる首にあり』と書かれたカードが貼られていた。
多分、鍵が隠してある場所の暗号じゃないだろうか。
だけど、エステルはそんな事を気にせずに、扉を思いっきり叩いていた。
そうしたら、古いものだったからか、あっさりと錠前は壊れてしまった。
エステルは得意満面の笑みを浮かべているけど、アスカとシンジは呆然としていた。
僕はエステルにツッコミを入れる暇がなかった。

「結果オーライよ!」

遊撃士としては、不合格だと思うんだけどな……。
旧校舎の玄関ホールでは、仮面と帽子を被った男が立っていた。
僕には見覚えがある。結社の執行者の一人だ。

「私は怪盗紳士ブルブラン。今日は諸君の究極の美を盗みに参上した」

彼は大仰に名乗りを上げた。

「こらあ、変態仮面! 幽霊騒ぎはあなたの仕業ね!」

エステルは名乗りが気に障ったのか、怒った様子だ。

「いかにも。私が狙う獲物は諸君が持つ光り輝くもの。それは、きぼ…」
「太陽だね!?ボクの太陽を奪いに来たのか!」

シンジがブルブランの言葉を遮って叫んだ。

「シンジ、一体どうしたのよ……!?」

アスカは呆然としている。

「アスカはボクの心を輝かせる太陽なんだよ……」
「シ、シンジ、なんて恥ずかしい事を、言うのよ」
「だから、きぼ…」
「ヨシュアも、エステルの事、そう言ってるよ!」

ええっ、僕に振るのかい!?

「ヨシュア、そ、それって本当……?」

エステルもこっちを振り返って、照れ臭そうに聞いてきた。

「う、うん、太陽みたいな、って事だけど……」

僕まで落ち着かなくなって、どきまぎしてきた。

「シンジぃ〜」
「ヨシュアぁ〜」

エステルは太陽のような笑顔を向けると、僕に抱きついて来た。
そして、二度目のキス。
僕の瞳にはエステルしか映っていなかった。

 

《ルーアン 遊撃士協会》

あたしたちが正気を取り戻すと、変態仮面は姿を消していた。
なんだかいろいろ喋っていたけど、あたしたちは何も聞いちゃいなかった。
アスカとシンジもお互いの事に夢中だったようだ。
変態仮面はラブラブモードに入ったあたしたちに愛想を尽かして立ち去り、幽霊事件は解決したみたい。
あたしたちが幽霊事件の顛末を肝心なところは誤魔化しながら報告していると、《マノリア孤児院》が放火されたという知らせが届いた。
目撃者によると、犯人はレイブンを脱走した三人組で、紺碧の塔に向かったらしい。
レイブン絡みだという事でアガットが、マーシア孤児院に関わるという事でクローゼが同行することになった。
紺碧の塔の最上階の部屋。
その部屋の入口の階段で、あたしたちは密談をする悪人たちの声を聞いた。
今回の事件の黒幕はルーアン市の市長ダルモアと、その秘書ギルバートだったんだ。

「これで、あの孤児院を取り壊す手間が省けました。放火を含めた一連の事件もあの不良どもの仕業にできる。まさに一石二鳥というものです」

秘書ギルバードは笑みを浮かべていう。それに答えるダルモア市長。

「うむ、これであの土地を別荘地にすることができる。そして約束通りデュナン公爵に一億ミラで買っていただければ、我がダルモア家の財産と誇りは守られる」
「それがあなたたちの目的ですか?」

怒りを抑えきれなかったクローゼが飛び出してしまった。

「ダルモア家の家屋を売れば、あなたたちの借金は返済できるはずです。なぜそうしないのですか?」
「あんな薄汚い孤児院と我が家を一緒にするな!」
「私の思い出の詰まった場所を侮辱するなんて許せません!」
「市長ダルモア!放火の罪であたしたち遊撃士が逮捕するわ!」

あたしたち三人とアガットも階段を登って部屋に突入した。
あたしたちを見て、形勢不利と判断した市長は声を上げた。

「曲者だ、であえ、であえ!」

すると天井から元レイブンの三人組がストンと落ちてきた。
表情は無表情で、目もうつろで、殺気だけを放っている。
あたしたちは巧妙におびき寄せて三人組が固まったところに、あたしたちの必殺技『チェインクラフト』をぶち込んでやった。
倒された三人組は、爆発して吹き飛んでしまった。

「人じゃなかったのか。道理で僕に気配が感じ取れないわけだ」
「結社もここまで精巧な人型兵器を造れるなんて、侮れないわね」
「どうやら、レイブンの奴らは無実のようだな」

ヨシュアとアスカとアガットは残骸を調べてそう言った。
追いつめられたはずのダルモア市長はまだ余裕の笑みを浮かべている。
そして懐から杖を取りだすと、こう叫んだ。

「時よ、凍えよ!」

あたしたちの体が動かなくなった。

「これは我がダルモア家に伝わる『封じの宝杖』。私以外が動けなくなるアーティファクトだ。一人ずつゆっくりと殺してやる」

ダルモアは不敵な笑みを浮かべてあたしに銃を向けた。

「汚い手でエステルに触るな……。もしも、毛ほどでも傷つけてみろ……。ありとあらゆる方法を使ってあんたを八つ裂きにしてやる……」
「ひ、ひいっ!」

ヨシュアの物凄い殺気のこもった声に、ダルモア市長はパニックになった。
そして、シンジとアスカの二人の居る方に銃を向ける。

「ふ、二人まとめて殺してやる、死ね!」

ダルモア市長は銃の引き金を引いた!


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