『僕のアスカ。太陽のような君。』
リベール王国来訪編(FC)

第二話 壊れたマリオネット


《ロレント郊外 ブライト家》

アタシは部屋の外から聞こえてくるハーモニカの音で目が覚めた。
今までこんなに心地よく目が覚める事は無かった。
やっぱり、安心して眠れたからかな。
エステルも目を覚ましたみたい。

「おはよ。アスカ」
「おはよう、エステル。ハーモニカの音が聞こえて来るんだけど?」

アタシは疑問を口にした。

「ああ、ヨシュアが吹いてるのよ」

アタシとエステルはあまり物音をたてないように部屋を出ると、シンジも部屋から出て、廊下につっ立って居た。
アタシたち三人が庭に出てきた時に、ちょうどヨシュアのハーモニカの演奏が途切れた。
パチパチパチ
アタシたち三人はヨシュアに向かって拍手をしていた。

「いい曲ね」
「本当、感動したよ」

アタシとシンジは素直な感想を述べた。

「星の在り処って曲なんだ。小さい頃から知ってる曲」

ヨシュアが照れ臭そうにそう答えた。

「ボクも、弾いてみたいな」
「シンジも、楽器が弾けるの?」
「うん、チェロだけどね」
「そっか、今度ロレントの街に行ったら探してきてあげるよ」

アタシは、シンジのチェロがまた聴けると聞いて、嬉しくなった。

「ところで三人とも」

ヨシュアは盛り上がっていたアタシたち三人を諭すように言う。

「寝巻のままだよ。着替えてきたら?」
「「「あー!!!」」」

アタシ、シンジにパジャマ姿を見られちゃった。
恥ずかしい。
ヨシュアって結構冷静に的確にツッコミを入れるのね。
あだ名は恐怖のツッコミ男に決定。
シンジには落ち着いた男性になってほしいけど、ヨシュアのこういうところには似て欲しくないな。

 

シンジとアスカがこの世界に来ての生活が始まった。
今までエヴァンゲリオンのパイロットとして、ネルフ中心の生活を送って居た二人にとってここでの生活は新鮮だった。
朝食前には、体力トレーニングとカシウスの元で戦闘の指導。
エヴァンゲリオンに乗る以外は、至って普通の中学生であったアスカとシンジの二人は、基礎体力から鍛える必要があった。
そして朝食当番。
今まで、まったく料理をしようともしなかったアスカも、エステルに小突かれて料理をするようになった。
昼間はエステルが中心となって裏庭の池で釣りを楽しんだり、エステルが森の中で採ってきた虫(どう見ても魔獣の一種)を見せられたり、活発なエステルのペースに巻き込まれていた。

 

アタシはシンジと二人でテラスの柵に寄りかかって星を見て居た。

「こんなにたくさんの星空……綺麗。ね、シンジ」

アタシは何の気も無しにシンジに話しかけた。

「うん、そうだね……。綺麗だ」

そう答えるシンジは星空を見ていない。
まるでアタシの方を見ているようだ。
ま、まさかアタシが綺麗だっていってるの?
いやーん。

「ア、アスカ!こ、こんな事を言ったら怒るかもしれないけど、話があるんだ!」

突然顔を真っ赤にして喋るシンジを見てアタシは、こう思った。
も、もしかして愛の告白〜!?
た、確かにムードは悪くないし。
シンジにしては気が利くわね。
と、アタシの方も頬が紅潮してくる。
そしてシンジから発せられる次の言葉を待った。

「アスカはエヴァに乗れなくて平気なの?」
「はぁ!?」

期待はずれのセリフにおもいっきり脱力するアタシ。
思わずシンジに対して罵倒するセリフと手が出そうになるけど、ここは堪えた。

「だって、アスカはエヴァのパイロットになるために十年近くも努力してきたわけだし。前のシンクロテストの時に、ミサトさんがあんな事を言ったから、アスカは無理をしたんだろうって思って」

そう言われて、アタシもその事をすっかり忘れていた事に気づく。
しかし、アタシの心はもうすっかりエステル達のおかげで落ち着いていた。

「確かに、今まで努力してきたセカンドチルドレンとしての誇りはあった。それはアタシの存在を一人でも多くの人に認めてもらいたかったから。でも、エステルたちはアタシをアスカとして見てくれている。セカンドチルドレンじゃなくて一人の人間として。アタシを見てくれる。それに気づいたの。…もちろん、シンジもね」

アタシは自然に優しい微笑みを浮かべたと思う。
こっちを見ているシンジの顔が嬉しそうだったから。
アタシはシンジの前に右手を差し出す。

「じゃあ、握手しましょう。誓いの握手よ。これから、お互い遊撃士を目指してスタートラインに立ったんだから」

今は、友達としての握手で我慢してあげる。
でも、きっといつかはそれ以上の事をしたい……待ってるよ、シンジ。

 

それから二年の間、ブライト家の家族、長女エステル、長男ヨシュア、次女アスカ、次男シンジの四人は本格的に遊撃士協会で訓練を受ける事になった。
エステルが筆記の授業をさぼって、スニーカー集めに走ったり、アスカが優秀な成績を修めて、さらには導力技術の開発までしたり。
ヨシュアがその才能を報道に発揮し、シンジは料理に強い関心を持っていた。

 

《ロレント 遊撃士協会》

「じゃあ、今日は準遊撃士の最終試験を行うわ」

遊撃士協会でボクたちの指導担当になったのは、ロレント支部の先輩遊撃士、シェラザート・ハーヴェイさん。
ボクたちはシェラさんと呼んでいる。
準遊撃士というのは、遊撃士の見習いみたいのようなもので、16歳以上なら試験に受かればなる事が出来る。
ボクたちの居た世界でも、義務教育期間が終了する年と同じぐらいだし、ボクたちも大人への一歩を踏み出したわけだ。

「えー!試験なの〜!?」

シェラさんの言葉に対して、エステルが大きな声を上げた。

「エステル、試験が筆記とは限らないよ。……それと、逃げようと思わないでね。」
「うっ。」

ヨシュアの鋭いツッコミが入った。
ヨシュアはエステルの先の行動まで読めるんだなあ。
ボクはアスカの気持ちはまだ読めない。
もう、ボクの事を嫌ってはいないとは思うけど。

「そうそう、今回は筆記試験じゃないわ。実戦よ」
「わぁい!早く始めようよ!」

シェラさんがそう言うと、エステルはとたんに元気になった。

 

《ロレント 地下水道》

『実地研修・宝の回収』

あたしたち四人は試験の内容を確認して地下水路に降りて行った。
ヨシュアの索敵能力によって不意打ちを受けることなく、あたしたちは順調に地下水道を進んでいった。
地図を確認して、目的の部屋の前に魔獣の巣があるのを発見した。
あたしたちは、魔獣が巣の中で固まってうごめいているのを見て、あたしたち四人の必殺技、『チェインクラフト』を実戦で試してみる事にした。
『チェインクラフト』はあたしたち四人で息を合わせて攻撃する技。
一定の範囲内の敵に大ダメージを与える事ができるの。
これは、アスカとシンジが戦闘訓練をしていたときに、二人で飛び上がってキックをしてきたのを見て、カシウス父さんがあたしたち四人の訓練メニューにいれたのよ。

「みんな、行くわよ!」
「「「了解!」」」

あたしの号令の元に、あたしたち四人は攻撃を開始した。
アスカとシンジは導力銃で、一点集中砲火!
その攻撃が命中する瞬間、あたしの棒が標的を突き、ヨシュアが標的を斬り払う!
大きな爆発音が響き渡る。
巣の中に居た魔獣たちは、あたしたちのこの一撃で全滅した。

「やった、やったよ、シンジィ〜!!」

アスカは飛び跳ねて喜んでいる。
子供っぽいけど、かわいいじゃない。
そして、アスカは目的の部屋に駆けこんで行った。
あたしたちは浮かれるアスカを追いかけて部屋に入った。
部屋には小さめの宝箱が四つ置かれていた。
でも、そのうちの一つは、すでに開封されていた。
先に入ったアスカが、開けてしまったらしい。
宝箱の中には準遊撃士のバッジが入っていたみたい。
アスカはバッジを胸に付け、腰に手を当てて仁王立ちしていた。
残るあたしたち三人は天を仰いでため息をつき、へたり込んでしまった。

「ねえ、アスカ。今回の依頼には中身の確認までは入って居ないんだよ。」 

とヨシュアにツッコミを入れられたアスカはうなだれた。
地下水路から脱出したあたしたち四人は、うなだれ続けるアスカを引きずるように連れて、シェラ姉の待つ遊撃士協会に向かった。
朝から始まった試験だけど、陽は傾きかけていた。
シェラ姉はあたしたち四人から宝箱を受け取ると、うつむいてるアスカを見た後、あたしたち四人に向かってこう言った。

「みんな、お疲れ様。三人は合格ね。アスカは今回……不合格。理由はわかってる? 冷静に人の話を聞く事も遊撃士にとっては大事なことよ」

シェラ姉はアスカが謝りもせずに黙りこんでいるのを見て、言葉を続ける。

「このままじゃあ、アスカは準遊撃士になれなくて、置いてきぼりになっちゃうわね〜♪」

シェラ姉は冗談混じりの一言が、アスカの心の堤防を決壊させたみたい。

「グス……置いてかないでよ……シンジィ、シンジィ……う、う、うわぁーーん」

両手で顔を覆って泣き出すアスカ。
慌てて抱きしめるシンジ。
シェラ姉と、受付にいたアイナさんは、いきなり泣きだしたアスカを見て呆然としたみたい。

「ご、合格よ! そこまで深く反省してるなら二度としないと思うし! 四人とも準遊撃士よ! だから泣くのを止めて〜!」

とシェラ姉は慌ててフォローしていた。

 

アタシは、準遊撃士試験に不合格と聞いた時、目の前が真っ暗になるほどショックを受けた。
せっかく、シンジと一緒に遊撃士として歩んで行こうって誓ったのに。
でも、不合格が冗談と聞いてほっとした。
アタシが泣き終わった時、シンジに抱きしめられている事に気がついた。
照れ臭くなって、慌てて離れたけど、シェラさんがニヤニヤした顔でこっちを見ていた。
こりゃ、酒の肴になっちゃったわね。
アタシはため息をついた。

「そうそう、カシウスさん宛てに手紙が届いていたわ」

受付カウンターの奥で、書類整理をしていたアイナさんが、エステルに便箋を渡しているのを見た。
アタシたちは、カシウスさんに準遊撃士になった報告をするため、街の郊外にある家に帰った。

 

《ブライト家 ダイニングキッチン》

その日の夕食当番はアタシだった。
料理は下手ながらなんとかできるようになったけど、まだ少しシンジに手伝ってもらっていた。
こうしてお揃いのエプロンで居ると、新婚夫婦みたいね。
まあ、エステルとヨシュアともお揃いだけどさ。
シンジって鈍感だから気づいていないんだろうな。
こうしてアタシとシンジが仲良く夕食を作っていると、カシウスさんが部屋に入ってきた。

「急に大きな仕事が入ってな」

カシウスさんはそこで言葉を濁して、探るような視線でアタシの方を見た。
もしかして、アタシが心配でいいだせないのかな。

「アタシは大丈夫よ、パパ」

アタシはカシウスさんを初めてパパと呼んだ。
カシウスさん、これからはパパと呼ぼう、は安心したように話を続けた。

「明日から家を長く空ける事になった。それで俺が引き受けていた仕事をお前たちに任せようと思う。なに、難しい仕事はシェラに任せるからな。保護者が居ないってはめをはずすじゃないぞ♪」

アタシはパパに引き取られてからの二年間、アタシたちの事を優先して、仕事を断っているのを知っていた。
……今までありがとうパパ。

 

《ロレント 空港》

翌日の朝。ボクたち四人はカシウスさんを見送りに空港に来た。
まだ発車時間まで時間があるようだ。
搭乗ロビーに集まった、ボクたち五人のところへ駆けてくる人がいた。
無精ひげを生やして煙草をくわえている男の人と、ソバカスが印象的な、カメラを持った若い女の人だった。

「カシウスさ〜ん、突然出張なんてヒドいじゃないですか。護衛の依頼はどうなるんですか」

リベール通信の記者、ナイアル・バーンズと名乗った男の人は、名刺をカシウスさんに渡しながらそう言った。

「悪い悪い。でも、俺の自慢の家族であり、直伝の弟子である、こいつらが代わりに行く。まだまだ新米の準遊撃士だが、筋はいいぞ」

ナイアルさんは、ボクたち四人が若すぎるのに驚いたみたいだったけど、ニヤリと笑って頷いた。

「カシウスさんの弟子なら、将来有望かもしれないっすね〜。おい、ドロシー。写真を頼む」

ボクたちブライト家の家族五人は、集合写真をとる事になってしまった。

「はーい。楽しい事を考えてくださいねー」

ドロシーさんはカメラを構えながらボク達に話しかける。
ボクはアスカの後ろに立ちながら、ブライト家での楽しい日々を思い浮かべていた。

「はーい、いい写真が撮れましたよー」

どうやらオーバルカメラはポラロイドカメラのように、すぐに写真が出てくるもののようだ。
ボクはその写真を見て驚いた。
前に居るアスカとエステルの太陽のような笑顔が、それに照らされるように明るいボクとヨシュアの笑顔が、カシウスさんの包み込むような穏やかな笑顔が、十二分に表現されていた。

「ドロシーの写真は、なぜか素晴らしい出来になるんだよな」

ナイアルさんも写真の出来に満足したようだ。
ボクはその写真が欲しいと思っていると、後で街の《メルダース工房》で全員分焼き増ししてくれるそうだ。
ボクは宝物を手に入れる事が出来た。

 

《ロレントの街の北方 翡翠の塔》

僕たちは、ナイアルさんとドロシーさんが、翡翠の塔の屋上から風景を撮りたいというので、護衛の依頼で同行していた。
僕たちが翡翠の塔の屋上に着いたとき、物陰に人が隠れている気配がした。
なぜかとっても冷たい感じがした。
体も心も震えそうな……。
僕は震えを抑えながら、物陰に居る人物に声をかけた。

「そこに居る人、隠れてないで出てきてくれませんか」

すると物陰から、学者風の青年がゆっくりと出てきた。

「私はアルバ。考古学の研究をしています」

「よく一人でここまで来れたな〜。魔獣がウヨウヨしているのに」
「いや〜魔獣から逃げるのは得意なんですけどね〜」

ナイアルさんがくわえた煙草をいじりながら問いかけると、アルバさんは穏やかな表情で答えている。
僕はそんな二人の会話を見ているうちに、背筋に寒気が走ってその場から離れたくなった。
僕は後ずさりしながら、屋上の端の手すりに寄りかかり、そのまま動けなくなってしまった。
心配したエステルに気分がちょっと悪いだけだから大丈夫、と言ったら、エステルはしばらく屋上をウロウロしてくると行ってしまった。
アスカとシンジは、塔の屋上の真ん中で不気味な音を立てて動いている大きな機械装置の前に居たけど、アルバさんと一言、話をしただけで、驚いた様子で二人で離れていった。
エステルが動かない僕の所にやってきた。

「ねえ、まだ気分が悪いの?あっちからロレントの街が見えるよ、行こ♪」

そう言って、エステルは僕の手を引っ張るけど、僕の体は鉛のように重くて動かなかった。
アルバさんが僕の方をずっと見ている。
なんて冷たい目なんだ。
もしかして、彼のせいなのか。
アルバさん……彼は危険だ。
一人になったアルバさんは、僕たちの方にゆっくりと近づいてきた。
エステル、逃げるんだ!
でも、全く言葉が出ない。
口の動きまで封じられたのか!
くそっ、動けなかったら、エステルを守ることができないじゃないか!
目の前のエステルを守れないなんて嫌だ!
僕は体一杯に力を込めた。


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