『僕のアスカ。太陽のような君。』
リベール王国来訪編(FC)

第一話 次女アスカ、次男シンジ


《リベール王国 ロレント郊外 ブライト家》

ボクとアスカは、カシウスさんの家のダイニングキッチンに迎え入れられた。
テーブルの上には、ほとんど食べ終わった食器が並んでる。

「わかった、わかった。これから説明するから、とりあえず夕食を作ってくれないか」

カシウスさんは、手を体の前に押し出して、家の中に居た女の子をなだめると、ボクとアスカに向かって、ニヤリと笑って、こう言った。

「この家ではな、エステルが一番の古株なんだ。逆らうとこの家に居られなくなるぞ」

エステルって言う女の子は、席に座ってこのやり取りを眺めていた黒髪の男の子に向かって、声高らかに命令をする。

「じゃあ、ヨシュア。料理よろしく〜」
「今日の当番はエステルだよ?」

ヨシュアって言う男の子はそう言いながら呆れた顔をして、ツッコミを入れた。

「あたしは父さんの話を聞く義務があるのっ!」

でも、エステルは腰に手を当てて、自信満々の顔で答えた。
するとヨシュアはため息をついて、ガタガタと席を立ちあがり、台所で料理を始めた。
ボクもアスカに押し切られて言う事を聞いてしまうよなあ、とヨシュアに同情した。

「あたしはエステル。これから家族になるんだから、あんたたちの名前も教えてもらうわよ」

エステルは僕たちに明るい笑顔を向けてきた。
この子の笑顔も可愛い……でもアスカの笑顔も可愛いんだよな。
サファイア色の瞳と金色の髪が日に映えてキラキラしていた。
この子の体はアスカよりスレンダーな感じだ。
脚も健康美っていうのにふさわしい。
でもアスカの方が胸、太もも、ふくらはぎがいい感じで……。
はっ、ボクは何をトウジたちみたいないやらしい想像しているんだ!?
でもアスカをボーイッシュにした感じの似ている子なんだよね。
ボクがエステルを眺めて、長い妄想をしている間にアスカが発言した。
何かにイラついているような声だった。

「アタシはアスカ。こいつはバカシンジ」
「よろしく、アスカ、バカシンジ」

ボクの前でエステルとアスカは握手をしていた。
妄想から現実の世界に帰ってきたボクは慌てて叫ぶ。

「ボクの名前はシンジだよ!なんでアスカはいつもポンポンポンポン!」
「なによ!うるさいわねバカシンジ!」

ボクとアスカの口喧嘩が始まってしまった。
でもボクはすっかりアスカがいつもの調子に戻ったみたいで嬉しかった。
最近はボクを無敵のシンジ様ぁなどといって、憎んでいるように見えたから。
そして、カシウスさんたちの前で、アスカは猫を被っていない。
年相応の態度をとっている。
距離を置いていない証拠だ。
もちろん、強気な態度は自分の弱さを隠すための演技ってところまでは、その時のボクにはまだ分からなかったけど。

 

「あんたたち、いい加減にしなさーい!」

アタシたちの喧嘩は、エステルの叫びによって中断された。
静まり返った食卓に、ハンバーグのいい香りが漂ってくる。
ヨシュアがハンバーグを料理したみたいだ。
冷凍の肉に余裕があったかららしいけど、何の肉かな?
魔獣とかじゃなければいいんだけど。
カシウスさんに聞くと、アタシたちがいつも食べている牛と豚の合挽き肉だった。
安心して食べられる。
シンジのハンバーグに比べると手慣れた感じがするわね。
大きさも整ってるし、玉ねぎも適量みたいだし、焦げもないし……でも何か物足りないな。
シンジは自分より端正のとれているハンバーグに気落ちしているようだ。

「ヨシュアって、料理がうまいんだね。ボクじゃあこんなに上手く作れないよ。今度教えてよ」

アタシはその言葉に危機感を覚えて、向こうの世界ではプライドが邪魔して言えなかった事を言ってしまった。
そう、心の叫び。

「アタシはシンジが作ってくれるハンバーグが好きよ! そのままがいいんだからね!」

アタシはシンジの作るハンバーグに最初は文句を言っていた。
細かい注文を付けたりしていた。
いつしかシンジのハンバーグはアタシの専用の味のハンバーグになっていたんだ。

「アスカ、いつもみたいにまあまあ、じゃなくて美味しいって……好きっていってくれたの!?」

シンジは破顔一笑した。
その笑顔を見たアタシは、アタシは否定することなく、首を縦に振って頷いてしまっていた。
アタシ、シンクロ率を抜かされた時から、シンジを見る度に嫌な気持ちになっていたのに、またシンジと一緒にいると心地よい、昔の関係に戻ってる。

「あんた、シンジを今までどーゆー扱いをしてたのよ。美味しいって言ってあげないなんて」

エステルがジトーっとした目でアタシを見てる。
その後は他愛も無い話をしながら、夕食を食べ終わった。

 

ボクは夕食の後、解散となったため、緊張をほぐすために庭に出てみることにした。
周り一面森に囲まれ、夜風が心地良い。
水音が聞こえたので行ってみると、裏の大池で釣りをしているエステルが居た。

「エステル、何をしてるの?」
「シンジか。夜釣りだよ♪」

ボクにそう答えたエステルの竿にアタリが来たようだ。
数分に渡るバトルの末、エステルの勝利。
大物が釣れたようだ。

「やったー♪見て見て♪」

満面の笑みでボクに魚を見せるエステル。
その笑顔を見たボクは、こう想像していた。
エステルの笑顔……輝いてる。まるで太陽みたいだ。
……アスカの笑顔も眩しかった。蒼い瞳が輝いて。
最近見てないな、アスカの笑顔。
また見たいな。
エステルは、延々と釣り上げた大物のすごいところをボクに喋っていたらしいけど、ボクは全然その話を聞かずに妄想の世界に入っていた。
それに気づいたエステルが膨れっ面でボクの肩を突いた。

「シンジ、あたしの話を聞いてないでしょ。何を考えていたの?」

ボクは思っていた事をエステルに打ち明けようと思った。

「アスカの事なんだ。最近、アスカが落ち込んでいて、笑顔になってくれなかったんだ。原因はアスカのシンクロ率が落ちてるからなんだ」
「ふーん、シンクロなんとかはよくわからないけどさ、なんでシンジはアスカの事が好きなの? あの子、いつもシンジをいじめてる感じじゃない?」

エステルは釣りの手を休めて、ボクの話を聞いてくれていた。

「違うよ。アスカはボクを励ましてくれてるんだ。でも、ボクはアスカを傷つけるだけで、笑顔にさせるなんて無理なんだ」
「諦めるんじゃないわよ! シンジが諦めたら終わりなんだから! 諦めない限り大丈夫よ!」

エステルは力一杯落ち込んだボクを励ましてくれた。
まるでアスカが励ましてくれるみたいだ。
ボクはエステルにアスカの姿を重ねて見つめてしまった。

「シンジ?なによ、そんなにあたしを見つめちゃって! あはははは〜っ! 他の女の子だったら、完全に誤解してるところだって。シンジって、将来絶対、色恋沙汰で苦労するタイプよね。は〜。お姉さん、心配になってきちゃった」

当のエステルも相当鈍いんじゃないだろうか、ヨシュアに同情するよ……と思ってしまうボクだった。
でもエステルの気持ちは伝わって来た。

「うん、諦めないよ。」

ボクがエステルの瞳を見据えて返事をすると、エステルは満足げにうんうんと頷いて、また釣りを再開した。

 

アタシは慣れない環境で疲れがたまったのか、夕食の席に座ったままテーブルに突っ伏して居眠りしていた。
気がつくとアタシの体には毛布が掛けられていた。
薄眼を開けると、ワインを静かに飲むカシウスさんと、ヨシュアが凄い深刻な顔で話してる。
アタシが目を覚ました事には気づかないみたい。

「やっぱり、決意は変わらないのか? エステルはお前が居なくなると悲しむぞ」
「うん。この家を離れる事になっても、エステルを守るなら仕方が無いよ。それが僕の誓いだから」

アタシはヨシュアのこの言葉が聞こえた時、カッとなった。
椅子から一気に起き上がってヨシュアの胸倉をつかんで問い詰めた。

「誓いってどーゆー事よ! 離れるってどういうことよ!」

カシウスさんとヨシュアは一瞬顔を歪めたけど、何でもないってすっととぼけた。
アタシの明晰な頭脳は真実に近い仮説を立てて、論理的思考で二人を追いつめる。
逃げようとした二人に、エステルにこの事をばらすと脅かしたらおとなしくなった。
アタシはカシウスさんにヨシュアがした誓いの内容を聞き出した。
ヨシュアはある秘密結社の暗殺者で、三年前にカシウスさんの命を狙ったが、返り討ちに遭い、家族として暮らすことになった。
でも、結社の追手がヨシュアに迫ってきたら、迷惑をかけないため、エステルを守るために姿を消すという誓いをその時したようだ。

「アンタ、バカァ!? 女の子の気持ちを全くわかって無いんだから! 見捨てられた方は凄い傷つくのよ!」

アタシはそう居ながら、ヨシュアに何回も平手打ちを喰らわしていた。
そして目に少し涙を浮かんできた。

「ヨシュアが迷惑って言うなら、アタシもこの家から出なくちゃいけないじゃない! もう嫌! 三回目は!」

アタシは、振り下ろした両手をグッと握りしめて、大声で喚いた。

「今までそんなに辛い別れを経験してきたのか、可哀想にな……」

そんなアタシの姿を見たカシウスさんの、優しく呟くような言葉に、アタシは下を向いて消え行くような細い声で答えた。

「うん、ママと、その次はアタシの保護者になってくれたミサトって人……」

カシウスさんはアタシの頭を優しくなでながら、ヨシュアの方に顔を向けて言う。

「ヨシュア、俺たちは女性の心情には鈍かったようだな。あの時の誓いを、撤回してもらうぞ?」
「うん、わかったよ父さん。」

ヨシュアはカシウスさんを毅然とした表情で、しっかりと頷いていた。
もう、大丈夫。女の子を泣かせるなんて、許せないんだからね!

 

ブライト家には客間が無い。
さすがに放任主義のカシウスも14歳の多感な少年少女を同じ部屋で寝かせるわけにもいかず、シンジ・ヨシュアでヨシュアの部屋、アスカ・エステルでエステルの部屋の組み合わせで寝ることになった。

 

《エステルの部屋》

あたしはアスカにベッドを譲ることにした。
慣れない環境で疲れてるだろうし。
アスカもアスカでベッドに寝ることを当然だと主張した。
あたしはなんて生意気な女だ、とムッとしたが初日から喧嘩はしたくない、とこらえることにした。
あたしたちは無言でさっさと寝ようとしていたけど、しばらくするとベッドの方からすすり泣く声が聞こえた。
あたしは急いでベッドに駆け寄って行った。
アスカは涙を流しながらあたしの方を見て謝る。

「エステル……起しちゃった? うるさくてごめんね……」

あたしはアスカを傲慢な女だと思っていたけど、それは誤解だと思った。
強がっていただけなんだと。

「アスカ、なにかあったの?」

あたしがアスカに問いかけると、アスカは涙声でボソボソと話し始めた。

「うん、アタシ怖い夢をよく見るの。ママが目の前で首を吊って死んじゃう夢。そしてパパも知らない女の人と一緒にアタシを捨ててどっかにいっちゃう。そしてアタシの側から誰も居なくなるの」

あたしは、母親が目の前で死ぬという言葉に驚いた。
アスカはあたしとそっくりだ。
まるであたしの分身だ。
あたしはアスカに自分の過去をさらけ出すことにした。

「あたしも目の前でお母さんがガレキの下敷きになって死んじゃったんだ。あたしの身代わりになって。あたしも自分が母さんを殺したって思って悩んだ時もあった。」

目の前でアスカが驚いて息を飲むのがわかる。
たぶん、アスカもあたしと同じことを思ってるんだ。

「あたしは父さんが居てくれたからよかったけど、アスカはずっと寂しかったんだね?」

あたしがアスカの手を握って優しく語しかける。

「ねえ、これからはベッドで一緒に寝てくれる?」

するとアスカは涙に濡れた目で、下からあたしを見上げるように上目遣いでお願いをしてきた。
あたしは、そんなアスカを可愛いと思ってしまった。
アスカはあたしの妹に決定。

「んもう、可愛いわね。じゃあお姉さんと一緒に寝ましょう♪」

あたしはベッドの中でアスカをぎゅっと抱きしめた。
アスカはすっかり安心したのか、アタシに笑顔を見せてくれた。
部屋は薄暗かったけど、わずかな月明かりに照らされたアスカの笑顔は綺麗に見えた。

「ふふっ、シンジがあたしにアスカの笑顔をまた見たいって言ってたのがわかる気がする。今の笑顔を見せれば、シンジは喜んでくれるわよ♪」

あたしの言葉を聞いたアスカは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
そしてぼそぼそと、あたしに言い返してきた。

「エステルだって、いい笑顔してるわよ。ヨシュアがずっと側に居たいって言ってるし」
「ずっと一緒に居るって、姉弟だから当然じゃない」

あたしは平然と、そう答えると、アスカはため息をついていた。
何か変な事いったかな。
その後あたしたちは少し窮屈なベッドで眠りについた。
アスカって柔らかいのね、胸も大きいし。
変な気起きちゃいそう。

 

《ヨシュアの部屋》

「やっぱり僕が下で寝るよ」

僕はベッドに寝ながら、床で寝ているシンジに向かって言う。

「いいよ、ボクが居候させてもらっているんだから」

シンジは僕の言葉を拒否して床に寝転がっていた。
そして静寂が訪れた。

「まだ、起きてる?ヨシュア」
「起きてるよ、シンジ」

そろそろ睡眠に入ろうと思っていた時にシンジから声を掛けられて、返事をした。

「部屋に案内される少し前に、食卓でアスカとヨシュアとカシウスさん三人で話していた事、聞いちゃったんだ」

僕はカシウス父さんがワインを飲んで酔った勢いとはいえ、食卓であんな話をしてしまった迂闊さに後悔していた。

「大丈夫。ボクは家に入ろうとしたときに聞こえたから。池で釣りをしていたエステルには聞こえていないと思うよ」

シンジの言葉を聞いて僕は安心した。
誓いの内容をエステルが知ったら傷つくことになるからだ。

「聞かれたら仕方がない。僕は暗殺者として仕込まれた忌まわしきこの力を使ってでも、側で守る事に決めたんだ」
「ボクはただの中学生だ。魔獣と戦ったりする力なんてない。大切なものを守ることすら無理なんだ」

シンジはかなり弱気で震えた声で、そう呟いた。
僕はシンジに、出来るだけ優しく聞こえるようにこう言った。

「諦めちゃだめだよ。諦めたらそこでおしまいだ。諦めない限りきっとできるようになるよ」
「エステルにも、同じ事言われたよ」

シンジは感心したようにそう答えた。

「エステルは僕の太陽。僕の暗い人生を眩しすぎるくらいに照らしてくれた。だから守るんだ。」

僕は自分に言い聞かせながらそう呟いた。

「ヨシュア、僕はアスカを守れるくらいに強くなりたい」
「……じゃあ、遊撃士を目指すといいよ。戦闘訓練とかは、僕や父さんも協力できると思うよ」
「ありがとう」

そう答えたシンジは安心したのか、ぐっすりと寝息を立てて居た。
僕も寝ようかと思った時、意識を失ってしまった。

 

シンジが寝静まった頃、ヨシュアの部屋から人影が飛び出した。
その飛び出した黒髪で琥珀色の瞳の少年は、家から出た後、人気の無い道を素早い動きで駆け抜けていく。
その黒髪の少年の琥珀色の瞳の焦点は全く定まっておらず、白目を剥いているかのようだった。
少年は目的地に着くと、カックンと人形のように立って待っていた眼鏡をかけた青髪の学者風の青年の前に膝まづく。

「さて、執行者ナンバー13。定時報告をしてもらおうか」

学者風の青年がそう告げると、黒髪の少年は機械的に言葉を紡ぎ出す。

「カシウス・ブライトの家に引き取られた子供二人は、先日ヴァレリア湖に墜ちた巨大な機械兵器に深い関係があるとおもわれます」
「ふふ、興味深い報告ですね。彼らの秘密を探り続けなさい。……他には?」

学者風の青年は眼鏡をいじって先を促す。

「引き取られた子供二人は互いに依存関係にあるとおもわれます」

ヨシュアのその言葉を聞いた青年は醜悪な笑みを浮かべる。

「何と。それはそれは……。ではその絆を断ち切れば、『人形』を作る事が出来ますね。まずは、邪魔なカシウスを引き離す事にしますか」


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