『僕のアスカ。太陽のような君。』
リベール王国来訪編(FC)
第零話 エヴァンゲリオン、消滅
※あたし=エステル視点 アタシ=アスカ視点 僕=ヨシュア視点 ボク=シンジ視点
四人も主人公格が居てややこしいことこの上ないですが、ご了承ください。
《第三新東京市》
突如、市街地の中心部に現れた空に浮かぶ巨大な白黒縞模様の球体。
ネルフの作戦部は使徒と断定し、エヴァンゲリオン初号機、弐号機、零号機の三機による迎撃を決定した。
迎撃作戦の内容は、先日のシンクロテストで一番の好成績を残したシンジの乗る初号機が最初に攻撃し、零号機と弐号機は後方で待機して様子を見るというものだった。
ネルフの作戦部長である葛城ミサトがシンジにライフルによる遠距離からの攻撃の指示を下そうとする直前、アスカの乗る弐号機が初号機の前をさえぎり、使徒の元に突撃した。
ナンバーワンのエヴァパイロットはアタシなの!
バカシンジなんかじゃないわ!
あの使徒をアタシが倒せばミサトもアタシがナンバーワンだと認めるはずよ!
『アスカ、あなたはバックアップのはずよ、戻りなさい!』
ミサトの怒号が通信スピーカーから聞こえたけど、アタシは無視した。
アタシは兵装ビルに用意されていたスマッシュ・ホーク(斧状の武器)を手に取ると、使徒の本体だと思った黒い球体を斬り裂くために駆けだした。
すると突然、足元が沈み込んで行く感覚がした。
足元を見ると黒い影が周囲の兵装ビルと共にアタシの弐号機を飲み込んで行くのが見えた。
「ちょ、ちょっと、コレ、どうなってんのよ!?」
アタシはそう叫びながら、あがくように右腕を頭上に突き出していた。
シンジがマグマの底に沈むアタシを引き上げてくれたときのように。
後で思えば、アタシはシンジが助けてくれる事を心の奥底で願っていたのかもしれない……。
ボクは出現した使徒が何もしてこないまま、にらみ合いがしばらく続いたので、緊張の糸が切れそうになるのを抑えていた。
すると、突然大きな足音が聞こえて弐号機が目の前を駆けて行ったんだ。
アスカの命令は待機のはず。
アスカが命令違反をするなんて!
ボクはそこまでアスカを追いつめていたのか、とショックを受けて、弐号機が使徒に接近するまで見ているだけだった。
目の前で弐号機は黒い影に沈みこんでいく。
通信スピーカーから聞こえるアスカの戸惑った声に気がついて、ボクは弐号機の居る場所に全力で走った。
ケーブルから弐号機を引き上げて助ける事は考えられなかった。
だって、あのマグマに沈み込むアスカを助けたように、直接この手でアスカの手をとって助けたいとおもったからだ。
よし、掴んだ!
ボクは弐号機の手首をつかむ事に成功した。
でも悪い事に黒い影は広がって、ボクの乗る初号機の足元まで来たんだ。
『シンジ君!弐号機を離して撤退しなさい!あなたまで巻き込まれるわ!』
通信スピーカーから聞こえるミサトさんの命令。
でもボクは絶対に離さない、アスカを見捨てるなんてできないよ!
ボクは弐号機の腕をつかむ手に力を込めて、弐号機を抱き上げるように引き寄せた。
その時ボクの視界は弐号機以外ほとんど黒く染まっていた。
落下していく中、何かに強く腕を掴まれる感覚に、アタシは頭上を見上げた。
アタシの視線の先には弐号機の腕を掴む初号機の姿が見えた。
シンジ、また助けに来てくれたんだ。
アタシは感激のあまり、目にうっすらと涙が浮かべた。
『シンジ君!弐号機を離して撤退しなさい!あなたまで巻き込まれるわ!』
通信スピーカーからミサトの声が聞こえた時、またアタシの心に絶望が広がった。
でも、シンジは、アタシを見捨てなかった。
初号機はさらにアタシの乗る弐号機を引き寄せ、黒い影の中で弐号機を抱きしめてくれた。
アタシはなんだか直接シンジに抱きしめられている感覚が感じられて、とても暖かかった。
アタシは初号機に抱きしめられながら、黒い空間を落ちていく感覚を味わっていた。
しばらくすると、眩しい光と共に白い空間に包まれた。
そして、青い空間が広がる。
アタシは上空数百メートルの空間にいるのに気がついた。
弐号機の脚が着水する衝撃を感じる。
アタシの弐号機と、抱きついた形の初号機は、
胸のところまで水に沈み込んだところで安定していた。
内部電源がカラになって、全くエヴァは動かせない。
アタシは仕方がないので、エントリープラグから降りる事にした。
どうやら初号機のエントリープラグもイジェクトされたようだ。
シンジものそのそと初号機から出てきた。
アタシはシンジが助けに来てくれて嬉しいと正直に言えずに不貞腐れたような顔でシンジに文句を言ってしまった。
「な、なんで余計な事するのよ……」
「ご、ごめん……」
シンジはいつもと同じように、怒ったアタシに対して謝った。
お互いの心が落ち着いた後、アタシとシンジはエヴァの肩の上にたって、周りを見回す。
透き通るような青い空、周囲に広がる緑の山々。
しかし、山々に高層ビルのような建物は見当たらない。
「湖のようだけど、芦ノ湖、じゃあないわよね……?」
とても大きな湖で、岸から数キロ離れているから、泳いで岸に渡るのは無理そうだ。
諦めたアタシたちは、黙って座り込んで湖を眺めていた。
ボクは大きな水音がこちらに近づいてくるのに気がついた。
水音がした方向を見ると、一隻の木製のボートがエンジン音を立てて、高速で近づいてくる。
そのボートの舳先には中年のおじさんが乗っていて、手には長い棒を握っている。
もっと驚いたのはその服装だった。
何かの映画に出てくる、昔のヨーロッパっぽい服を着ている。
「湖の側で釣りをして居たら、大きな波が立って、何事かと思って様子を見に来てみれば……」
そのおじさんはボートから降りて、エヴァの肩に乗ると、独り言をいいながらボクたちに近づいてきた。
隣に居るアスカが怯えた様子でキュッっとボクの手を握る。
ボクはアスカを守るように立ちはだかって声をかけた。
「誰ですか、あなたは」
そのおじさんは宥めるように、手をブラブラさせて、軽い調子でこう言った。
「やれやれ、そんなに警戒しないでくれよ。俺はカシウス・ブライト。遊撃士だ」
「「何よ(ですか)遊撃士って?」」
ボクとアスカは合わせてそう答える。
言ってカシウスと名乗ったおじさんはちょっと首をかしげて、目を丸くした。
「遊撃士を知らないのか?」
カシウスさんは考え込みながら初号機と弐号機の顔を見つめながらボク達にまた質問をする。
「この湖に落ちて来たデカ物は君達のものか?」
「……」
ボク達はカシウスさんに即答できなかった。
「取り合えず、地域の平和と民間人の保護って事で君達を連れていく。さあ、ついてこい」
と言ってカシウスはウィンクする。
突然ついて来いって言われてもわからないよ……。
せめてアスカだけでも守らないと。
ボクはカシウスさんと見つめあったまま、動けないでいた。
「時間が無いんだ。すまんな。」
カシウスさんは、そう呟くと素早い動きで、間合いを詰めると、持っていた棒でボクとアスカの急所に一撃を加えた。
ボクは体中がしびれて動かなくなって、立って居られなくなってしまった。
アスカも同じようだった。
カシウスさんは、ボクたち二人をかついでボートに乗せた。
「エッチ、バカ、変態…」
アスカは弱々しい声で反論したけど、カシウスさんは聞く耳持たず、ボクたちのプラグスーツを隠すように毛布をかぶせた。
ボートが発進すると、カシウスさんは穏やかな声で話しかけてくれた。
「すまなかったな。あのままあそこに居たらお前たち、不審者として王国の警備艇に捕まって牢屋行きだったぞ。あの湖に不時着した巨大な兵器に関係してるんだろ?」
やっと、苦痛が治まってきたボクは身を起してカシウスさんに問いかける。
「あの、カシウス、さん……王国とかわけがわからないんですけど、これからボクたちどうなるんですか?」
「そうだな、とりあえず、ほとぼりが冷めるまで俺の家に居てもらうことになるな。」
カシウスさんは少しだけ考える仕草をしてそう答えた。
「何ですって!? アタシたちはエヴァンゲリオンのパイロットなんだから、ネルフに帰らないといけないのよ!」
体の調子が回復したアスカが、身を乗り出して、カシウスさんに怒鳴った。
ボクたちはエヴァのパイロットして使徒と戦わなければならない。
アスカの言う事は当然だ。
「……ネルフ? 聞いたことが無いな。お前たち、帰る方法はあるのか?」
カシウスさんはネルフを知らないようだ。
世界中に支部があり、超法規的組織として存在しているネルフを知らないなんて考えられない。
「……アタシ、ミサトの命令に違反して弐号機と初号機をダメにしちゃったんだ、ネルフには帰れないんだった。」
アスカが自嘲気味にそう呟いた。
そうだ、一番傷ついているのはアスカなんだ。
ネルフに戻ってもアスカは傷つくんだ。
……でも、ミサトさんも許せない。
アスカを見捨てろだなんて。
ボクはそういう命令を出したネルフにはもう戻りたくないと思った。
アスカをこれ以上ネルフに居させたら心が壊れてしまう、連れ出して逃げるなら今しかない。
前向きにエヴァから逃げ出すのはこれで最初で最後だ。
そう決意したボクは、拳を握りしめてカシウスさんに告げる。
「ボクたちは二人とも、ネルフから脱け出します。もう帰るところはありません。」
アスカが驚いて息を飲む。
アスカはボクがまだネルフにパイロットとして認められているのになぜ、と思っているだろう。
この時ボクはまだアスカをずっと守るとは思っていなかった、ただ逃げ出そうと思っただけ。
カシウスさんはその言葉を聞くと、ボクたちに同情するように大きくため息をついた。
「お前たちもヨシュアと同じように謎の結社とかに追われようになるのか、かわいそうにな」
この時ボクはカシウスさんの呟きの意味が全く分からず、頭をひねった。
その後アタシたち三人は無言のままボートは岸に着いた。
ボートがついた桟橋の近くには小さなペンションのような建物があった。
ああ、今日は疲れたわ。
エントリープラグの中で長い間LCLに浸かっていたせいか体中がベトベトして気持ち悪い。
シャワー浴びたい。
と、思ったんだけど。
カシウスっておっさんはアタシたちの姿を見られるとまずいから、すぐにここから離れないといけない、と言う。
アタシたちはそのペンションから出て、近くにある古い石造りの塔、《琥珀の塔》にしばらく隠れる事にした。
塔の入り口からこっそり街道を眺めると、鎧を着た兵士たちがエヴァが落ちた場所へ向かっているのが見えた。
アタシたちは本当にタイムスリップしてしまったの?
それとも別世界に飛ばされたの?
アタシは状況が理解できず、驚くしかなかった。
アタシたちは塔の一階で一夜を明かす事になった。
男二人と一緒に同じ部屋で寝るなんて!
アタシはまだ完全にカシウスっておっさんを信用してなかった。
「へ、部屋が狭いんだから近くで寝るんだからね! 勘違いしないでよ!」
「はっはっはっ、二人に間違いが起こらないように俺が見張っておいてやるから安心しろ」
カシウスっておっさんのからかう声が聞こえる。
アタシはシンジから顔をそむけて横になった。
疲れていたのか固い石畳の上だったのにすぐに寝てしまった。
次の日の朝、カシウスっておっさんの話しかけてくる態度がさらに優しくなった気がする。
昨日までは距離を置いて話しかけてきたのが、今日はまるで家族に接するように細かい事まで気を使ってくれる気がする。
まあ、『カシウスっておっさん』から『カシウスさん』に格上げしてあげてもいい。
昨日の夜何かあったのかな?
そういえば、カシウスさんに寝顔をしっかり見られたんだ、あー恥ずかしい。
そろそろ王国軍の警戒網も薄れてきたという事で、アタシたちはカシウスさんの家に向かう事になった。
でも、カシウスさんの姿も目撃されて、エヴァ関係で注目されても困るので、街道ではなく獣道を進む事になった。
途中アタシたちは常識では考えられない、人を襲う大きな動物や巨大植物のようなものに遭遇した。
『魔獣』と呼ばれる怪物らしい。
武器も戦う力も無いアタシたちはカシウスさんに守ってもらうしかなかった。
カシウスさんが信用できなかったらシンジと二人で逃げるってことも考えたけど、これじゃあ諦めて一緒に行くしかない。
魔獣っていう異進化を遂げた生物がいるあたり、ここは地球じゃないのかな、とアタシは考えていた。
アタシとシンジは、エヴァが不時着した《ボース地方》から、カシウスさんの家のある《ロレント地方》に着くまでの間、この世界の地理の事、歴史の事、電気に似た『導力』の事などをカシウスさんに教えてもらっていた。
―第三者視点-
《ロレント郊外・ブライト家》
ロレントの市街から少し離れた森の空き地に、一軒だけ建っている木造の二階建ての家。
カシウス・ブライトが十五年前に建てた家である。
この家の一階のダイニングキッチンで、一組の少年少女が夕食をとっていた。
一人は、黒髪で琥珀色の瞳を持つ少年、ヨシュア・ブライト(14歳)。
もう一人は、赤い髪とルビー色の瞳をもつ少女、エステル・ブライト(14歳)。
二人は11歳の時、カシウスがヨシュアを拾ってきてから一緒に家族として暮らしている。
あたしがヨシュアと一緒に夕食を食べていると、街道の方から家の方に向かって人の話し声と足音が近づいてくる。
だんだん近くに聞こえてくる声の一つがカシウス父さんだとわかると、あたしは出迎えるために玄関に向かった。
玄関の扉の向こうから、カシウス父さんの声が聞こえる。
「ここが俺の家だ。良い家だろう?」
「ふーん、まあまあね」
その女の子の声は大きい声だったので、中に居るあたしとヨシュアの二人にも聞き取ることができた。
あたしはその声に聞き覚えが無かった。
とにかく後で紹介してもらおうと思って、ドアを開いて父さんのいる方を見た。
あたしの前にはニヤニヤする父さんと、仁王立ちする少女と、伏し目がちにこっちをみる少年が居た。
あたしの事をみると父さんはこう言い放った。
「土産だ。」
そのセリフは、父さんがヨシュアを三年前に家に連れてきた時と同じだった。
あたしは父さんを睨んであの時と同じセリフを一句違わず叩きつけてやった。
「どーゆー事か、説明してもらいましょうか?」