消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法がきのうの参院本会議で、民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決、成立した。現行5%の消費税率は2014年4月に8%、15年10月には10%へと2段階で引き上げられる。
野田佳彦首相が「政治生命を懸ける」としてきた増税法の成立により、政局の焦点は自公両党との3党首合意で「近いうち」とした衆院解散の時期に移る。野党側が早期の解散・総選挙を求めて攻勢を強めるのは避けられず、首相がいつ解散を決断するか政局は緊迫度を増しそうだ。
一体改革は、消費税増税を財源に社会保障制度の維持・拡充を図り、財政再建につなげていくものである。老後の生活の安心を確保し、将来世代への負担先送りをできるだけ避けようという狙いだ。危機的な財政と、ほころびが目立つ社会保障の立て直しに向け、まずはその一里塚と評価したい。
仮に法案がつぶれれば日本の政治や財政再建に対する国際的な評価が下がり、国債の信認低下などの事態を招きかねなかった。
しかし、改革の中身はまだ不十分と言わざるを得ない。消費税率引き上げは1997年4月に3%から5%にアップして以来となる。国民に重い負担を求める以上、政府や国会はそれに見合う改革をさらに進める責務がある。
■公平性と公正さ前提
消費税増税に反対する中小野党が提出した内閣不信任決議案は9日夜、民主党などの反対多数で否決された。自民、公明両党は野田内閣の信任につながる反対票は投じない一方、一体改革法案の成立を期すとした8日の3党首合意を受け、採決は棄権した。政局は混乱したものの、3党首が最後の局面で責任感を示したといえよう。
低成長が続き、景気回復の実感が乏しい国民生活に、あえて負担増をこわなければならない。その重みを3党は認識すべきだ。衆院解散をめぐる各党の駆け引きが当分続くだろうが、解散前にまずやるべきことがあるのを忘れてもらっては困る。
税率引き上げは、公平性と公正さの確保が大前提である。政治の責任で転嫁問題や低所得者対策など先送りされてきた具体策の決着を急ぎ、国民への周知徹底に万全を期してもらいたい。
最大の課題は、増税分を製品や商品の価格に円滑に転嫁できるかである。立場の弱い下請けの中小企業が、大企業に製品を納入する際、納入価格に増税分を上乗せできるのだろうか。
企業の経営判断で商品の価格は決まるが、デフレと企業間の競争激化で多くの中小企業は値下げ圧力にさらされている。大企業が価格転嫁を容認しないため、下請け企業が増税分をかぶるケースもあるといわれる。
政府の検討本部は、消費税導入時に認めた「転嫁カルテル」を今回も容認する方針を示しており、独占禁止法の適用外とする方向で検討している。
■低所得者対策を急げ
下請けいじめなど独禁法や下請法の違法行為を厳しく監視し、企業の転嫁への懸念を払拭(ふっしょく)する必要がある。そのためには公正取引委員会、中小企業庁の態勢強化が欠かせない。
与野党が先送りした大きな課題の一つに、低所得者の税負担が重くなる「逆進性」緩和の方策がある。食料品など生活必需品にかかる消費税が増税されれば、家計に占めるこれらの消費支出の割合が高い低所得者の暮らしが圧迫されるのは間違いない。
与野党は、それぞれの低所得者対策の利点や課題を見極めて早急に結論を出し、国民の不安を和らげてもらいたい。
2013年度予算編成での歳出の一層のスリム化や、国会議員の定数削減など「身を切る改革」も待ったなしだ。
一体改革の中身についても早急に詰めなければならない。
まず、増税分を社会保障財源に充てる原則を厳守することである。消費税増税法案の付則には、防災や減災などに資金を重点的に配分することが盛り込まれているからだ。
自公両党は大規模な公共事業投資を求めており、増税分が流用されるのではないかとの疑念が出ている。しかし、持続可能な社会保障制度の再構築が、一体改革の本来の趣旨であることを決して忘れてはならない。
二つ目は社会保障制度の改革である。今回の改革案は一定の前進はしているが、修正協議で当初案よりも大きく後退した。民主党が主張してきた最低保障年金創設の新年金制度や後期高齢者医療制度の廃止を含む社会保障制度改革は、新設する「国民会議」で1年以内に結論を出すことになる。
その期間中に総選挙を挟むことになるだろう。しかし、人口減少時代の社会保障制度をどう設計するかは、政権の枠組みが変わっても取り組むべき課題だ。国民会議を早く設置して議論を始める必要がある。
社会保障と税の一体改革は、どの政党が政権に就いても取り組まなければならない重要課題である。各党が国民の選択肢となる展望を明確に示し、改革を継続して進めることが求められる。
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