全体的な感想として、話自体は読み易く、王道展開なので、ハマり込めれば最後まで一気にいけると思います。
しかし、私の場合はとにかく途中で手を止め、本を閉じる回数が多かったです。
その原因は、主人公の魅力の描写不足による、主人公への感情移入のし難さ
それに伴うヒロイン達の取って付けた様なデレ展開
後は、現実社会を舞台にした世界観にも関わらず、大人の影で力を持ちすぎた中学生等の子供達(この辺りは人によって受け入れられる範囲が大きく違うと思います)
著名な作品からの設定や舞台装置の流用がこの作品独自になりきれず、目に付きすぎてしまう点(単純に、好きな作品がダウングレードされているような悲しい気分に)
とにかく、主人公を許容できない人は、読むのが辛くなるのは間違いないでしょう。
以下にはもう少し踏み込んだ感想を記述致します。
ネタバレやファンの方にとっては不快な要素も含むと思いますので閲覧にはご注意ください。
良かった点
・全体的に読みやすく、話は苦労なく頭に入ってくる点
・王道っぽくわかりやすいストーリー
・用語を多様しているものの、分かり難くはなっていない点
悪かった点
・主人公の作者による取ってつけたような優遇っぷり
正直、デブで根暗でイジメられっ子で、良い所が一つもないと自分で自覚すらしている人間が、何か大きな事件をきっかけに、周囲から才能を認められ、人望を得る
という展開ならよくありますし、私自身も十二分に感情移入ができたと思います。
しかしこの作品では、なぜか突然人望(ヒロインからの好意)を得てから大きな事件で才能を発揮するという、訳のわからない構成になっています。
主人公が好意を得るまでにやっていたのはただ単に、誰も注目しないスカッシュゲームで常人未踏なハイスコアを打ち立てた事だけ。
いくらメインヒロインが、速さにこだわり、並々ならぬ執着を見せていた、と言われても、その価値観で生きていない読者は置いてけぼりです。
だから、性格的にも、ビジュアル的にも褒められた物ではなく、本編での行動も卑屈そのものな主人公に、
学校中が崇める女神のようなヒロインが一目惚れしてました、なんて言われても全く納得できません。
事実、主人公自身も新しいいじめかと疑ったりするのですが、その時の言動や態度等も不快感極まりなく、ヒロインの好意を読者にとって、より理解し辛くしています。
おまけに、しばらくの間疎遠になっていて彼氏もいる幼馴染すら、なぜか主人公に無下にされても全く嫌う事なく献身的に尽くし、
家族以外では恋人同士でしかしないと言われている行為を大した心理描写すらなく易々と受け入れます。なんじゃこら…
その幼馴染が主人公に惚れている理由も、何か昔優しかったじゃん、みたいな超適当な理由。好意を持ち続けながら、イジメでどん底に居た主人公を完全放置していた理由もかなり強引。
確かに、そんな奇妙な恋の仕方も世の中にはあるでしょうし、中学生ならそんなものかという考え方もあるでしょう
しかし、それはそれ、小説なら読者が理解できるように、ヒロイン達の心理描写を細かに書くべきだったのではないでしょうか。
正直、よくある中肉中背でイケメンじゃないけどブサメンでもない、地味なだけの主人公なら、ここまで拒絶反応は出なかったと思います。一芸秀でるだけで評価がプラスになりますから。
作者が意図的に貶めに貶めたはずの主人公とは一体なんだったのか。どう考えてもこのキャラクターを主人公に選択した理由も意図も魅力もメリットも見当たらない。
イラスト的にも似ているので、富士見のA君をイメージしたりもしましたが、
もし作者もそういったダメ人間興隆記を思い描いて書いていたのだとしても、似ても似つかない別物だと思います。
その他にも厨二病的世界観に頭が痛くなる事はいくらかありましたが、やはりこの一点が大き過ぎ、残念過ぎると感じました。
そして、その大きさ故に、これだけの長文を書き殴ってしまったという点につきまして、ほんの少しだけご理解いただければ幸いです。