社会保障と税の一体改革関連法が民主、自民、公明3党の協力で成立した。5%の消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げる。日本の財政再建に向けた重要な一歩である。
ようやく手にしたこの成果を大切にしなければならない。日本は長い時間をかけて、財政再建と経済成長の両立に取り組む必要がある。消費増税を確実に実行し、次の改革につなげるべきだ。
ツケ残す政治と決別を
日本が消費税を導入したのは1989年4月だった。97年4月に税率を3%から5%に引き上げるまでに8年間を要した。そこからさらに17年間を費やし、やっと次の税率引き上げが実現する。
97年度と12年度の国の一般会計予算(当初ベース)を比べてみた。日本経済の低迷が響き、税収は15年間で27%減った。一方、少子高齢化で社会保障費などが膨らみ、歳出は17%増えている。
歳入の確保と歳出の抑制が避けられないにもかかわらず、日本は必要な対応を怠ってきた。過大なツケを次の世代に残し、債務危機のリスクを高める政治とは、ここできっぱりと決別したい。
法律が通ってもまだ安心はできない。経済情勢を見極めながら消費増税の是非を判断する弾力条項が、先送りの口実に利用される恐れがある。景気への配慮は必要だが、大幅に悪化しない限り、増税を回避すべきではない。
円滑な消費増税の環境を整える必要もある。企業が製品の価格に税負担を転嫁できる体制づくりが欠かせない。大企業の下請けいじめをはじめとする価格転嫁の障害を取り除いてもらいたい。
消費増税の負担が相対的に重くなる低所得者への対応策も、これから詰めなければならない。単なるばらまきを排し、本当に困っている人を支援できるよう、適正な制度を設計すべきだ。
問題は年金や医療の抜本改革を先送りした点である。持続可能な社会保障と健全な財政をともに目指すのでなければ、真の意味での一体改革とは呼べないはずだ。社会保障費の膨張を抑え、余裕のある高齢者にも応分の負担を求める努力が決定的に足りない。
3党合意を踏まえて新設するはずの社会保障制度改革国民会議で、抜本改革の検討を急ぐべきだ。70~74歳の医療費の窓口負担引き上げや外来受診時の定額負担上乗せなどはもちろん、いずれは年金支給開始年齢の引き上げにも踏み込まざるを得まい。
こうした改革を怠れば、将来に必ず禍根を残す。今回の消費増税だけで、基礎的な財政収支を20年度に黒字化する目標を達成することはできない。社会保障費を中心とする歳出の抑制とさらなる消費増税を組み合わせ、財政再建の努力を継続するしかない。
消費増税に対する不満や景気への影響に配慮して、余裕のできた財源を公共投資に回そうという動きが3党にはある。自民党は10年間で200兆円、公明党は100兆円を防災・減災事業などに投じる計画も提唱している。
本当に必要な事業ならいい。だが安易なばらまきに走るのでは、何のための消費増税なのかがわからなくなる。国民に負担を強いる以上、厳しい規律を求めたい。
成長力強化も忘れるな
忘れてはならないのが日本経済の活性化である。財政再建を軌道に乗せるためにも、成長力の強化が必要だ。消費増税の道を開いた野田政権の功績は大きいが、成長戦略の貧しさは隠せない。
環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加を早く決断すべきだ。メキシコとカナダの参加が固まり、日本の意思表明を促す圧力も高まっている。消費増税のめどをつけた今、民主党内の調整を急ぐ余裕ができたはずである。この機会を逃してはならない。
約35%の法人実効税率(復興増税を除く)を主要国並みの25~30%に引き下げる議論も始めてほしい。民間の活力や創意工夫を生む成長戦略がどうしても要る。
日本の政治は財政再建と経済成長の両立に必要な改革を継続できるのか。自民党は「協力は消費増税までだ」と明言し、社会保障と税の共通番号法案を除く懸案には対決姿勢で臨む方針である。
議院内閣制は衆院で多数を得た政党に政権を託す仕組みだ。衆参のねじれに乗じ、野党が民意を超えて動くのは好ましくない。
赤字国債発行法案など積み残しの懸案は多い。いずれ選挙で戦うにしても、3党は国としてやらなければならない政策にはともに取り組んでほしい。今回の「決める政治」を守り続けるべきだ。
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