ロンドン五輪男子サッカー韓国代表チームの練習場に行くと、決まって目にする光景がある。練習開始の約20分前に、中年の男性がコーチングスタッフや選手たちよりも先に出て準備をしている姿だ。選手時代に負ったけがで今でも足を引きずるこの男性は、洪明甫(ホン・ミョンボ)監督率いる韓国代表チームの池田誠剛フィジカルコーチ(52)だ。韓国が3位決定戦(11日午前3時45分、英国カーディフ・ミレニアムスタジアム)で日本と対戦することが決まり、サッカー韓国代表チーム初の日本人コーチ、池田コーチにも関心が集まっている。
池田コーチは韓国のベスト4進出の隠れた功労者と言われる人物だ。選手たちの体力管理を担当するフィジカルコーチだが、戦術的な部分だけでなく、選手たちの心理カウンセラーの役割も担っている。
池田コーチは現役時代、スター選手ではなかった。早稲田大学教育学部を卒業後、実業団の古河電気工業に所属したが、29歳でひざの十字靱帯(じんたい)を損傷し、選手生活にピリオドを打った。現役時代に多くのけがに悩まされた経験から、サッカー選手の体調管理に関心を持つようになり、知人の紹介で1994年の米国ワールドカップ(W杯)でブラジル代表に同行、フィジカルコーチとしての道を本格的に歩き始めた。95年にACミラン(イタリア)で研修を行った後、Jリーグの市原や横浜F・マリノスなどでフィジカルコーチを務めた。
池田コーチはマリノス時代、日本代表の主将を務めた井原正巳の紹介で洪明甫監督と知り合った。池田コーチは「当時から彼の目は世界を見ていた。アジアサッカーのレベルを高めたいという気持ちに共感した」と振り返る。
池田コーチの人柄と能力にほれ込んだ洪明甫監督は、2009年のエジプトU20(20歳以下)W杯前に日本を3回も訪れ「三顧の礼」の末、韓国代表チームのフィジカルコーチとして迎え入れた。池田コーチは「日本人の私が韓国代表チームで働くことは負担だったが、洪明甫監督の誠意に心が動いた」と話す。
池田コーチが合流した韓国代表チームは、体系的な体力管理システムを築き上げた。今回の五輪で韓国代表はプレスをかけるサッカーを展開しているが、その原動力となる体力を身に付けたのも池田コーチのおかげと評価されている。年齢は洪明甫監督より9歳も上だが、「上官」に礼儀をもって接する。韓国代表の関係者は「池田コーチは洪明甫監督に対し『将軍』に仕えるように接している。洪明甫監督が大まかなビジョンを描き、池田コーチが細かい部分をまとめるのが、現在の五輪代表チームのスタイル」と話している。