2012年08月10日
楽天「Kobo Touch(コボタッチ)」が売れない9つの理由と電子書籍の未来
楽天の三木谷社長の「Kobo」の不具合に関する発言がネット上で問題になっていた。後で意見を変えたようだが、はてブ上でもこの発言を問題視する意見が相次いだ。しかし、日本初の大型電子書籍端末としては日本の出版界を驚かせた。本を電子書籍で買う時代。そんな時代がもうすぐ側までやってくるのかもしれない。現時点で日本語タイトルは少ないが、順次増えていく事は間違いない。Amazonのキンドルが今年の9月には日本参入という情報も聞く。でも、僕はこの電子書籍ブームに一抹の不安を感じてならない。
つまり、
電子書籍って流行るの?という事だ。
●楽天「Kobo Touch」が売れない9つの理由と読書好きの僕としての意見。
1.本を読む電子書籍端末としては最適だが、初期投資は大きい。
Koboに限らずキンドルにおいても最近の電子書籍端末の完成度は高い。実際、手にとってみたが電子インクという技術を使って長時間起動できる事に加えて、ニンテンドーDSのような小さい画面を長期間使ったような目の疲れは感じない。ほぼ本に近い感覚で読む事ができると思う。これは凄いことだ。しかし、電子書籍の一番のネックは端末を事前に買わなくてはならない…という点だ。このハードルが高い。楽天の「Kobo」で言えば、約8000円を事前に払わなくてはならない事だ。これはハードカバーで6冊。文庫本でいえば10冊以上の価格になる。まず電子書籍において、ここが一番のネックかもしれない。
普通の本なら初期投資0円で、本屋で買えば帰りの電車の中でも家でもどこても読める。
2.張り巡らされた書店網
電子書籍の一番のライバルは実は楽天ブックスであったり、Amazon.co.jpだったりする。つまり自社で抱える書籍販売部門だ。それに加えて日本中にあるリアル書店もライバルであったりする。今やどこの駅を降りても相当な田舎でない限り、書店の1軒や2軒はあるだろう。東京であれば、なおさら「ジュンク堂」とか「ブックファースト」とか色々な大型書店がある。大抵の本は書店で買う事ができるだろう。先日紹介した「∞アイディア」という本がある。リアル書店3軒回っても売ってなかったが、Amazonに置いてあった。個人的に優位性はリアル書店にあって、なければ、ネットで買う。しかも今や楽天においてもAmazonにおいても全ての商品が送料無料だ。別にリアル書店で買わなくてもタダで家まで届けてくれる。
新品を買う際、僕はなるべき書店で買うようにしているが、日本においてネットで買おうが書店で買おうが価格に差は無い。やはり書店、ネット書店のメリットは大量の新刊が発売日に買える点だろう。今後、電子書籍も書店と同時に発売する可能性もあるが、そうなると多くの書店からの反発を受ける事は必須だ。再販制度で定価を維持している手前、電子書籍を大幅に値引けない理由がここにあると思う。
3.アメリカでキンドルが普及した理由。
世界の電子書籍の先駆者と言えば、やはりAmazonのキンドルだろう。電子書籍の売り上げがリアル本の売り上げを上回った…なんて話も聞くが。アメリカのお国事情が反映されているのかもしれない。日本ではちょっと駅前にいけば書店があるが国土の広いアメリカでは本屋に行くにも車は必須だ。それに加えて最大の要因が海外独特の本のスタイルだ。要はデカイのだ。普通に縦だけで21センチ近くあるし、ページ数も数百ページとアメリカンなサイズが大きい。日本でいうちょっとした辞書くらいある。電車の中で読むには重すぎるし、片手で読むのは不可能に近いだろう。そこに登場したのがキンドルという商品だ。ある意味で利用者とサービスがマッチした瞬間だったのかもしれない。アメリカの場合は本を何円で売るかは書店、もしくはAmazonのようなネット書店が決める形式になっている。日本独特の返品制度というものがないため、在庫を抱えるリスクがあるが圧倒的な価格で本を販売できるのが強みだ。
キンドルにおいてもそれは同じで、出版社とAmazonがいくらで売るか交渉して決定する。場合によってはAmazon側で独自に決める場合もあるらしい。大体、リアル本の2割から3割引きぐらいが売値と考えれば妥当だと思う。Amazonとしては倉庫に大量の本をストックしておく必要がなく、サーバーさえ用意すれば売れる電子書籍という形態はまさに理想形だろう。
・米国Kindleストア、取扱い書籍数は順調に伸びて現在700,000超
↑これが2010年の話です。
楽天で取り扱い書籍数を数万、年内に20万点を目標としているそうだが、それでやっと中規模書店と戦えるレベルだ。米国Amazonの書籍の取り扱い数は70万点だと聞く。それだけあって低価格というのなら、紙の書籍と対等に戦えるのかもしれない。ただ、数万点では町のちょっと大きな書店にも勝てないでしょう。
4.文庫と新書という独特の販売方式と印税。
日本の書籍業界における独特の方法として「文庫」と「新書」というものがある。最近ではハードカバーではなく最初から「文庫」で発売するという作家も増えたらしい。新書も日本独特の出版スタイルだ。あるテーマに沿って200ページ弱で構成されるものだ。新書なら700円程度、文庫から500円程度で買える。いくら安価な電子書籍といっても著者への印税や出版社の取り分を考えると、1冊を200円で販売します!なんて現実的には不可能だと思う。分かり易く言えば、売り上げを「出版社・著者・楽天」で分けるわけだから、最大でも2〜3割引きが限度ではないだろうか?楽天のKoboのサイトもチェックしたが、まだ日本語のタイトルは少ない上に文庫においてはリアル本、電子書籍においては同じ価格で販売されています。
書店のメリットはやはり、新刊が発売日に置いてある事だと思います。
楽天のKoboサイトにおいて「人生が変わる魔法の片付け」という本が800円で売られていました。定価から考えれば安いと思います。しかし、この本は一昨年発売した本ですし、マーケットプレイスでも同じ価格で購入する事ができます。やはり本にも旬はあると思うんですよね。
5.古本という日本独特の文化
僕が電子書籍が爆発的に普及しないと思っている第一の理由は、古書店の普及だ。簡単に言えば「BOOKOFF」の存在だろう。いくら電子書籍が低価格といっても「BOOKOFF」のように1冊を105円で販売する事は不可能に近い。それに加えて、読んだら古書店に売るという文化が日本には根付いている。大体、出たばかりの本なら定価の3割〜4割くらいで買ってもらえる。本棚の本を定期的に古書店に売って、売ったお金で新しい本を買う人も多いと思う。それに加えて僕の中では「Amazonマーケットプレイス」の便利さが尋常じゃない。「BOOKOFF」よりも安いし、本も綺麗。僕は書評ブロガーとして活動していますが、大体の本は「Amazonマーケットプレイス」で購入しています。送料250円とられますが…。
6.キャッチコピー不在の宣伝効果。
リアル書店に行く大きな楽しみの一つが書店の店員さんが書くポップと帯だろう。あれに惹かれて本を買ったよ!という人も多いのかもしれない。例えば、100万部を突破した「思考の整理学」という本がある。あの本は当初2〜30万部程度しか売れていなかったが、「東大・京大の生協で一番売れた本!」というコピーが入ってから爆発的な売り上げを記録している。本屋によってお勧めの本が違ったり。書店員さんが厳選した本が並んでいたり、リアル書店にはそういった隠れた楽しみがある。人気順に並べるのもいいですが、そういった遊び心が無いのは本好きとしては残念なポイント。
7.紙の臭いフェチ。
僕がまさに紙の臭いフェチだ。新品の本を開いた時に香るあの臭いが何んともたまらない。電子書籍は無味乾燥な上に臭いもしない。これは大問題だと思っている。
8.付箋、マーカーが惹けない。
文学作品はそうでもないが、ビジネス書においては付箋や大事な箇所、自分が感銘を受けた文章にマーカーを引く人がいると思う。後で読み返して「あっ、ここに感銘を受けたんだな」といった自分の再発見も面白かったりする。付箋くらいは機能で何とか対応できるかもしれないが、手書きのマーカーまでは技術と価格的に難しいのかもしれない。
9.電子書籍ってすごくメジャーなようで、すごくニッチでマイナーな商品。
電子書籍以前に世の半数の人は年間に本を1冊も読まないらしい。書籍市場も年々減少傾向にある。日本国内で本を大量に読む人。さらに、本棚や自宅に本を置きたくないという人。紙の本に愛着がない人。とういうと、いくら低価格で販売したところで市場の限界というものがあるのではないか?メジャーなようでニッチ。それが僕が抱く電子書籍の感想だ。これからAmazonのキンドルが発売され、楽天の「Kobo」との全面対決が始まると思う。でもそれは実は、ニッチ対ニッチの戦いであって、消費者は意外と冷ややかだったりするのかもしれない。
もし電子書籍に未来があるとすれば、それは書店の半額の価格で買えたり、例えば「村上春樹さん」の新作が電子書籍だけで買えます。といった特典が付いた場合だろう。村上龍さんとかは自身で電子書籍の会社を立ち上げだが、電子書籍はコンテンツあってこそ、米Amazonでは電子書籍における自費出版が盛り上がっているらしい。出版社を通さない、著者との直の関係。それも今後の課題であり、電子書籍普及の鍵を握ると思われる。
電子書籍に1000冊の本が入ります。何て言う宣伝も文句もあるが、年間に100冊読んでも満タンになるまで10年は掛かる計算になる。電池以上に長寿命な製品だ。電車の中の人、旅行先の移動などでは活躍するだろうが、個人的には電子書籍云々よりも、出版社にはもっと面白い本を出す努力をして欲しいと思います。
でも本好きとしては一瞬、ポッてしまいたくなる欲求はありますよね。(笑)