残酷な運命のリヴァース(加筆修正版)
第十話 Dummy Death 〜死者の復活〜

突然、初号機が起動すると発令所に居たミサト達は驚きの声をあげる。

「初号機に誰が乗っているの?」
「私です」
「レイですって!?」

ミサトの質問にレイが返事をすると、リツコは口に手を当ててよろめいた。
リツコはゲンドウの指示でレイのクローン体を破棄させられたからだ。
ゲンドウはゼーレに疑いを持たれないためにリツコも騙していたのだった。

「葛城三佐、初号機に出撃命令だ」
「えっ!?」

事態が飲み込めないミサトはとぼけた返事をした。

「早く碇君達を助けなければ手遅れになってしまいます」

レイが強く訴えかけると、冷静さを取り戻したミサトはうなずいて出撃を指示する。

「発進!」

地上に射出された初号機が駆け付けた時、追いつめられた弐号機は、白い9体のエヴァに取り囲まれていた。
白いエヴァの背後から猛烈なスピードで迫った初号機は、強烈なパンチで機体の装甲の上からコアを粉砕する。
コアを粉砕されたエヴァ量産型は再生する事も出来ず崩れ去り、沈黙した。
同胞を倒された残り8体の白いエヴァは弐号機から標的を反らし、初号機に襲いかかる。
不思議な事に、初号機のATフィールドは白いエヴァが装備している剣が通じなかったのだ。

「何で? あいつらの剣は弐号機のATフィールドを簡単に破ったのに!」
「それに、初号機のパイロットは居ないはずだよ」

やられる覚悟をしていたアスカとシンジは初号機が白いエヴァ達をなぎ倒して行く様をぼうぜんと見守っていた。
全ての白いエヴァが崩れ去り動かなくなると、初号機も戦闘態勢を解いた。

「碇君、惣流さん……間にあって良かったわ」
「綾波!?」
「ファースト!?」

初号機から通信が入ると、弐号機のシンジとアスカは驚きの声をあげた。
そしてネルフ本部に帰還したシンジは、レイと久しぶりの対面を果たした。

「ファースト、アンタは零号機で自爆したって聞いたけど、どう言う事?」

アスカは怪しんでいる表情を隠さずにレイに尋ねた。

「それは……」

答える事が出来ずに、レイは困った顔でうつむいた。
シンジはレイにクローン体が存在する事をアスカに話していなかったし、話したくも無かった。

「別にいいじゃないか、そんな事気にしないで! 綾波は僕達の命の恩人だからさ」
「わ、わかったわよ」

シンジの迫力に圧されたアスカが引き下がると、レイは安心したような表情になった。

「ファースト」

アスカがレイを呼ぶと、レイはゆっくりと振り返ってアスカを見つめた。

「アスカ、綾波はパイロットである前に1人の女の子なんだよ」

シンジが注意をすると、アスカは顔を赤くしながら再びレイに呼びかける。

「レイ、助けてくれてありがとう」

アスカがそう言ってレイの手を握ると、レイも笑顔を浮かべてアスカの手を握り返す。
シンジは嬉しそうな笑顔を浮かべてアスカとレイが握手する姿を見ていた。
そして全てが終わったとしてゲンドウは自分もシンジ達と同じく逆行して来た存在だと明かした。

「良く頑張ったな、シンジ」
「父さん……」
「司令が協力してくれるって言うなら、アタシ達が要らぬ苦労をする事も無かったじゃない」
「いや、僕には何となく父さんが味方してくれている事が分かっていたよ。敵を欺くにはまず味方から、そうだったんだよね」

シンジの質問に対して、ゲンドウは否定しなかった。

「だけど、どうして父さんも使徒の力を持っていたの?」
「それは司令が別の使徒、アダムの力を手に入れたから……」

レイはシンジにそう答えると、今の自分は自爆前とは違い、アスカと同じように精神だけ逆行して来たのだと話した。

「知っている綾波やアスカとまた会えたのは嬉しいけど、結局僕はみんなを助ける事はできなかったよ……」
「シンジ君、あなただけの責任じゃないわ……シンジ君達の努力が無かったら、この世界はもっとひどい結末を迎えていた。だから胸を張って前を見て生きる事を加持も望んでいるはずよ」

落ち込むシンジにミサトはそう慰めた。
ミサトも悲しみを抑えて気丈に振る舞っている。

「分かりました」

そのミサトの気持ちを感じ取ったシンジは、顔を上げてうなずいた。

「では冬月先生、後の事はよろしくお願いします」
「ユイ君によろしくな」
「父さん、どこへ行くの?」
「さらばだ」

発令所を出て行こうとするゲンドウを見てシンジが尋ねると、ゲンドウは振り返らずにそう答えて、エヴァのケージに通じる出口へと姿を消した。

「司令は黙ってユイさんの所へ行くつもりだったけど、その前に発令所に居る碇君に声を掛けてくれるように私がお願いしたの」
「そうだったんだ。……ありがとう父さん、そしてさようなら母さん」

レイの話を聞いたシンジは、ゲンドウの消えたエヴァケージの方を向いて、そうつぶやいた。



それからしばらくして、ミサトは加持の墓参りをしていた。
セカンドインパクトを巡る事件の死者は共同墓地に祀られる場合が多いのだが、加持は特別に墓を建てられたのだ。
墓に花を供えながらミサトは優しい口調で加持に話し掛ける。

「加持君……あれからシンジ君とアスカとレイは、普通の中学生として楽しい学校生活を送っているわ、鈴原君達と一緒にね」

重体で入院していたトウジだが、レイが使徒の力の最後の欠片を与える事によって、回復した。
力を完全に失ったレイは人間の少女として生きている。

「碇司令がレイの死を偽っていたって聞いた時、加持君の死も嘘だって……物陰からひょっこり姿を現すんじゃないかって期待していたけど、そんな奇跡は起きないのね」

ミサトのほおを伝った涙が、墓石を濡らした。

「分かっているわ、運命は残酷なものだって。世の中、思うように上手く行かないように出来ているものよね」

そうつぶやいたミサトは、愛おしそうに墓石を撫でた。

「でも、シンジ君達は希望を捨てないで頑張って、最悪の結果になるのを阻止した。私も見習わないといけないわね」

ハンカチで涙をぬぐったミサトはそう言って微笑んだ。

「じゃあ、そろそろ行くわね。次に会いに来る時は、加持君がヤキモチを焼いちゃうぐらいカッコイイ彼氏が私の隣に居たりしてね」

舌を出しておどけた表情でそう告げたミサトは、手を振って加持の墓の前を立ち去った。
そして、携帯電話を取り出してシンジに電話を掛ける。

「あ、シンちゃん、今日の夕食はステーキにしない? 別に給料日前だからって気を使わないで、高級なお肉を買って来てね」

シンジ達の人生はこれで終わったわけではない、むしろこれからの方が長いのだ。
だからシンジ達の保護者として、いや家族として、シンジ達には幸せな将来をつかみ取って欲しいと願うミサトだった。


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