残酷な運命のリヴァース(加筆修正版)
第四話 消え行く力

連続して起きていた使徒の襲来も収まり、シンジは同居していたミサトから中学校に通うように勧められた。
しかし、シンジは露骨に不機嫌な顔になってミサトに言い返す。

「僕は使徒を倒すためにネルフに来たんですよ、学校なんかに行っている暇はありません」
「でもシンジ君、あなたは中学生なのよ。戦いの無い時は学校に通わせてあげたいっていうお父さんの心遣いを分かってあげて」
「使徒が居なくなれば僕も心配無く学校に通えますよ。使徒を探し出して攻撃するとかしないんですか?」
「それはネルフの全力を挙げてやっているわ。良いわねシンジ君、学校に行きなさい。これは命令よ!」

その日のシンジとミサトの夕食はギスギスした気まずいものとなった。
使徒との戦いでカヲルが自爆して死んでしまい、シンジは使徒への憎しみを募らせていたのだ。
翌日シンジは嫌々と言った様子で学校へと登校した。
しかし2−Aの教室で転入生として担任の老教師に紹介されたシンジは、教壇の位置からトウジやケンスケの姿を見ると嬉しくなった。
休み時間、シンジの方からトウジ達に話しかけようとするがなかなかタイミングがつかめず、シンジが困っているとケンスケの方からシンジに声を掛けて来る。

「こんな時に転校して来るなんて、怪しすぎるぜ。あの怪物の攻撃で、みんな街から逃げ出したって言うのにさ」
「そうなの?」

シンジが改めて教室を見てみると、空白の席が意外に多い事に気がついた。

「ネルフの誇る特殊装甲板を一瞬で吹き飛す程の怪物が現れただろう、それでみんな地下シェルターに避難しても安全じゃないって怯えているんだ」
「それならどうして君達はこの街に止まっているの?」

ケンスケの話を聞いたシンジは不思議そうな顔をして尋ねた。

「それが俺達はエヴァのパイロット候補生だから、待機して無ければならないってネルフから通達が来ているんだ」
「何だって!?」

初めてそんな話を聞いたシンジは驚きの声を上げた。

「やっぱり、お前がエヴァの正規パイロットなのか?」
「……うん」

ケンスケに尋ねられてシンジが答えると、トウジがウンザリとした表情でつぶやく。

「お前が早うあの化け物を倒さんかったから、街にごっつう被害が出たんや」
「ごめん、僕のせいで」

シンジはそう言って謝った。

「そうだ! 街が壊されたって聞いたけど、大丈夫だったの?」
「あの怪物の攻撃はシェルターから反れたみたいで、怪我人は居なかったらしいな」
「良かった……」

ケンスケの言葉を聞いたシンジは、ホッと胸をなで下ろした。
使徒との戦いが終わった後は、みんなで楽しい中学校生活を送る、そんな未来を想像していたからだ。

「良かったで済まされるかい、オノレがしっかり戦わんと、自分らが被害を受ける事になるんやぞ!」
「やめなさい鈴原、碇君は私達を守ってくれたのよ!」
「そうそう、逃げ出さなかっただけでも大したもんだよ」

シンジに殴りかかろうとしたトウジを、ヒカリとケンスケが止めた。
確かにシンジは強い力を持っているのだから、力の出し惜しみしなければレイも危険な目に合わせずに倒せたはずだ。
シンジが自分を責めていると、落ち込んでしまったシンジの姿を見てトウジがバツが悪そうにシンジに向かって手を伸ばす。

「すまんな転校生、言いすぎたみたいや」
「もう気にしていないよ」

トウジが謝ると、シンジは笑顔を浮かべて差し伸べられたトウジの手を取り、握手を交わした。
そして自然な流れでケンスケとも親しくなり、アスカ命名の3バカトリオの再結成されたのだ。
その後の中学校での日々は、久しぶりにシンジにとって楽しいものとなった。
しかしこのままではトウジがエヴァに乗せられてしまうかもしれないとシンジには不安があった。
シンジはトウジにネルフから要請が来ても、エヴァに乗らない様に説得するが、トウジは応じない。

「できる事なら自分の手で大切な街や家族を守りたいんや」

トウジの決意が固いと感じたシンジは、トウジの説得を諦めた。

「父さん、トウジをエヴァに乗せる事だけは止めてよ、お願いだから!」
「お前のワガママを聞き入れるつもりは無い」

ネルフへ行ったシンジがゲンドウに直談判すると、ゲンドウはそう断定した。

「ワガママだって!?」
「分かっていると思うけど、鈴原トウジ君が乗らなくても、あなたのクラスメイトの誰かが乗る事になるのよ」
「そ、それは……」

ゲンドウの隣に居たリツコが指摘すると、シンジは言葉に詰まった。
しかしシンジも引き下がるわけにはいかない。

「今度アメリカからやって来る参号機は使徒なんだ、トウジが乗ったら死んじゃうんだよ!」
「何を言い出すと思えば……」
「話にならんな」

シンジは必死に訴えかけるが、リツコとゲンドウはあきれた顔でつぶやき、シンジの話を取り合わなかった。
自分が逆行した存在で未来に起こる事を知っていると2人に納得させるのは、今のシンジには無理だ。
こうなったら、別の方法でトウジがエヴァに乗る可能性を消すしか無い。
取り付く島の無いゲンドウに対してシンジは実力行使に出た。
アメリカから空輸されて来る参号機を破壊してしまおうと考えたのだ。
そして数日後、アメリカ支部から空輸中の参号機が攻撃を受けて破壊されたと言うニュースがネルフにもたらされた。
参号機を破壊した犯人は不明。
その報告をミサトから聞いたシンジは無関心を装い自分が犯人である事を隠した。
これでエヴァの起動実験はひとまず行われないとシンジは安心する。
しかしその日学校に登校したシンジはトウジが欠席しているのを見て胸騒ぎを覚えた。
ケンスケに聞いてもトウジが学校を欠席した理由は分からなかった。

「もしかして、トウジはエヴァのパイロットに選ばれて、四号機に乗っていたりするのかもな。碇はミサトさんから聞いてないか?」
「四号機だって!?」

ケンスケがポツリとつぶやいた言葉を聞いて、シンジは顔色を変えた。

「パパのパソコンを調べて分かったんだけど、アメリカから輸送されたエヴァは参号機の他に四号機もあったらしいんだ」
「そ、そんな……四号機はアメリカ支部と一緒に消滅したんじゃないのか!?」
「アメリカ支部が消滅? そんな事件、起こっていないよ」

歴史が変わってしまった事に、シンジは驚いた。
そして、自分の詰めが甘かったと思い知らされたのだ。

「だ、大丈夫か、碇!?」
「碇君?」

明らかに顔色の悪いシンジに、心配したケンスケとヒカリが駆け寄った。

「早く起動実験を止めないと……!」
「うわっ」
「きゃっ!」

シンジはケンスケとヒカリの体を突き放すと、教室を飛び出し、力の放出を全開にして猛スピードでネルフ本部へ向けて飛び立った。
そしてシンジは司令室でゲンドウと対面を果たす。

「父さん、松代での四号機の起動実験をすぐに中止してよ! でないと、僕は父さんを力づくで止めなければならなくなる!」
「フン、出来るものならばそうしてみろ」
「本気で言っているの……?」

ゲンドウの余裕たっぷりな態度にシンジの方の自信が揺らいだ。
シンジとゲンドウの無言のにらみ合いがしばらく続いた。
すると発令所から、オペレータのマヤの報告が入る。

「大変です、松代で四号機の起動実験中に爆発事故が発生しました!」
「……発令所に行くぞ」

シンジは悔しそうな顔をしながらゲンドウに従って発令所へついて行った。
発令所の大型ディスプレイにはゆっくりとネルフ本部へ向かって移動する四号機の姿があった。

「四号機からパターン青の反応!」
「エントリープラグを強制射出」

ゲンドウの命令に、マヤは首を左右に振って答える。

「ダメです、エヴァの方でロックされています!」
「……現時刻を持って四号機を廃棄。使徒として殲滅対象とする」

マヤの報告を聞いたゲンドウがそう決断を下すと、発令所にどよめきが広まった。
ミサトとリツコは爆発事故に巻き込まれて負傷し入院し発令所にはおらず、ゲンドウに反対する者はシンジしか居なかった。

「父さん、エヴァにはまだトウジが乗っているんだよ!」
「シンジ、我々ネルフの最優先課題は使徒を殲滅する事だ」
「……分かった、僕が戦初号機で戦うよ。でも、絶対にダミープラグは起動させないで」
「なぜ君がダミープラグを知っている?」

シンジの言葉を聞いた冬月が怪しんで問い詰めようとすると、ゲンドウは冬月を止める。

「お前が使徒を倒せば問題は無い」

シンジは勇んで初号機で出撃し、四号機と対峙した。
四号機の目が赤く光り、そして初号機の首をつかみ締め上げる。
しかし、初号機は四号機の両腕を力づくで振り払う事に成功する。

「トウジ、今度こそ僕は逃げない。きっと助けるからね」

シンジは四号機のエントリープラグを引き抜こうと必死に手を伸ばす。
だが、四号機も激しく抵抗し、なかなかそれは叶わない。
初号機と四号機の力は互角のようだった。
圧倒的な力で四号機を抑え込む事が出来ないと気付いて、シンジは驚く。

「もしかして、力が無くなりかけているのか? ちくしょう、この大事な時に!」

シンジが決着を付けられずに苦戦していると、初号機のダミープラグが音を立てて起動した。

「どうして、ダミープラグが!?」

出撃の前、ゲンドウはシンジが戦えばダミープラグを起動させないと約束したはずだった。

「父さん、僕を裏切ったな!」

シンジはゲンドウに向かって怒鳴るが、発令所のゲンドウの返事はなかった。
そうしている間にも、ダミープラグの制御下に置かれた初号機は四号機に攻撃を加えて行く。

「ちくしょおおお! 止まれ、止まれー!」

このままでは四号機に乗っているトウジはフィードバックによるダメージで内臓にショックを受けてしまう。
最悪の場合、死んでしまう事も考えられた。

「や、止めろー!」

初号機が完全に動きを止めたのは、四号機のエントリープラグを握りつぶした直後だった……。
戦いが終わった後も、シンジは初号機のエントリープラグの中でぼう然としていた。
そしてしばらくして発令所との通信が回復すると、マヤはネルフ本部で起こった事件についてシンジに話す。
初号機と四号機の戦闘の最中、ネルフ本部のメインコンピュータが何者かにクラッキングを受け、制御不能に陥ったらしい。
その影響で、ダミープラグも起動してしまったのではないかとマヤは説明する。

「だから、司令はシンジ君との約束を破ったわけじゃないのよ」
「そんなの、もうどうだっていいよ! 早くトウジを助けて……」

シンジにはネルフのメインコンピュータを制御不能にしたのは、使徒であるかもしれないと解っていた。
今となってはシンジはゲンドウに対して憤りを感じているのではない。
無力だった自分自身に腹を立てているのだ。
四号機に乗っていたトウジは意識不明で、集中治療室へと搬送された。
戦いによるダメージは大きく、トウジは明日の命も分からない重体だった。
初号機から降りたシンジは、帰らずにケージでずっとたたずんでいる。

「僕はみんなを救うために逆行して来たのに……ごめん、委員長」
「碇君、泣いているの……?」
「綾波、綾波ぃぃぃっ……!」

シンジはケージに姿を見せたレイに飛びついて泣き始めてしまった。
いきなりシンジに抱きつかれたレイは驚いてしまったものの、シンジの体を離す事はしなかった。

「アスカ、アスカ……!」

しばらくしてレイに抱きついて泣いていたシンジの叫び声が「綾波」から「アスカ」へと変化した。

「違うわ、私はアスカと言う名前じゃない」
「あっ、……ごめん」

レイに尋ねられたシンジは顔を赤くして謝った。

「アスカって、誰?」

レイが再び質問を繰り返すと、シンジは穏やかな笑顔を浮かべながら答える。

「気が強くて意地っ張りだけど、本当は面倒見の良い優しい子なんだよ」
「優しい? 碇君みたいに?」
「うん、きっとエヴァのパイロット同士、仲良くなれるはずだよ」

シンジは自信たっぷりにレイに断言した。
レイは本当に優しい笑顔を浮かべられるようになったし、アスカとの仲も自分で取り持つ事が出来ると思っていた。

「そうだ、諦めちゃダメだ。僕にはまだ守るべきものが残っているじゃないか」

シンジは力を込めて、レイの両手を握りしめた。


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