レスリング

2012.8.10 05:06

吉田、金!V3最強女王!決勝も炎のタックル(2/2ページ)

特集:
吉田沙保里
3連覇をはたし、日の丸を手に走る吉田沙保里=エクセル(撮影・鈴木健児)

3連覇をはたし、日の丸を手に走る吉田沙保里=エクセル(撮影・鈴木健児)【拡大】

 孤高の女王として、負けるわけにはいかなかった。5月のW杯で連勝を「58」で止められたジョロボワ(ロシア)に準決勝でリベンジ。天敵を退治した吉田に、恐れるものはなかった。決勝でも2-0で圧勝し、五輪で3度目の頂点に立った。

 「勝負の世界だから、負けもある。前(北京大会)と一緒で、五輪でがんばったらええんよ」

 W杯でよもやの敗戦を喫した直後、母・幸代さん(57)から励ましのメールが届いた。2008年1月の同大会で、連勝が「119」でストップしたことを踏まえての精神的なアドバイスだった。

 技術面では全日本コーチの父・栄勝(えいかつ)さん(60)が修復作業に乗り出した。吉田の持ち味は距離をとってからスピードを生かし、一気に間合いを詰めて腰下を狙う瞬殺タックル。三重・一志町(現津市)の自宅道場で、3歳のときから床が抜けるほど父娘で繰り返してきた得意技を思い出させた。

 開会式では日本選手団の旗手を務めた。日本レスリング協会の高田裕司専務理事(58)によると、本人の強い意向があったという。リスクもあった。本番の約2週間前から現地での調整を余儀なくされた。主将を任された陸上男子やり投げの村上幸史(32)=スズキ浜松AC=は、まさかの予選落ち。そんな重圧も乗り越えてのV3だった。

 日本選手団を背負う気持ちは、8年前からあった。五輪で初戴冠した04年アテネ大会の選手村で、柔道女子48キロ級を2連覇した谷亮子さん(36)の部屋を伊調馨とともに訪ねた。金メダルを見せてくれるように頼み、実物を目の前にして「これがほしい」と少女のように目を輝かせた。3連覇はあのYAWARAでさえ成し遂げられなかった偉業。国民的ヒロインの座を受け継いだ。

 初めてレスリングの試合に臨んだ4歳のとき。男の子に負け栄勝さんにメダルをせがんだ。「店には売っていない。努力した人しかもらえないんだ」。あれから25年。表彰台のテッペンで、父に諭された言葉の重みをかみしめた。

 五輪と世界選手権の優勝12回は、ロシアの英雄カレリンと同じ数。世界のスポーツ史に残る高みに、29歳にして立った。

(紙面から)