サンドイッチ! 〜シンジはアスカに3度恋をする〜
サード・インパクト! 〜恋が愛に変わる時〜


僕は碇シンジ。
外国の留学中の高校生。
僕は小学校の時担任だったミサト先生の知り合いだと言う加持さんの所に住まわせてもらっている。
外国での高校生活は思っていたより大変で友達も作れずにいた僕は、すっかり五月病になってしまった。
そんな僕を見た加持さんに、夏休みに一時帰国する事を勧められた。
僕は外国に留学してから数ヵ月、ほとんど母さんや父さん達と連絡をする事が無かった。
母さんには毎日メールをしろって言われていたけど、そうすると弱音ばかり吐いてしまいそうだったから止めた。
たまにやり取りするメールでも、僕の外国での学校生活に関する話ばかりで、アスカの事は一言も話さなかった。
僕は避けていたし、母さんや父さん達も避けていたのかもしれない。
でも、僕が外国に行ってしまったんだから、アスカは諦めてしまっているだろう。
 
日本の空港では父さんが僕を出迎えてくれた。
父さんはいつもにも増して無口だった。
車を運転して居る時も何もしゃべらなかった。
何か言いたそうにしているんだけど言えないみたいだった。
「シンジ……アスカ君の事なんだがな……」
家の前についてから、やっと父さんが喋った。
すると、僕の家の玄関から、赤い髪の女の子が飛び出してくるのが見えた。
……もしかして、あれはアスカ!?
まだ僕を追いかけてくるの?
「おい、待てどこに行くシンジ!」
父さんの制止を振り切って僕は駆けだして行った。
そして見つからないように近くの公園の土管の中に隠れる。
「何でアスカが家に居るんだよ!」
何回この言葉を繰り返したんだろうか。
お腹がとても空いて意識がもうろうとして来た。
そういえば、機内食を食べてから何も食べていない。
でも、僕は家に戻る気にはなれなかった。
ずぶ濡れになった体が震えている。
そろそろ、限界なのかな……。
公園の土管の中で意識を失った……。
 
「……ここは、僕の部屋?」
気がつくと、僕はベッドに寝かされていた。
しかも、見慣れた日本の自分の部屋だった。
僕は懐かしく思ったけど、なんで助かったのか疑問に思った。
僕が起き上がってぼうっとしていると、部屋のドアが開いた。
母さんか、それとも父さんかな。
僕はそう思いながらドアの方に目を向けた。
部屋に入ってきたのはアスカだった。
「……あ、アスカ!?」
僕は思わず飛び起きてしまった。
体中から冷汗が出るのを感じる。
「……ごめんなさい、シンジ……そんなに怖がらないで……」
そう言われてアスカを見た僕は、あの時ほどの恐怖を感じる事は無かった。
久しぶりに見たアスカは……とても弱々しかった。
アスカはまるで病人のように生気がなかった。
くしをまったく通していないボサボサの枝毛だらけの髪。
人生を諦めてしまったような暗い瞳と目の下に刻まれた深いくま。
ひび割れてカサカサになってしまった紫色の唇。
ただ適当に着ているといった感じの皺になった服装。
漂ってくる不潔感を感じさせるような匂い。
「アスカ……!? いったいどうしたの……?」
「ごめんなさい、シンジ……アタシ、シンジを苦しめてしまったのね……もう迷惑をかけないから……ただ一言会って謝りたかったの……」
頭を下げてうなだれて謝るアスカを前に、僕はしばらく何も言えずにいた。
「やっぱり、アタシは許してもらえないか。当然ね……」
僕が黙っていると、アスカは消え入るような声でつぶやいた。
「アタシ、もう二度とシンジの前に姿を現さないから……さよなら」
アスカはそう言って僕の部屋から出ようとする。
僕は嫌な予感がした。
ここでアスカを引き止めないと、アスカは思い余って何かしてしまいそうな気がする。
しかし、僕とアスカの距離は遠かった。
 
「……シンジが外国に言ってしまってから、アスカちゃんはずいぶん悩んでいたのよ」
タイミングを見計らったかのように母さんがアスカの前に立ち塞がって部屋に入ってきた。
「始めの頃は、シンジに会わせろって怒ったような感じで家に来ていたから、私達もシンジに会わせないようにしようと思っていたのよ。だから電話でもアスカちゃんのことは言わなかったの」
「……ごめんなさい、おばさま」
アスカはそう言ってうなだれた。
「でも、だんだんアスカちゃんも落ち込んだ感じになって……。おとなしく、家の前でお願いをするようになったから、少し前からアスカちゃんを家に入れてあげる事にしたのよ」
「だから父さん、ああだったんだ」
僕は父さんの煮え切れない態度の原因がわかった。
家にアスカが居るなんていったら、僕が帰れなかったと思うし。
「アスカちゃん、何事にも無気力で、キョウコも困っているのよ。食事も最低限の量を食べるだけで残してばっかりだし、女の子の身だしなみは何一つしようとしないし……」
僕は、元気だった頃のアスカの姿を思い浮かべると、今のアスカがとても残念に思えた。
「アスカ、僕はもうアスカから逃げないよ」
僕はアスカの腕をつかんでそう言った。
アスカはつかまれた腕を振り払おうとする。
でもその力は弱い。
満足に食事をとっていないからなのかな。
「嘘、シンジはアタシの事が嫌なんでしょう。あんなことしたから」
「ううん、僕はアスカにまた会えて嬉しいよ。……この気持ちは本当だから」
「なんで今更そんなこと、いうのよ……もうお別れしようと思ったのに、シンジと」
アスカはポロポロと涙を流し始めていた。
日本に帰ってきて初めて見たアスカの表情だった。
泣いているのに、僕には笑顔に見えた。
嬉しいのに泣いている。
僕は自分でも恥ずかしいと思いながらも言わずにはいられなかった。
「アスカ、笑ってよ。せっかく帰って来たんだからアスカの笑顔を見たいんだ」
アスカは黙って笑顔を見せてくれた。
アスカの笑顔はきれいとは言えなかったけど、僕はいい笑顔だと思った。
鼻水が垂れだす鼻。
ひび割れた唇。
ぼさぼさの髪。
腫れぼったい目とくま。
そんな欠点なんか気にならなかった。
僕は、母さんの見ている前だったけど、自分がアスカの事を好きだって精一杯訴えるためにアスカの唇に自分の唇を重ねた。
久しぶりに感じるアスカの唇はゴツゴツしてパサパサしていた。
ごめんね、アスカ。
原因は僕にもあるよね。
口を離すと、アスカはしばらく赤い顔でボーっとしていた。
「シンジにこんなみじめなアタシの姿見せちゃった。もっと綺麗な格好で会いたかったのに、恥ずかしい……」
アスカはそう言って僕に背を向けてしまった。
母さんはそんなアスカを見てとてもうれしそうだった。
「そうよ、女の子はまずは身だしなみからよ! ゆっくりとお風呂で体を洗っていらっしゃい、貸してあげるから」
「綺麗になって戻ってくるから、待っててね、シンジ!」
母さんにうながされてアスカは部屋を出て行った。
しばらくしてお風呂場からアスカの楽しそうな歌声が聞こえる。
さっきまで病人のような態度を取っていたとはとても思えない。
アスカを送りだして、部屋に戻ってきた母さんは僕に真剣な顔をして問いかける。
「シンジ。アスカちゃんをあんな風にしちゃって……もう一度付き合うことになってもいいのね?」
「うん。僕はアスカがやっぱり好きなんだ」
僕のせいで夕食は遅い時間になったみたいだけど、夕食の席でもアスカはとても明るかった。
「おばさま、ご飯のお代わり、いいですか?」
アスカは食事もおいしそうに食べていた。
人間の心ってここまで単純なのかな。
僕はおかしくて笑いそうになった。
僕の海外留学の話になって、外国の学校で親切にしてくれた女の子の話をしてしまったんだけど、アスカはヤキモチを焼かずに聞いていた。
アスカは僕を独占したがるんじゃなくて、信じて側に居てくれる、そんな感じがした。
お互い落ち着いて大人になったと言うか……。
 
次の日の朝、アスカは悲しそうな顔で僕に語りかけて来た。
「シンジ、せっかく会えたのにまた外国に行っちゃうんだよね」
「うん。その事なんだけど……」
僕もアスカと離れたくない気持ちは一緒だった。
それに友達が居ない外国で上手く学校生活が送れるかどうか不安になり始めた頃だった。
元々そんなに外国の学校に行きたい思ったわけじゃないし。
僕は日本でアスカと同じ高校に通うと言う選択をした。
外国の学校の方ではそんな不真面目な留学生は困ると言って怒られたみたいだけど、父さんと母さんは僕の事を叱りはしなかった。
ただ、日本の高校は真面目に通うようにと注意はされたけどね。
アスカの進学した高校は僕たちの地元の生徒が通う人気の高校の一つだったみたいで、同じ学校に通うレイや洞木さん、トウジやケンスケはアスカの『変身』を見てとっても驚いたようだ。
新学期になって、今まで世捨て人のようだったアスカがサラサラの金髪をたなびかせて、すっかり血色が良くなった顔、活き活きとした瞳で、元気いっぱいに朝のあいさつをしてくるのだから。
レイ達はアスカ変身の原因が何なのか非常に不思議がったけど、遅れてやってきた僕の姿を見て理由がわかったようだ。
アスカは胸を張って、
「アタシはシンジのおかげで綺麗になれたのよ」
とアスカは恥ずかしい事を言ってのける。
アスカのことを心配したレイや洞木さん、トウジやケンスケがいくら説得してもアスカは無気力生活のままだったみたい。
アスカは遅れた高校生活を取り戻すかのようにパワフルだった。
僕とアスカは毎日相当にラブラブでのろけているみたい。
レイも全く入り込む余地が無いって、ちょっと悔しそうに言っていた。
もしこれからアスカと別れることがあっても、また僕はアスカを好きになれる自信がある。
 
 

僕がアスカを好きだって気持ちは【三度一致】したのだから。

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