サンドイッチ! 〜シンジはアスカに3度恋をする〜
ファースト・インパクト! 〜幼き日の太陽〜


僕は碇シンジ、10歳。どこにでもいる小学校3年生だ。
今日、母さんと、父さんの仕事の都合で、第三新東京市に引っ越してきたんだ。
僕は一学期から第壱小学校に転校することになっていた。
「碇シンジです。趣味は特にありません」
お父さんは僕のしつけに厳しくて、僕はいつもいい子でいるようにさせられた。
自分でも面白くない、真面目っぽい子だと思う。
自己紹介はとても簡潔だった。
クラスのみんなも無反応に思えた。
転校初日にこんなつまんない僕に声をかけて来るクラスメートも居なかった。
これからクラスのみんなと仲良くやっていけるのかな……。
僕は友達と楽しそうにしているみんなを羨ましく思いながら、寂しく一人で教室を出た。
 
家へ帰る道で下の方を向きながら歩いていると、目の前を歩いていた、赤いランドセルを背負った女の子が突然振り返って、
「さようなら!」
と、僕に向かってとっても明るい笑顔で言ったんだ。
驚いて何も言い返せないでいるうちに、その子は遠くまで走って行ってしまった。
僕はその子の事を覚えていなかった。
クラスの子とも話した覚えもないんだもの。
でも、僕は「さようなら」と言われた時の事がとても嬉しくてたまらなかった。
僕は嬉しくて、帰ったらお母さんにそのことを話したら、
「よかったわね」
と言って頭をなでてくれた。
 
次の日、僕が学校に行くと、その子は僕のクラスメートだということが分かった。
名前はアスカちゃん。
僕は声を掛ける勇気が出なくて、自分の席で、楽しそうに友達と話している彼女をながめることしかできなかった。
せめて、彼女と近くの席になれたらなあ……。
今日は、前よりはクラスの子と話す機会は増えたけど、一緒に帰れるような友達は出来なかった。
でも、昨日よりみんなとの距離が縮まった気がするんだ。
 
そして授業が終わって、僕が家に帰る時間がやってきた。
僕は昨日と同じように一人だ。
だけど、昨日とは違ってそれは僕が望んだことだ。
今日はわざとアスカちゃんの後ろになるようにタイミングを図って教室を出た。
僕のノミのような心臓が高鳴っているのを感じる。
今歩いている道は僕の家からの通学路の中でもとても狭い道。
自転車何かとても通れないような、大人の人一人が苦労してなんとか通れるぐらいの細い道。
いよいよ、僕とアスカちゃんの帰り道が分かれる所までやって来た。
僕は緊張で吐き気を感じてしまうほどだったけど、勇気を振り絞って、声を出した。
「さ、さようなら!」
するとアスカちゃんは振り返って、ほんの少しの間その青い目を丸くしていたけど、すぐに笑顔になって、
「うん、さようなら!」
と答えてくれたんだ。
嬉しさと恥ずかしさで僕の顔はとても赤くなっていたんだと自分でもわかった。
 
その次の日から、僕にも同じクラスで友達ができた。
サッカーに誘ってくれたトウジと、その友達のケンスケだ。
トウジはクラス委員長のヒカリちゃんと知り合いで、ヒカリちゃんはアスカちゃんと友達だったから、僕は自然に友達としてアスカちゃんと話ができるようになっていた。
でも、アスカちゃんと話すときは顔が赤くなってしまうけどね。
転校した初日に、なんでアスカちゃんは僕にさようならって言ってくれたのか気にはなったけど、聞けなかった。
……わざわざ聞くことじゃないしね。
 
ただ、困ったことに、僕のどこがいいのか、レイちゃんという女の子が親しげに声をかけて来るようになった。
掃除の時も、僕の後ろをついて回るし、果てには僕の家にまでやってくるようになって、クラスのみんなに冷やかされるようになった。
アスカちゃんは、どう思ってるんだろう。
僕はアスカちゃんにレイちゃんと恋人同士だと誤解されていないように祈るだけだった。
 
僕の母さんとアスカちゃんの母さんのキョウコさんは、同じ学者と言う職業で、引っ越してからは同じ職場になった事もあってか、親しくなっていた。
母さんとキョウコさんと僕とアスカちゃんの四人で遊園地に行ったりもした。
……これって親公認のデート、ってことかな。
僕はドキドキしているんだけど、アスカちゃんはいつものように元気に乗り物に乗ってはしゃぎ声を上げている。
アスカちゃんは僕の事をただの友達だと思っているのかな……。
 
そして学校での席替えの時。
担任のミサト先生が、
「側に座りたい人の名前を紙に書いて先生に渡してね♪ そうすれば隣に座らせてあげるわよ」
と言った時、僕はチャンスだと思った。
書けば先生に思い切り好きな人の名前がばれてしまう……。
でも……、僕はやっぱりアスカちゃんの隣の席に座りたい!
僕は思い切って紙に『惣流アスカ』と書いて震える指で先生に渡したんだ。
……そして僕はアスカちゃんと隣の席になることができた。
きっとミサト先生にはからかわれることになるんだろうな。
でも、ミサト先生、ありがとうございます!
僕はとっても幸せです!
教壇に座ってるミサト先生も、僕の事を温かい目で見守ってくれている気がする。
でも、授業中アスカちゃんが隣の席に居るだけで舞い上がってしまっている僕は、勉強どころじゃ無かった。
特に、僕が教科書を忘れてしまって、アスカちゃんに見せてもらっている時は、ドキドキしちゃって教科書なんか全然見てなかった。
国語の授業中にミサト先生に指されても、
「すいません、続きをどこから読んでいいのか聞いてませんでした」
と謝らなくてはいけなかった。
算数のテストも30点と最悪の結果だった。
「シンジ君、アスカちゃんにホの字なのはわかるけど、頑張ってね♪」
僕はミサト先生にそう声をかけられて、真っ赤になってしまった。
その頃の僕は学校が楽しくてたまらなかった。
日曜日なんて来なくてもいい!
だって、学校ならアスカちゃんの側に居られるから。
やっぱり恥ずかしくて、アスカちゃんを遊びに誘うなんて出来なかったから。
ヒカリちゃんが居てくれる時はいいんだけどね。
 
そしてやってきた遠足の日。
クラスの男子と女子は列になって整列する。
「それじゃあ、男の子と女の子はペアになって手を繋いでね♪」
ミサト先生がそう言うと、ちらほらとクラスの子が手を繋ぎ始める。
僕は素早くアスカちゃんに近づいて手を差し出すと、アスカちゃんは何のためらいもなく僕の手を握ってくれた。
は、恥ずかしいけど、嬉しい。
あ、アスカちゃんも僕の事を好きだと思ってくれているのかな。
僕は期待してしまった。
……でも、それはやっぱり違ったみたいだ。
「惣流ってさ、昔から男子とも平気で遊ぶよな」
ケンスケがぽつりともらした言葉を聞いて、僕はショックを受けた。
そうだったんだ。
そういう子だったんだ。
アスカちゃんにとって僕はただの仲のいい友達だったんだよね。
いいんだ、それでも僕は明るいアスカちゃんが好きなんだから。
 
……でも、楽しい日々はそう長くは続かなかった。
アスカちゃんの父さんの仕事の都合で、二学期の終わりにアスカちゃんが転校することになってしまったんだ。
僕はクラスのお別れ会で泣きながらアスカちゃんと握手をするだけしかできなかった。
アスカちゃんにきちんと好きだって伝える事も出来なかったし、アスカちゃんが僕をどう思っているのか聞くこともできなかった。
 
……アスカちゃんが引っ越していく日。
最後のお別れをしようと僕はアスカちゃんと待ち合わせた公園に母さんと一緒に向かったけど、来たのはキョウコさん一人だった。
アスカちゃんは風邪がひどくなって来られないという。
……やっぱり僕の片思いだったんだ。
さようなら、僕の初恋。
すぐに転校先のアスカちゃんから葉書が来た。
「私は元気です。シンジ君は元気ですか、さようなら」
とても短い文面。
僕は返事を出さなかった。
母さんには怒られたけど。
それきり葉書は来なくなった。
 
アスカが転校してから、僕はトウジとケンスケ、レイとヒカリさんと平凡だけど楽しい学校生活を送っていた。
特に僕はレイとカップルにみられることも多くなっていた。
そして仲良く地元の市立第壱中学校に進学。
アスカは寂しい僕の心を照らしてくれた優しい太陽のような明るい女の子。
……僕の方が一方的にアスカの事が好きだっただけ。
僕はそう思い込む事にしたけど、それは大きな間違いだった。
 

それは4年後、僕が14歳の時、アスカがこの街に還って来た時に身を持って思い知ることになったんだ……。
包丁を握りしめた彼女の姿を思い出すと、今でも身震いがする。


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