ライのアトリエ ザールブルグの錬金術師 (穢れ無き熾光の聖剣)
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第04話

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 試験から数日後、いつものように教会の裏にある井戸の近くでシスターの1人と洗濯物を揉み洗いしていた。修道服というのがこれまた長い面積を使ってるから洗濯に時間がかかるんだよ。特に神父服とか洗濯方法がバラバラなせいで時間が掛かる事掛かる事。オレ1人だったら虐めかと思ってしまうね。
 エレインさん(一緒に洗濯しているシスターさん・32歳独身ww)に挨拶をして先に孤児院に戻る。

「ところで今私の年齢を笑わなかった?」
「イ、イエ。笑ッテナイDEATH」

 カ、カタコトになったのは気のせいとしてもらおう!!
 とか思って教会の裏から出ると、偶然手紙配達の人とかち合った。手には教会宛てであろう手紙がこんもりしている。

「教会の者です。教会へのお手紙を受け取りますよ」

 もはや慣れたもので営業?スマイルを浮かべて、教会宛ての手紙を受け取る。
 えっと、召集会のお知らせに……またシスター長のラブレター、ンでもって教会の姿勢の再公布。相変わらずマメだな。ついでにサールブルグ教会への給金のお知らせか。
 ほかにも教会関係の手紙を見ていると、不意に上質な紙の封筒に入った手紙を見つけた。教会では使わない代物なので、こういった時は大抵重要な地位にいる特定個人から贈られることが多い。うちの教会だとシスター長がメインだな。あて先は~~……オレ?
 よく見ると手紙の封にアカデミーの紋章が押されている。その場で手紙の封を破り、中に入っている紙の一番上を見開いた。
 アカデミーの紋章の透かしが入った、アカデミー専用の紙には合格のご案内の文字が書かれてある。一度目を瞑り、深呼吸をして再び紙を見ても文字は変わらない。

「うっわ~、あんな結果でよくぞ合格したよ。1問でも間違ったら不合格だったし、かなりアカデミーを馬鹿にしたような状態だったからな~」

 しかも次の紙を見ると、オレの希望通り特別生になっていた。

「ホライゾン、いったいどうしたの?」
「アカデミーに合格した」

 オレの呆れてる雰囲気を感じ取って話し掛けて来たミルカッセに合格の書かれた紙を見せる。

「……そう、ホライゾン合格したのね」

 話しかけ辛いほど哀愁を漂わせてミルカッセがつぶやく。
 いや~、敬虔なのも困りもんだな~。

「オレはアルテナ様の言葉を忘れるわけじゃない。オレ達に優しくしてくれた街に恩返しをしたんだ」

 本当は純粋に錬金術師になりたいだけなんだけど、そんなことを言ったらミルカッセにまた泣かれてしまうので自重。いや、実際ミルカッセってかなりの美少女ですから目の前で泣かれるのって精神的にもかなり辛いよ。まァ街に恩返しをしたいという思いは無きにしも非ずだから、あながち間違いではないか。
 シスター服と一緒なっている頭巾の上からミルカッセの頭をなでる。

「ま、特別(アトリエ)生だから時間に融通は聞くし、たまに帰ってくるよ。それまで孤児院のみんなをよろしく」
「……わかったわ」

 そのあと、孤児院のチビーズの世話をして体力を3割ほど削られ、余った時間を使って森で拾ってきたきのみを料理する。孤児院だから合格祝いのパーティーを開く余裕がないのだ。まァ今日はちょっと奮発して塩・胡椒で味付けした。ミルカッセの誕生日にやってから久しぶりだから、子供達は喜んで食べてくれる。いつも思うけど、作ったもので喜んでくれるって言うのは錬金術関係無しに嬉しいな。




 合格通知をもらってからはや2ヶ月。ついに今日がアカデミーの入学式となった。
 その間にアトリエに移る事はすべて終わらせ、錬金服や錬金術の基礎道具一式もちゃんと届いた。ついでにシスターの人達から貰った餞別の銀貨で武器も新調した。錬金術に使う素材に関しても、アルセウスに手伝ってもらって足を伸ばし、色々な素材をアトリエの中に持ち込ませてもらった。まァ孤児院の子の心獣、ドリューズに手伝ってもらって地下を6部屋ほど作ったのはやりすぎ感が否めないけど。
 とまァそれはさておき、オレは銀貨1500枚出して買わざるをえなかった錬金服にようやく袖を通す。普通の人の月収が100枚ということから、どれほど大金なのかは察して欲しい。普通そんな高級品着れないよね。
 錬金服はかなりアレンジが効いてて、動き易さを重視したゆったりめのハーフトレーナーとハーフパンツで、派手さをかなり押さえた淡い空色になっている。この世界で派手さは裕福の象徴だからな。まァそんなわけで孤児院からということも合って錬金服は500枚減額されている。錬金服の実際の金額は2000枚だ。

 講堂のような広い場所で、オレは他の新入生と一緒にドルニエ校長の話を聞いていた。
 コレがまた充分すぎるほどに長くて、『どんなに世界を超えようとも偉い人の話は長話なんだ』と改めて思い知らされた。ついでにエリーを含めかなりの数の新入生が眠っている。
 ……もしかして、ドルニエ校長の話には催眠術みたいに状態異常『ねむり』が存在するのだろうか。

 その後も色々とあり、授業方法についても説明された。
 まず、寮生・アトリエ生関係無しに単位制で進め、進級させていくということ。特に寮生は必修単位があるらしいから、その単位は確実に取らなくちゃいけない。真面目に授業に出て勉強していれば比較的簡単だから授業に出ることはオススメするらしい。ここら辺は大学の体制と変わりない。
 一方でアトリエ生は必修単位が存在しない変わり、1年に数回自分で作った道具を見せるらしい。規定のレベルに達していれば1つが単位となり、進級できる4単位を取れなかったら退学という厳しい制度だった。まァこっちも普通にやれば合格だから誰もが真剣にやるだろ。
 他にも、寮生・アトリエ生混合の試験が年に1度存在し、それで順位が決まると同時に上位者には単位が付与される。そして上級生になった時、順位によっては上位クラスのマイスタークラスに進学可能だそうだ。
 ちなみにマイスタークラスには選ばれない年もあり、実質エリートだけが進める上位クラスというわけだ。

「それでは奨学金や就学支援金を申し込んだ生徒は、入学式が終わった後にそちらのオディナ先生に集まってください」

 イングリド先生の言葉に答えるように助教授の女性の先生が手を上げた。
 そして最後の注意事項を言い終えたあと、入学式が終了してオレはオディナ先生の元へ近付いた。しばらくの間オディナ先生は動かずに集まった生徒の数を数え、大体揃った頃に移動を始めた。まァお金が関係することなんだし、ここでは話しづらいだろうな。
 移動先は意外とすぐ近くの部屋で、30人くらいは座れるスペースだ。

「さて。合格発表の後奨学金を申し込まれた生徒は、4年間の納付が猶予されます。4年後から払い始めて、4年以内に完済していただければ利子はありません。しかしそれを過ぎるものならば金額と年月に応じて利子が取られますから注意してください」

 錬金術アカデミーの授業料は年に1000枚。アカデミーは4年間あるから授業料は合計4000枚となる。
 一応都市であるザールブルグでも月収200枚程度だから、一般市民の月収ではとても払える余裕がない。だから授業料を払えない人も多いので、アカデミーでは奨学金制度があり、在学中は授業料を払うかは自由で、アカデミーを卒業してから授業料を払っていくこととなる。
 4000枚なんて高額かもしれないが、錬金術はうまくやれば年間で10000枚稼ぐことも出来る。オレが知ってる中で最高年収は36000枚だ。この記録を出した奴はマジで頭がイってると感じた時だったな。……ってくだらん事は思い出さなくて良いから。
 在学中に色々と依頼を受けてお金を貯め、卒業と同時に完済してしまう人も数多くいる。高い授業料でもそれに見合うだけの知識は得られるから、知識を充分に使えば問題ないのだ。

「成績優秀者でマイスタークラスに進まれた生徒は授業料免除になりますから、返済の生計を立てるよりマイスタークラスを目指された方がいいでしょうね」

 あの~、オレとしては返済の生計の方が手っ取り早いと思うのですが~。成績上げるのには時間がかかるし。
 と、心の中でくだらないツッコミをいれ、コレがアカデミーのやり方なのだろうかと疑問に思ってしまう。とりあえず奨学金に関しては忘れて就学支援金だ。
 就学支援金とは工房を開くにあたって用意されるお金だ。
 アカデミーにはそれなりに器材が置かれているのだが、アトリエには基本的な調合道具しか用意されていない。同時にアカデミーが持っている参考書なども優先閲覧権は寮生にあるから、アトリエ生には見る機会が限りなく少ない。
 ならばどうすれば良いかと言うと自費で参考書を購入するしかないのだ。自費で購入して、調合できる品を増やしていく。
 ついでに寮生には調合できる品がある程度支給され、採取に行く必要がないのに対し、アトリエ生は自分で取ってくるしか調合品を用意する方法がない。一応裏技があるのだが、それでも最低限の採取は必要になる。
 つまり大幅な自由が出来る代償に、設備の拡張やレシピの充実などは自分のすべての力でやらなければならない。
 元手がない状態では最低限の参考書も生活もままならないので、最初にある程度の資金を貸与して授業を円滑に受けれるようにする。そのためのお金が就学支援金なのだ。
 その金額は卒業から5年以内に返済し、マイスターになっても免除されることはない文字通り借金だ。

「そして就学支援金はこの場で渡します。基本的に最高額の銀貨4000枚を渡しますが、以下の金額を望む場合は名前と望む金額を言ってください。名前と言うと引き換えにお金を受け取るように」

 みんなが我先にと名前と金額を言い、お金を受け取る。その中にはトラウム姉妹の姿もあった。
 オレは全員が終わるのも見計らって――――

「ホライゾン・アリアダスト、銀貨4000枚でお願いします」

 とオディナ先生に告げた。オディナ先生は名簿らしき紙に線を引くとずっしりとお金が詰まった袋を手渡してくれる。口を持つようにして掴み、オディナ先生に1つ質問した。

「今日はアカデミーの売店って開いてますか?」
「えぇ、今日は新入生の為に特別に開けていますよ」

 嬉しい返答にオディナ先生にお礼を告げて、急いで売店に向かう。4000枚なんて大金、孤児院育ちのオレには馴染みがないのでさっさと手元から消しておきたいのだ。

 売店に着くとアトリエ生が参考書のコーナーに群がっていた。参考書に全額つぎ込みそうな馬鹿もいて、かなり呆れてくる。
 あいつ等には参考書だけ買っても調合器材がないと調合できないという知識はないのだろうか。
 参考書のコーナーの人数に呆れて後に回すことに決め、先に調合器材を買う事にした。売店を手伝っていた女生徒の1人に調合器材の注文を頼む。

「籠とろ過器、それとランプをください」
「へぇ、新入生で籠を欲しがるなんて珍しいね」
「そうですか? 籠を使えば一気に持って帰れる量が増えるのは分かるので、逆に人気があると思うんですが」
「ところが買わない人が多いんだよ。みんな採取を甘く見てるみたいだよ」
「いや~、さすがにそれは無いでしょ。採取って往復に時間がかかるんだから1回で量を増やさないと効率悪いの目に見えてるし」

 外に出る者なら採取の難易度は…………やばい、知らないかもな。オレがいたからミルカッセも採取の難易度を知っていたんだし。
 などと女生徒と会話していると、いつのまにか売店にいたアトリエ生が眼を光らせて籠の方を向いていた。
 どうやら全員籠の認識が甘かったみたいだ。冗談で手を叩いた瞬間、パンと言う音を合図に我先にと籠に殺到し始めた。予想を超える勢いに思わず脱力して、とりあえずその女生徒に代金を渡して調合器材を貰う。
 とりあえず参考書のコーナーにいた人物は少なくなったので、目的の参考書を購入することにした。

「中等錬金術講座と高等錬金術講座をください」
「はい、どうぞ」

 売店のカウンターにいたルイーゼがオレに参考書を渡してくれる。
 銀貨を渡してお釣りを受け取ると、なにやら見慣れぬ金貨を見つけた。これってアレだよな……。

「スミマセン、おつり間違ってますよ」
「あら、人が多いから間違えたわ。ありがとう!」

 ルイーゼにシグザール金貨を渡した。
 シグザール金貨を売ると銀貨1000枚の高額だから、持ってるだけで武者震いしてくる。孤児院育ちだからお金が欲しくても盗む事はしないので、正直に話した。それに、ルイーゼと仲良くなれば参考書をもらえるんだよ。
 序盤は銀貨1000枚でも大金だからな、高額器材をしっかり買えるし。

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