2012-08-09
『おおかみこどもの雨と雪』根底に流れる絶望について
ちょう久々にネットに接続。
ついでに最近見て色々考えてしまった映画の感想を書きます。前回「次の更新は来年」とか書いたくせにねー。
以下、ネタバレあり。
わりと無粋なこと書きます。だから「そーゆー見方もあるのね」くらいで読んでつかーさい。
シングルマザーの主人公・花が、二人の "おおかみこども" を育てるお話し。
本作の装いは「現代のおとぎ話」だけど、描かれている内容は普遍的です。
花が経験する不安や苦労は、別に "おおかみこども" の親でなくても、シングルマザーでなくても、親になればだれでも経験しうる子育ての日常です。その描写に私は深く感情移入したし、鑑賞中、涙腺が緩む場面も何カ所もありました。
また、中盤以降、田舎の共同体での生活を魅力的に描きつつも、安易に自然や田舎を賛美してないのも良かったです。ときどき紛れ込む田舎の子どもたちの無邪気な残酷さとかゾクッとする場面も結構ありました。クライマックスの災害(?)も、人間の自然破壊が原因とかでなく、自然が降らせた大雨でした。この映画の描く自然は優しくないのです。*1
優しくない環境の中で、文字通り地に足をつけ、居場所を作る。子どものためにその環境を選び、それなのに、いざ子どもが自分の世界を発見して親離れするときは、やはり戸惑ってしまう。そんな、人の営みを柔らかく確かに描いています。
てなわけで、私はこの映画は良い映画だと思います。それは間違いない。感動もしました。
でも、この映画が、普遍的なものを描いているという部分をよく考えてみると、私は「良い話」とは思えなくなってしまうのです。
本作は「自分の意志では制御しきれない強い個性を持って生まれた子どもとその親」の話です。
そして、この作品世界では「 "おおかみこども" がそのまま社会に受け入れられる」という可能性は最初からオミットされています。
そこにあるのは「私たちの社会は自分たちと違う者をきっと排斥する」という確信と、「当事者は排斥されることを内面化する」という事実です。
冒頭、花と "おおかみおとこ" との馴れ初めで、 "おおかみおとこ" の秘密は他人はおろか親以外の親戚に対しても隠されていたと語られます。隠さなければならない理由はわざわざ詳述されず、 "おおかみおとこ" であることは、かなり自明性の強いタブーとなっています。
中盤、花は子どもを「ちゃんと育てる」ために豊かな自然のある田舎に引っ越します。それは、子どもが将来 "人" か "オオカミ" か選べるようにです。この二者択一が自立だとこの物語は示しています。"おおかみこども" であることを尊重されて社会に受け入れられるという選択肢はないのです。
この作品では「あなたのすてきな個性をどうして隠さなきゃいけないの?」という疑問は一切描かれません。「"おおかみこども" であることをどうやって受け入れるか」という葛藤は徹頭徹尾個人の実存の問題として処理されます。社会は問う気にもならないほど冷たい壁なのです。
私は、どうしても「それでいいの?」と思ってしまいます。
なぜなら、私たちの社会には "おおかみこども" のような強い個性を持つ子どもたちが本当にいるからです。たとえば発達障碍をもって生まれた子どもたちです。
強引に解釈すれば、雪はADHDの子どもの、雨は高機能自閉症の子どもの性質をデフォルメしてるように見えなくもないです(考えすぎだとは思うけど)。
結末では、雨はオオカミとして山の中で、雪は人間として町で生きるという選択が示されます。
つまり、社会で生きづらい個性を持った者は、隔離された場所で生きるか、個性を隠して生きるか、しかないということです。個性を尊重されて生きていくという道がないのです。
「これは、そういうお話し。社会がどうとかじゃなく、個人の葛藤と変化を描いてる。花、雨、雪、誰の選択も間違ってない」という意見はもっともでしょう。私もそう思うから感動しました。
でも、だからといって、この映画が自明の前提としている絶望がぬぐえるわけではありません。
登場人物はほとんどが善人です*2。しかし、その善人さえ信じることができないのです。
映画の前半で、花は児童相談所からの支援を自分で拒絶します。田舎で周りの人々と良好な関係が築けたあとでも、雨と雪が "おおかみこども" であることは打ち明けません。特に雪は学校で人と交わる中で「普通と大きく違う個性は良くない」という倫理を強く内面化してゆきます。
クライマックスでそんな雪が意を決して草平に秘密を打ち明けますが、このシーンが感動的なのは「草平だから」雪を理解してくれたという、特別性ゆえでしょう。裏を返せば他の人はきっと違うということ。
この作品世界には善意があふれているように見えます。しかし、その根底には、花や草平のような「特別な善人」は "おおかみこども" を受け入れるが、それ以外の「普通の善人」はそれを知れば排斥する(に違いない)という人間社会への絶望が脈々と流れているのです。
(むろん、だからといってこの映画が駄目だという話ではないですよ。私はフィクションが必ず社会的な正しさを描くべきとは思いません。念の為)
これはたぶん私たちも自明の前提としてしまう絶望です。
「強い個性はきっと排斥される」「相手が善人でも秘密を打ち明けたらきっと痛い目を見る」といった確信、望みのなさは、なんの説明もなくフィクションの中に描かれても、成立するくらいリアリティがあります。
でもね、私はこの絶望は疑う価値があると思っています。
この映画は、スクリーンの中の世界としてきわめて高い完成度で閉じているけれど。
スクリーンの外の広い世界には "おおかみこども" が尊重され生きてゆける場所があってしかるべきでしょう。
以下、さらに無粋になります。
でね、私はこの劇中の "おおかみこども" たちって、本当は存在がバレた方が生きやすくなると思うんですね。
"おおかみこども" が生きやすいのはたぶん田舎でなくて都会です。八王子とか筑波とかの、近くに緑がある学園都市がベスト。そういう場所で存在を公にして、研究者や専門家に支援を仰ぐのです。秘密を隠すのではなく、理性の光をあてるわけです。
私は "おおかみこども" のような特殊な存在を本当に理解して尊重するのが、理性の力だと思います。
「研究者に存在がばれると酷い目にあう」みたいなありがちな危惧は、偏見からくる誤解でしょう。一般的に研究者には研究対象に愛情を注ぐ習性があります。まして雨と雪のような子なら必ず研究者に愛されることでしょう。
殺されたり非人道的な実験の対象になることはまずないでしょうし、理性的な人々は "おおかみこども" の個性を尊重し、人権を守るべきだと主張するはずです。
映画を観る限り "おおかみこども" はイヌ科の動物ではなく、ヒトの亜種か近縁種だと思われます。これは "おおかみおとこ" が花と交配して子孫を残せた点から明らかです。彼はオオカミとヒトとの一代限りの混血ではなく、染色体の数や配列もヒトとほとんど変わらないことになります。
ヒトとの交配が可能で、ヒトと同じ感情を備え、言語によるコミュニケーションが可能な存在が、オオカミに変身できるからといって、個性や人権が尊重されないという判断にはならないでしょう。"おおかみこども" が排斥されなきゃならない合理的な理由もなにもない。この映画が自明の前提としてる人間への絶望には、理性で対抗できるのです。
て、こんなこといったら、「話にならない」のは分かってますけども。
まあそんなことを、ぐるぐる思ったのでした。思っちゃったんだからしょうがないよね。
ブログもツイッタも開店休業中ですが、数ヶ月に一度のペースくらいで気が向いた時にまた更新しようと思います。それでは。
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