広島・長崎の「黒い雨」は、福島の「黒い雨」に直結する問題だ
2012.08.09 13:00:00 記者 : 夕刊ガジェット通信 カテゴリー : 政治・経済・社会 タグ : 夕刊ガジェット通信
広島に原子爆弾が投下されてから67年。1945年8月6日の直後、被爆地の周辺に降った雨は、「黒い雨」と呼ばれる。原爆が炸裂したことにより、発生したほこりなどが空気中に舞い上がり、それらは降雨とともに地上に落ちてくる。その雨の色は黒く、放射性物質が含まれている。だから、「黒い雨」なのである。
いまさらながら、この「黒い雨」が注目されている。NHKは2012年8月6日にNHKスペシャル『黒い雨~活かされなかった被爆調査』を放映。戦後、アメリカが「放射線の人体への影響を科学的に明らかにする」ために作ったABCCという機関(現在の放射線影響研究所)により、「1万3千人もの人」が「黒い雨」の影響を受けていることを示す分布地図が保管されていたのである。
さらに、その分布図に基づいた「黒い雨」による二次被爆を指摘する研究者がABCCにいたにもかかわらず、原子力の戦争利用と平和利用を同時に推進していたアメリカの国策により、その指摘がもみ消されていたことを番組は明らかにする。その研究者がしっかりと調査・研究を進めていれば、「黒い雨」と被爆との関係が科学的に立証された可能性があった。
一方、毎日新聞は8月7日の「記者の目」で「『黒い雨』 被害者切り捨て」という記事を掲載している。1976年に指定された現状の「擁護対象区域」は狭すぎることから、「黒い雨」で被爆した可能性のある人々や広島市が、2010年から政府にその見直しを求めていた。だが、7月に厚生労働省の有識者検討会は「あまたある証言を無視して黒い雨の援護対象区域拡大を否定」し、「政府もそれを追認した」のであった。
同検討会は「科学的、合理的根拠がない」ことを区域の拡大が不要とする根拠にしているわけだが、実は「科学的根拠になりうるデータは存在しているじゃないか。どうする、政府?」というのがNHKが番組を通して行った主張である。
一般的に、放射線による被害の科学的な根拠を一般の人々が提示するのは無理な話だと言える。なぜ被爆したのか、なぜ「黒い雨」が降ったのか、という問題を突き詰めていけば、その理由を解明し、対策を講じるべき者は一般の人々ではなく、アメリカ政府や日本政府にあることは自明のことだと言えよう。
この「黒い雨」の問題は、現在進行形のものでもある。福島第1原発で爆発事故が起きた数日後、原発の周辺で雨が降っている。広島での「黒い雨」の経験から言えることは、原発事故の直後に福島周辺で降った「黒い雨」についても、科学的根拠を盾にして、政府は責任逃れをする可能性が高いと言うことだ。
放射線による被害は甚大かつ深刻なものとなることを、私たちは広島・長崎の原爆によって知った。その放射線は、目に見えない。なおかつ、健康被害は放射線を浴びた直後ではなく、タイムラグがあった上で生じる。この「見えない」ことと「タイムラグ」の発生は、事故を起こした当事者にとって都合のよい責任逃れの口実になりうる。
NHKの番組に出演していた「黒い雨」の被害者だと考えられる人は、とにかく「黒い雨」が降った時の様子やその後の行動形態を、克明に記録することが重要だと訴えていた。被害者の個々が科学的根拠を示すことなど不可能だが、専門家が被害の実態を明らかにした際、その記録によって自らが受けた被害を証明できる可能性がある。
放射能被害という国家レベルの「公害」に遭遇しても、最終的に「自分の身を守るのは自分しかいない」ということなのであろうか。いずれにしても、放射線による被害を考えるときに、「見えない」と「タイムラグ」という二つのキーワードは、覚えておく必要がありそうだ。
都合の悪いことを隠し続けた上で発生した原発事故。原爆の教訓を活かさず、被害をなるべく少ないものに見せかけようとする政府。放射線の健康被害に関する科学的根拠を無理矢理もとめられる人々の存在。放っておけば、広島・長崎の「黒い雨」と同じことは、福島でも起きる。悲しい国で暮らしているんだなあ、とつくづく思う。
(谷川 茂)
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