チルドレンのためのエヴァンゲリオン 〜いつか、心、開いて〜
第二十五話 AirForceOne/託される未来
<ネルフドイツ支部 会議室>
ネルフドイツ支部の会議室では、ゼーレの会議が開かれていた。
「約束の時が来た」
キールがそう告げると、それまでざわついていた会議室は静まり返り、緊迫した空気が流れる。
「我らの願いを妨げる使徒は全て倒された」
「しかし、我らの中に裏切り者が居る」
「碇ゲンドウは補完計画を我が物にしようとしている」
「手を打たねばならん」
ゼーレの議員が口々にそう述べる。
「ゲンドウとネルフに死を! そして、人類に新生の道を!」
キールの言葉にゼーレの議員たちからシュプレヒコールが一斉に上がった。
「人は新たな世界へと進むべきである。その為のエヴァシリーズだ!」
キールがそう宣言すると、会議室のモニターには各国のネルフ支部に点在する輸送機にくくりつけられたエヴァ量産機たちの姿が映し出される。
輸送機は日本のネルフ本部に向かってゆっくりとしたスピードで飛び立つ。
それを見たゼーレの議員たちから歓声と拍手が上がり、キールはゆっくりと席から立ち上がり、熱い視線に見送られて会議室を退出して行く。
「素晴らしい演説でした、キール議長。私も心を動かされましたわ」
白衣を着たドイツ人の女性科学者がキールに端正な笑顔で話しかけた。
キールは彼女の言葉に眉一つ動かさずに答える。
「エルデ・ミッテ博士、世辞は要らん。ところで例のツェントル・プロジェクトの機体は完成したのか?」
「ええ、ウラジオストック基地に既に運んでありますわ。専用機を用意しました、お乗りください」
エルデ博士は自信たっぷりに笑いを浮かべ、キールと共に議長専用機に乗り込んだ。
その専用機はかつて米国の大統領専用機と同じ愛称でゼーレ内では呼ばれている。
専用機は、『God's
in his heaven. All's right with the
world.……神は天に在り。世は全て事も無し』と書かれたネルフのシンボルマークが外されていた。
かつて、ノストラダムスの大予言で、1999年7月に人類が滅亡されるとされていたが、実際に宇宙より飛来したのは隕石一つだけであった。
しかし、死海に墜落したその隕石は普通の物では無く、オーバー・テクノロジー……すなわち超技術の塊だった。
その中にはこれから人類に起こりうる出来事を記した予言書もあり、それは『死海文書』と呼ばれた。
これに興味を持ったのは古くから存在する権力者と資産家が集いつくられた秘密組織ゼーレ。
人類補完計画の旗頭として新たにキールが議長になった。
「議長自ら日本に赴くとは驚きでしたわ。チルドレンを依り代に使えば済む話ですのに」
「未熟な子供たちでは完全なる補完を行う事は難しい。だが俗欲にまみれた大人にも任せられん。私ならば真に平等な世界を作ることが出来る」
専用機に乗り込み、ゆっくりと座席に腰を下ろしたキールは向かいに座ったエルデ博士に話しかけられ、そう答えた。
「私は誰が神になろうと、一向にかまいませんわ。私が望むのはあの子の成長だけ……」
「我ら人類は汚れ無き存在で迎えなければならないのだ。審判の時を。悪く思うなゲンドウ。私はただ人類という『種』をどうしても守りたいのだ」
うっとりと妄想に浸りはじめたエルデ博士を無視して、キールは視線を窓の外に移しそう呟いた。
『ウラジオストック基地まで4時間で到着、さらに1時間後には例の機体が起動可能です』
キールとエルデ博士への報告のアナウンスが機内に響いた。
<ネルフ本部 大会議室>
ゲンドウはゼーレからA−801が発令されたとの連絡を受けた。
これは特務機関ネルフの特例による法的保護の破棄、及び指揮権のゼーレへの移譲を意味する。
A−801はゼーレからネルフに対する降伏勧告である。
降伏勧告をはねのけ、ゲンドウは全職員に退避命令を出した。
しかし、突然の理由無しの退避命令に不服を唱え、ネルフ本部に留まる職員も数多く居た。
ゲンドウは残った職員を大会議室に集め、撤退をするように説得することにした。
大会議室の席に着いたオペレータのマコト、マヤ、シゲルの三人は他の職員同様、ネルフの今後がどうなるのか推測して話しあっている。
「使徒はいないのに、どうして警報が発令されるの!?」
「僕だってわからないさ」
「結局、俺達は大事な情報は知らされていなかったんだな」
ミサトは高い壇上から職員たちを見下ろしながら、一人思いを巡らせている。
「出来損ないの群体としてすでに行き詰まった人類を、完全な単体としての生物へと人工進化させる補完計画か、まさに理想の世界ね。そのためにゼーレはエヴァを使うつもりなんだわ」
大会議室に職員の集合が終了したとの報告を受けたゲンドウとコウゾウはゆっくりと司令室を出て行く。
「先生、行きましょうか」
「人は生きていこうとするところにその存在価値がある。それが、エヴァに残ったユイ君やキョウコ君たちの願いだからな」
大会議室の壇上にゲンドウとコウゾウが姿を現すと、職員たちは私語を止め、室内は静まり返った。
「これからゼーレの軍隊たちがこのネルフ本部へ攻め入ってくる。目標はセントラルドグマにあるリリスと接触することだ」
突拍子もないゲンドウの発言に機密情報を知らなかった一般のネルフ職員たちは息を飲んだ。
耳を疑ったものも多かった。
「我々ネルフの軍は対人戦闘には慣れていない、その道のプロであるゼーレの軍隊の手にかかれば、ネルフ本部の防御網など無力に等しい」
「そしてゼーレの部隊は女性や非戦闘員など関係なく、容赦の無い殺戮を行うと聞いている」
ゲンドウとコウゾウの発言に、あちこちで悲鳴が起き、会議室は少し混乱が続いたがゲンドウの咳払いで辛うじて落ち着きを取り戻した。
「だから君たちはここから逃げて、生き延びてくれ。最後の私の命令を聞いてほしい……」
そう言って頭を下げるゲンドウに、席に座っていたマコトが立ちあがって叫ぶ。
「待ってください、それでは司令はどうされるのです!」
「私は……自らの手で大切なものを守り切れなかった無能な男だ、その事をやっと思い知った。もう……生きる事に疲れたのだよ」
ゲンドウは顔をうつむけさせてそう吐き捨てた。
「だが私にはネルフをここまで引きずってきた責任がある。こうなった以上、単身でセントラルドグマに向かいリリスと共に自爆をするしかあるまい」
「そんな……司令、おやめください!」
ゲンドウの決意の言葉を聞いたマコトの叫ぶ声に続いて、大会議室に居る他のネルフ職員たちも口々に叫ぶ。
「司令、あなた一人責任がとれるほど、ネルフは軽い存在ではありません!」
「我らはネルフの一員、どこまでも司令と共に参ります!」
職員から湧きあがる声に、ゲンドウはそっと目頭を押さえる。
「……わかった、残りたいものはここに残れ。だが、無駄に死んではならん……非戦闘員の白兵戦はできるだけ避け、セントラルドグマまで後退できないのなら投降せよ」
「司令……」
「総員、第一種戦闘配備!」
ゲンドウの号令とともに、ネルフ職員たちはときの声をあげて大会議室を出て行く。
もちろん退避する職員もいたが、半数以上の職員は逃げずに配置に着いた。
壇上から退出する職員たちを見送っているゲンドウたちの耳に、警報が鳴り響いているのが届く。
リツコは共に行こうとするマヤを押し止め、一人でMAGIの機心ルームに向かう。
「MAGIの自律防衛は私と”母さん”に任せて。マヤは発令所で状況を職員のみんなに報告してあげてちょうだい」
MAGIはドイツ・中国・アメリカ第一・第二・ロシアの支部から同時にハッキングを受けている。
ゼーレがネルフに対しMAGIの占拠を企てたのだ。彼我の戦力は5対1。不利は否めない。
「まずいな……MAGIを取られたら本部の施設はほとんど機能しなくなるからな」
コウゾウは焦った表情を隠さずにそう言った。
「無駄な抵抗になるのかもしれないのにね。バカなことをしていると思う?母さん」
MAGIの機心ルームでリツコはそう呟きながら、必死にキーボードを打ちつけている。
ピピピピピ ピーーーーーッ
モニターに映し出された、MAGIの状態を示す映像がオール・グリーンになる。
「奇跡は何度でも起こるものなのね。ありがとう、母さん」
リツコがそう呟いたころ、発令所のオペレータ席に座っているマヤは嬉しそうに声をあげる。
「MAGIへのハッキング停止しました! ファイアーウォールを展開、これで外部からのアクセスは不可能です!」
「MAGIは前哨戦にすぎん、奴らの目的はセントラルドグマへの直接侵攻だからな」
コウゾウがそういうと、マヤの表情はまた暗くなった。
マコトとシゲルは自分の銃の調子を確かめている。
「相手は同じ人間なのに……撃つことができるの?」
マヤは二人の様子を見て話しかける。
「むざむざと殺されるわけにはいかないしな」
「私、人なんて撃てません」
「俺もそう思ったが、君を守るためなら仕方が無いさ」
「青葉君……」
ゲンドウは側に控えていたミサトに声をかける。
「至急、病室に居るシンジたちを避難させてくれ。連中の本命がエヴァの占拠ならまず、パイロットが狙われるはずだ」
「……!」
その言葉を聞いたミサトは息を飲んだ。
そしてすかさず発令所のオペレータ席に座っているマコトに声をかける。
「日向君。戦闘の指揮をお願い。ネルフ職員の命、あなたに預けるわ」
「……はい」
力強く返事をしたマコトに安心を得たミサトは体を発令所の出口に向けるが、再びマコトに呼び止められ振り向いた。
「あの……ミサトさん。戦いが終わったら一緒に食事でもどうですか?」
「そうね、一回ぐらい行っても良いかもね」
ミサトは穏やかな笑顔で答えると、再びシンジたちの居る病室に向かおうと発令所の出口へ向かう。
すると、出口の近くで下を向いて立ちつくしているネルフ諜報部員、剣崎キョウヤを発見した。
「……ゼーレとネルフのどちらに着くのか悩んでいるの? 剣崎君にはその答えが分かっているはずよ。でなければ、ここに留まってはいないはず」
ミサトの言葉に、キョウヤはハッとして顔をあげてサングラス越しにミサトを見詰める。
「生きる意味を失っていた自分を拾ってくれた司令に報いることが全てだったな……」
「じゃあ、発令所のみんなを守ってあげて。ここはネルフの戦闘における生命線と呼ばれるところよ」
「……ああ。加持、俺は親友を……お前の夫を……撃った」
「今は、目の前のことだけを考えて」
ミサトは辛そうに顔をそむけて走り去ってしまった。
キョウヤは自分の軽率な発言に顔をしかめたが、気合を入れ直し、武器を構えた。
<第三新東京市 第壱中学校 シェルター>
ミサトはアスカの病室に居たシンジ、アスカ、レイ、ヒカリを連れて、授業が行われている第壱中学校に向かった。
ミサトが元担任、現副担任を務める2−Aの生徒は全員チルドレンの候補生だった。
チルドレンはゼーレに命を狙われているため、全員保護する必要がある。
また、比較的警備が薄いので、兵数が少ないゼーレの部隊に目をつけられやすいと判断した。
ネルフに関係のない生徒は直ちに帰宅させ、2−Aの生徒たちは中学校の地下に隠されていたシェルターに集められた。
その入り口をミサトとネルフ保安部隊が固める。
「……ホンマにゼーレって軍隊がやって来るんやろか?」
「俺たちのクラス全員が、エヴァのパイロットの候補生だったなんて……」
「私たちは全てが終わるまでここでじっとして居るしかないのね……」
「大丈夫、ミサトはとっても強いんだから、どんな敵が攻めてきてもギッタギタよ!」
落ち込むトウジたちをアスカが明るく励ました。
しばらくすると、本当にゼーレの部隊が攻めてきたらしく、外が騒がしくなる。
「さすが加持特佐。あなたの奮戦振りを見ただけで敵は手出しを止めたようですよ」
「いいえ、まだ敵は侵攻の機会をうかがっている。油断はできないわ」
警備にあたっているネルフの保安部隊の口ぶりからうかがえるように、襲撃したゼーレの部隊はほとんどミサト一人に蹴散らされていた。
「ミサト先生すごーい!」
「かっこいい!」
シェルターの中から外の様子を映しているモニターを見て、クラスメートたちは歓声をあげる。
シンジたちは一刻も早く戦いが終わる事を願っていた。
「父さんたち、大丈夫かな……」
「エヴァはダミープラグで起動させる予定だと、おじ様は言ってたわ」
シンジとアスカが不安そうに呟く中、レイは暗い顔をして黙ってうつむいていた。
「でも、やっぱり僕たちが動かした方がエヴァは何倍も力を発揮するし……エヴァ量産機は9体も居るんだろ?」
「いいのよ、戦いは大人の仕事! っておじ様が言ってたでしょう? エヴァの中のおばさまも、ママも、そう思ってるわよ」
シンジとアスカの言い争いはエスカレートしてきた。
「僕は、父さんやネルフのみんなに任せてここで震えているなんて嫌だよ! 僕が逃げたせいでみんなが死んだりしたら……」
「違う、シンジは逃げてなんかいないわ! 今まで頑張ったじゃない、使徒は最後まで倒したんだし!」
「そんな事無い、まだ敵が残っているじゃないか、どうしてアスカはそうやって他人事で居られるんだよ! 父さんも、母さんも戦っているのに!」
怒るシンジに、アスカは涙を浮かべて強く抱きつく。
「アタシは、シンジを失うのが怖いのよ! ミサトだって、リョウジさんを失って悲しんでいる! アタシはそんな辛い思いしたくないよ……」
「アスカ……でも僕は……後悔をしたくないんだ。エヴァに乗っても負けてしまうかもしれないけど、乗らないで後悔するよりずっといい!」
お互いに抱き合って涙を流すシンジとアスカに、レイは覚悟を決めた表情で話しかけた。
「お兄さん、お姉さん、ネルフ本部に戻りましょう。私たちで司令やネルフのみんなを助けるの」
「うん……わかった」
「……こうなったら、やるしかないわね」
シンジとアスカは涙を手の甲で拭って、レイを見つめ返した。
シェルターの中から姿をシンジたちにミサトは驚く。
「……ネルフ本部に戻りたいですって!? バカなこと言わないで。だいいち、私がここを離れたらクラスのみんなを守りきれないかもしれないのよ?」
怒ったミサトににらまれて、シンジたちは下を向いて黙ってしまった。
「葛城先生、碇君たちを連れてってあげてください」
「根府川先生!?」
ミサトの声に驚いてシンジたちが振り向くと、後ろには穏やかな微笑みを浮かべる担任の老教師、根府川先生が立っていた。
「ここは私が引き受けますから、加持先生は乗ってきた車でエヴァ量産機が来る前に彼らをネルフ本部へ」
「……え?」
根府川先生はミサトのぼう然とした様子を見ると、物陰から様子をうかがっているゼーレの隊員へと接近して行く。
「奥義・春の舞」
彼の呟きと同時に、標的となったゼーレの隊員Aは跳ね上げられて、空中で木刀で滅多打ちにされ地面にたたきつけられる。
命に別条はなさそうだが、どうやら気を失ったようだ。
「奥義・夏の嵐」
今度はゼーレの隊員Bが何も攻撃ができないうちに連続で突きを入れられ、突き抜けた後さらに背後から突きを入れられ、前のめりに倒れる。
その動きをみたゼーレの隊員たちはさらに離れて行く……。
「根府川先生……あなたは……」
「根府川先生とは、私の授業を聞いた生徒たちが勝手につけたあだ名。私の名前は惣流マゴロクと申します」
驚くミサトたちにマゴロクは穏やかな笑みを崩さずに話した。
「惣流マゴロクって……アスカのお祖父さん?」
「嘘っ、アタシ、小さいころに会っただけだから分からなかった」
「得体のしれない老人を、ネルフが2−Aの担任にするわけないではないですか」
シンジとアスカも驚いてぼう然としていた。
2−Aのクラスメート全員が同じ心境だろう。
「さて、邪魔ものをどかしますので、加持先生はその隙に脱出してください」
「行ってくるわ、グランパ」
マゴロクの言葉に頷いたミサトは、シンジとアスカとレイと一緒に車に乗り込む。
「さあ、我が最大の奥義を食らいなさい! 奥義・冬将軍!」
車の進路上に居たゼーレの隊員たちは蹴散らされ、ミサトたちの乗る車はネルフ本部に向けて走っていく。
「……お兄さん、お姉さん、嘘をついてごめんなさい。ネルフのセントラルドグマにあるリリスの欠けた心。それは私。一体化すればみんなを救えるかもしれない。でも本当のことを言えば、みんなはきっと私を止める」
レイは誰にも聞こえないような声でそう呟いた。
<ネルフ本部 第一発令所>
ゼーレの部隊はネルフの職員が点在する末端の施設には目もくれず、ただひたすらに第一発令所への道を直進していた。
ゲンドウはネルフの職員たちに抵抗をすることを禁じていたが、ゼーレの部隊の前に立ちふさがろうとするネルフの保安部員もかなりいた。
ネルフの施設の一室でも、出撃しようとする男性士官とそれを引き止めようとする女性士官の姿が見えた。
「横田一尉、わざわざ死にに行くようなマネは止めてください!」
「ミズホ、俺は無駄死にをするつもりはない。一人でも、いやそれが無理でも腕一本でも、ゼーレの奴らを道連れにしてやる」
横田一尉は出口のドアの方を振り向き、ミズホ二尉に背を向けて言う。
「俺は父親として、お前とそのお腹に居る子供の二人の命を守るために出なければならない……」
「横田一尉! 神田二尉のためにも、あなただけでも残って……!」
「……それ以上言うな、みんな行くぞ!」
横田一尉に声を掛けた若い男性士官たちと一緒に部屋を退出し、横田一尉の小隊は発令所に通じる通路を守る。
しかし、ゼーレの部隊は金にものを言わせて各国の特殊部隊、それには戦略自衛隊も含まれる、のエリートを引き抜いてつくられた部隊だ。
現れたゼーレの部隊は横田一尉の小隊を蹴散らし、奥へ奥へと進んでいく。
通路のさまざまな場所に、ネルフの職員の遺体が転がっている。
「……シンジ君、アスカ、レイ。……気をしっかり持つのよ」
遅れてネルフ本部に突入したミサトは、その凄惨な光景を目の当たりにして後ろに居るシンジたちに声を掛けた。
シンジたちは口を手で押さえながらミサトの後へと続いて行く。
ショックを受けて立ち止まっている暇は無かった。
アスカとレイは足がすくみかけているシンジの腕を引っ張り進んでいく。
一方、第一発令所の入口の側に居る剣崎キョウヤの元にもゼーレの部隊はたどり着いていた。
戦闘の技術については両者とも互角だったのかもしれない。
だが、発令所の入口を守るキョウヤの気迫は鬼気迫るものがある。
迫りくるゼーレの部隊を奮闘して撃退して行くキョウヤ。
「冬月先生、後は頼みます」
「碇……俺は戦うのには年を取り過ぎた。……行っても足手まといになるだけだな」
発令所の司令席の側に立っていたコウゾウは、そう呟いてため息を吐き、武器を構えてキョウヤの元に向かっていくゲンドウの背中を見送った。
入口を守るキョウヤにも疲れが見え始めた頃、後ろから人がやってくる気配に振り向くと、そこにはゲンドウの姿があった。
「……司令」
「さあ、キョウヤ君。侵入者を蹴散らすぞ」
ゲンドウとキョウヤの攻撃により、発令所の間近に居たゼーレの兵士は全て倒れ伏した。
物陰から出て来た新たな気配にゲンドウとキョウヤが振り向くと、息を切らせたミサトとシンジ、アスカ、レイの姿があった。
「シンジ……なぜお前がここに居る」
ゲンドウが低い声でそう尋ねると、シンジたちは力強く返事をする。
「僕は……初号機パイロット、碇シンジです!」
「同じく……弐号機パイロット、惣流・アスカ・ラングレー!」
「……零号機パイロット、綾波レイ……」
その頃、発令所ではリツコの指揮の元、ダミープラグによるエヴァ三機の起動が行われていたが、エヴァは起動する気配が無かった。
「だめです、エヴァ三機とも起動しません!」
「何て事なの……!」
マヤの報告に、リツコは拳を握って悔しがった。
「ダメよリツコ、ママはアタシ達を待っているんだから」
アスカ達が姿を現すと、発令所は騒然となった。
そしてシンジ達が乗りこんだエントリープラグが挿入され、エヴァ三機は起動された。
「エヴァ量産機、ロシア方面から日本の領空内に入りました!」
マヤの鋭い声の報告と同時に、発令所の正面モニターには陣形を整えた輸送機にぶら下げられた9体のエヴァ量産機が映し出される。
そして、中央に自律浮遊する黒い人型兵器を見て、リツコが驚きの声をもらす。
「ツェントル・プロジェクトのX-MODEL試作機、メディウス・ロクス……完成していたのね……」
エントリープラグの中でその映像を見ていたアスカは、シンジに通信を入れる。
「……いよいよね」
「うん……僕たちの子供のためにも、頑張らないとね」
「バ、バカっ! 聞かれたら誤解されるじゃないの!」
「僕たちの子供世代って意味だよ!」
「あーら、二人ともお盛んね。ごちそうさま」
ミサトの突っ込みに発令所に軽い笑いが起こった。
しかし、次の瞬間司令席に戻ったゲンドウの大きな声が響き渡る。
「圧倒的に不利な状況だが、我々は何としてでも勝たねばならない。……チルドレンのために!」
「「「「「チルドレンのために!!!!!」」」」」
ゲンドウの声に続いて、発令所にいた全てのメンバーが復唱した。
迫りくる9体のエヴァ量産機とメディウス・ロクス。これから最後の戦いが始まる。
未来の行方はキールに託されてしまうのか、それともシンジ達が阻止できるのか?
まだそれはわからない……。
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